超短編!(令和〜) | ナノ
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いっそ涙など枯れてしまえば

長年飼っていた飼い猫が死んだ。そもそも老猫であったし、数週間前から元気がなかったのでお別れの日は近いかも…と覚悟はしていた。だから死んでしまってもたくさん泣くことはなかった。私の膝の上で丸くなり、苦しむことなくまるで微睡むように命を終えられたことは良かったなと思う。あのコは私の膝の上が大好きだったから。冷たい床やベッドではなく、お気に入りの場所で頭を撫でられて逝けた。中々の長い時間を、始めから終わりまで寄り添っていられた。だからあのコは人生に満足できただろう…と私は思っている。
ある日、ぽかんと空いた膝の上をぼんやり見つめていればエースがそこに自身の頭を載せてきた。「今度はおれの特等席にする」。そう言って私を見上げて笑った。私はあのコにしてあげていたようにエースの黒髪を梳いて、それに笑い返した。その日は気持ちよく晴れた、暖かな日だった。

今、私の膝の上にはルフィがいる。
目を閉じた彼は、すうすうと小さな寝息を立てながら眠っていて、私はそんな彼の黒髪を見つめていた。すると、止まったと思った涙がまた溢れ出て目の前をぐしゃりと歪めた。はらはらと落ちる涙はそして頬を伝ってルフィの顔にぽたぽたと落ちてしまう。ふ…と声を上げて目を薄く開けたルフィは、「悪ィ。ねてた」、掠れた声をあげながら手を伸ばし、私の涙を指先でそっと拭った。

「もう泣くなよ。今はおれがいる」
「そうだね。でも…」

止まらなくて…。
そう言って、やはりはらはらと涙を落としながら無理に笑ってみせればルフィは起き上がって私の頭を撫でてくれた。

あの日みたいに気持ちのいい暖かな日、エースは事故にあった。
あまりに突然の出来事で、以来私はずっと泣き続けている。

馬鹿…
エースの馬鹿…

気付けばそう呟いていた。
それを耳にしたルフィはへへ…と笑い、いいぞもっと言え、と私を煽った。
「天国に届くように言えよ」
「バカー。エースのバカーー」
「…なぁ?何で…死んじまったんだよクソエース。いつまでたってもこいつの事こんなに泣かせやがって…。おれが側にいても笑わねえし。許さねえ…。生き返ろ。生き返って、一発殴らせろ…」
「…は、はは…。殴らなくて、いいよ…」
「いや、そうしねぇと気がすまねえ。ああ、一発じゃ足りねぇよ。二発だ。いや、三発…、四発殴らせろ!!!」
「まて。おれ、死んでねーし」

…と、ルフィの台詞がヒートアップしたところで側にあるベッドの上から呆れ声がした。
「お前らうっせーなぁ…」
包帯ぐるぐる巻き状態のエースが寝転んだまま憎々しげにそう言った。ちなみにその声はガラガラにかれていて、怪我人というよりまるで病人である。

昨夜不慮の事故にあったエースは、搬送先の病院に運ばれて麻酔注射をされるまでずっと痛い痛いと騒ぎ続けていた。尚且つ、知らせを聞いて駆けつけた私もそれに合わせて泣き喚いていたのだから病院側からしたら結構迷惑だっただろう。

「ほんと、エースってばバカ!!心配したし!心配したし!」
「っつーか、ルフィ!そいつの膝で寝るなよ!腹立つわーおれの目の前で」
「だーって眠かったしよォ。おれ、さっきまで家で寝てたんだぜ?」
「だからって人の彼女の膝枕で寝るなんてあり得ねーだろ!?」
「そもそもエースがふらふら歩いてたのが悪いんでしょ??!だから事故になんて合うのよ!」
「車の方がおれに寄せてきたんだよ!」

ぎゃあぎゃあ。
パニック状態から一旦落ち着いていたはずの私たちは、そしてまたうるさく騒ぎ始めてしまう。

「…トラックに跳ねられたとは思えませんよ。…丈夫な方ですねぇ」
「いやあ、それだけが取り柄の男なんです」

そんな明るくなった?病室で、「すいません。すぐに静かにさせますので」、苦笑するサボがお医者さんとそんなやりとりをしているのが聞こえた。


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