ワンピ短編 | ナノ
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 錬ackstage

このお話はフラッシュモブや花火後メッセージを否定するものではありません!ローならばきっと…というものですので何卒ご了承ください!




「はい、先輩。ワンツーワンツー」

ペンギンが真剣な顔して手をパチパチ叩いて拍子をとった。俺はそれにぴし…と顔に青筋が立つのを感じた。この場に流れる軽快な音楽もそれを助長させた。
「俺が躍る必要あんのか?」
ギロ…。
そしてそう言いながらペンギンを睨みつけると、彼はそれをふいっと逸らして「まー。その方が感動度が増しますけどね」と言ってきた。そう言われたら思わずム…と、更に口から出そうになった不満を飲み込んでしまった。



長く付き合った彼女、リコとの結婚を意識し始めた春。

何故そう思い始めたかなんてもう思い出せもしないけれど、このままずっとリコと一緒にいても何も問題はなく、むしろ心地いいだろうという未来は不思議と予測できたので、だからそのきっかけなどはどうでもよかった。
だが、さてどうやってその事をリコに告げようか…という事には少々悩んだ。
何しろ初めての事態。本やら雑誌やらドラマやら映画やら、はたまた周りの友人やら知人やらからそれに至る経緯と実際行った行動を知識や伝聞で知ってはいるけれども、それをそのまま自身らに当てはめて使えるか?…というと疑問だった。何しろリコは割とクールだ。女特有のキャッキャッとした雰囲気はほとんどなく、ベタベタした行動も嫌ってあっさりとしているし、何より頑固で強情な部分が強い。そして泣かない。
そんなリコに、例えばシャンパンに指輪を沈めたものをバーでサーブしてもらうだとか、食後のデザートのケーキを割ったら中に指輪が入っていただとか、どこか夜景のきれいな場所で跪くだとか…そんな事をして喜ぶ姿なんてちっとも想像がつかない。けれど、だからと言って家で普通に過ごしているときに「結婚するか…」と、「テレビのチャンネル変えるぞ…」的に言ってみるのは何となくつまらない気もする。何しろこの5年ほとんどずっと穏やかな波の中を航海し続けたみたいに特に起伏なく過ごしていた間柄なのだ。なんとなく…ちょっとした驚きみたいなものは与えてやりたいし、俺も欲しい気がした。

…とまあ、そんな具合で頭の片隅でプロポーズの事を日々考えている矢先、後輩のペンギンとシャチがそんな俺を見かねて妙な提案をしてきた。彼らは俺がリコとの結婚を意識していることはもう随分前から知っていた。二人はニヤニヤと笑いながらタブレットを取り出し、その映像を俺に見せて『これやりましょうよ』と言ってきたのだ。…フラッシュモブ。眩暈がした。…何なんだこの無駄に壮大で恥ずかしいばかりでしかない行為は。俺には参加者の精神がおかしいとしか思えなかった。
「本気で言ってんのか…」
「リコ泣かしたいならコレッスよ!」
「…」
そう言われて俺は思わず口をつぐんだ。俺が常々あいつはいつだって泣かない…と零しているのを奴らはよく知っているのだ。
「だって先輩、こういうのしそうにない人種じゃないスか!そこを敢えてやる!そしたら、もうギャップ萌えッスよ!リコ100%号泣ッス!」
「…」

そう言われて何となく納得してしまい、ペンギンとシャチの声掛けで集まってくれたダンス好きと共に始まった練習。けれどスキップすら今までの人生でまともにした事ない俺がランニングマンやらクラブステップやらロックザボートやら…。そんな奇怪なステップなど到底できるわけもなく、というかあまりにできなさすぎる所為なのかやる気がさっぱり生まれてこず、するともう最終的には『先輩もう最後歩いてくるだけでいーッスわ』と言われてしまった。その時の二人の呆れた顔…。俺は苛々してその日の練習を早めに切り上げてリコの家へと帰った。

…そして、そんな苛々した気持ちのまま過ごしていたら些細なことで喧嘩。
トイレの蓋くらい「わかった」と言えば済む話であったのに、苛々していた所為でか思わず抵抗してしまい、するとリコの頑固さがその日どういうわけか特に発揮されてあっという間に俺的に泥沼。

キツイ言葉と共に言ってしまった「かわいげがない」…なんて台詞。言いたくなんてなかったのにそう思っても時すでに遅し。リコはぷいっと顔をそらして頬を膨らませていた。あー…。決行日まであとちょっと…という時に…。

そして更に苛々しているとペンギンとシャチがニヤニヤしながら現れた。「先輩、プロポーズのその日、花火あるじゃないッスか!もうこれに賭けましょーよ!花火後にメッセージッス!」。そして雑誌のページを開いて俺に見せつけてきた。『花火と共に大切な人に思いを届けよう♪』。また眩暈がした。またしても意味不明且つどうしてそういう事を不特定多数がいる中大音量でアピールしたいと思えるのかその考え自体理解できない。けれどペンギンは真剣な顔で「これもギャップ萌えッスよ!」と力強く言った。「はい、先輩。募集要項ッス!」。シャチが雑誌の一部をはさみで切り取って渡してきた。


そして迎えた当日。
ポケットに隠しておいた指輪は先に見つかるわ、花火後のメッセージアナウンスやフラッシュモブがあり得ないよね!…と笑い飛ばされ、且つキャンセルの電話が繋がらずに確定したこの後の地獄。

けど…リコは最後にはきれいな涙をぽたりと零した。
あんなに笑い転げてお腹がよじれる!なんて言っていたが、俺が改めて渡した指輪を見てぐんにゃりと顔を歪め、そして「えへへ」…と。それこそ今までで一番と言っていいくらい愛らしい顔をして…泣いたのだ。
「嬉しい」
…と。

ほんのり赤く染まった顔をして、限りなく透明な色をした涙の滴を恥ずかしげに隠しながら拭き取るリコを見れば、ああ、これが見れたのならもう今までの事全部まとめてまぁよかったじゃないか…と思えたから不思議だった。終わりよければすべてよし、か。そう思いながらそんな彼女に俺もふ…と笑い返した。…が、その後にあり得ないことが起こった。


「まぁ、先輩がプロポーズしたらどんなシチュエーションであれリコ絶対喜ぶッスよ」
ニヤニヤしたペンギンとシャチがそんな俺に近づいてそう言ったのだ。「だーって、リコ、先輩の事マジ本気で大好きッスからね!」「…」。俺は二人をギロリと睨みつけた。


要するにアレかお前ら俺に不必要でしかなかった事をいかにもな顔してアドバイスしていろいろさせて混乱困惑奮闘してる俺見て楽しんでたってわけかオイもうこの後テメェら殺して勤め先の病院に献体してやるから覚悟しろ。







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ローさんのMMDを見てからというものの、「彼は踊れる」…という認識が頭から離れない!

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