超短編!(令和〜) | ナノ
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あなたは夜に窓から現れる

私たちメイドの間でサボ様の人気は凄まじいものがあった。
何故ならサボ様はクズとしか言えないあの両親の子供とは到底思えないくらい優しくて気高くて、そして、美しい青年だったのだ。(ステリーは空気)
だから、そんなサボ様のお世話をしたくてメイドたちは日々争っていたりする。そんなことサボ様は知りもしないだろうけれど、私たちは朝食のお世話は誰が行くかで毎日揉め、昼の散歩に付き従うことを執事に賄賂を渡してまで懇願し、彼の側で午後の紅茶を入れることを望み、湯あみ後の着替えなんてお手伝いしたすぎてけが人が出るほどの喧嘩になる。
特にサボ様の部屋の不寝番は一番人気だった。この屋敷では家人に対して一晩中メイドや執事が一人付く。もし夜中に何事か言われてもすぐに対応できるように、だ。クズな両親たちからはやれ足を揉め、それ酒を持って来い、急に腹が減った…など酷い注文が多いがサボ様は違う。寝間着に着替えて眠りにつくまでの間、窓際に座り本などを優雅に読む彼は決してそんなことは言ってこない。ただひとつを願ってくること以外は。

「窓際に一本、ろうそくを立てておいて欲しい」





「いい子に待てたね」


ある日。私がサボ様の不寝番を担当した日の、その明け方。
明け方と言っても空が白み始める随分前の時間、まだ世界がすっかり暗闇に包まれている頃に。サボ様は現れれば私の頭をそっと撫でた。
闇夜の中、窓枠に手をかけ、サッシに足をかけ、屋敷の側に生える大木からひらり、部屋へと移ってきたサボ様は寝間着ではなく外出着を着ていて、ビロードの絨毯の上に降り立てばそれについていた埃や木の葉を優雅な仕草で払った。
サボ様からはタバコやお酒や料理の匂いがして、それは彼が部屋を抜け出して外で何をしてきたのかを物語っていた。
「エースと会って話したよ。全く、外の国は酷い状況だ」
サボ様は聞いてもいないのにそう語り、脱いだ上着のポケットから「お土産」と言って小さな包み紙に入ったチョコレートらしきものを出せばそのまま上着ごと私に寄越した。この外の匂いが染み付いて汚れた上着が他の者に見つかれば厄介なことになるのは嫌でもわかる。それはそれを持っている私にも言えること。「困ります。サボ様」。だからいつものようにそう告げるとサボ様はフフ…と悪戯っぽく笑えば私を抱き寄せた。君ならできるよ、と耳元で囁いてそのままチュ…と耳たぶにキスを落としてくる。びくん、と跳ねた私の身体を可笑しそうに笑って今度は両手で頬を包み、次いで唇にキスを落としてきた。なら御褒美をあげよう。そう告げながら。
だからサボ様の衣服をクリーニングしてこっそりクローゼットに戻しておくのはいつのまにか私の得意技になった。上手くできたらもっといい御褒美をあげるよ、と。そう言われてしまったら誰だって抗えない。


「ねえねえ、夕べはサボ様の部屋にいたんでしょ?いいなあ。何かイイコト、あった??」

仕事を終えた私のそばに他のメイド仲間が寄ってきて羨ましそうにそう言った。
不寝番に人気があるのはサボ様の眠る姿を見続けることができるからだ。その顔を思い出しているらしい、うっとりとした顔をするメイドたちは、サボ様が実は完璧な貴公子でないことを知らないし、いつか戯れに何かあれば…という思いがあるのだろう。でもいつもサボ様は本を閉じた後はおやすみ、と告げてベッドに入れば静かに眠るだけなんだそうだ。
帰るための目印用にろうそくを頼み、窓から飛び降りて暗闇の中へ消えていくのは、どうやら私が担当する日だけのことらしい。
それはきっとある意味サボ様の策略なのだろうとそう思う。けれど私はまんまとそれに嵌っていて、その他大勢のメイド仲間の前、この特別感を心の中に隠し満ち足りた気持ちになっている。


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