ワンピ短編 | ナノ
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意地悪を少々

玄関のチャイムの音がしたので、お帰りなさーい!…と言いながらそこへと向かうと途端に目の前に花束が現れた。視界の全部が赤や黄色や白で満たされると共に、甘くて強い香りが鼻腔をくすぐる。「え!」と思わず小さく声を上げた。花束の後ろから「プレゼントだ」というぶっきらぼうなローの声がした。

ばさり。
無造作…というよりも、彼らしからぬ優しい仕草でそれを渡された私は「え?」…ともう一度声を上げてしまう。…あげてしまって、そしてすぐにこの突然のプレゼントの意味を理解してははーんと顔を意地悪くにやつかせてしまった。ローは靴を脱ぐといそいそと洗面所へと赴き、手を洗いながらきょろきょろと顔を動かしている。

「やましいことがあるのね?」
「…は、はぁ?」

抱えた花束の向こう側にいるローに笑いながらそう言ってやった。手を洗い終えたローは、途端にその顔を一瞬だけ焦らせた。目が泳いでもいる。「何言ってんだよ」。すぐさまその目をそらしながらそう言うローだけれど、私はそれらの一瞬の変化を見逃さなかった。

「誕生日でも記念日でもない。それなのに花束?いつもはこんなことしないよねー」
「…別に。たまたま花屋できれいだと思ったから…」
「ふーん。花屋なんて見向きもせずに歩いてる人が?」
「…今日たまたま会社で花の話題が出てきて…」
「ふーーん。今日は朝から出張だったんじゃなかったっけ?」
「……しゅ、出張先で話題になったんだ」
「ふーーーん。出張先って、確かどっか北国にある施設で裏方作業だって言ってたよね??話す相手いたの?」
「………た、多少は人がいて…」
「ふーーーーん。昨日確か人がいないのは気が楽だとか言ってたよね??」
「…………い、いたんだ」
「…」
「…」
「……」
「……」
「…で?何しでかしたの」
「……あーーー。クソ…。……悪ィと思ってる!」


誤魔化そうと頑張っていたらしいローだったが、私の猜疑心いっぱいの瞳を一身に受け続けた彼はついに観念してがくりと肩を落としつつ謝罪めいた言葉を言ったので笑った。
そして私は、彼が慣れない花束を買ってきてまで私の機嫌を良くさせて、彼の失態に対する、私が言うであろう非難を軽減させようとするその「原因」を知っているので心の中で更に笑った。

笑いながら、花束で隠れてしまっている手のそれを、指先でそっとなぞった。
ローが朝洗面所の片隅に置いたままにして行ってしまったソレ。見つけて思わずくすりと笑いながら私はそれを中指に嵌めた。少し緩いんだけれど、難なくおさまったそれと共に私は今日一日過ごしていたのだ。隣同士ならんだそのプラチナを時折眺めるたびにローの顔を思い浮かべてにやりと笑った。…その時想像した顔と、同じ顔したローが今目の前にいる。



「指輪失くした…かもしれねぇ」
「うそ!!!大変!!信じられないーーーー。私たちの愛の印が!!!!」
「……悪ぃ……」
「まだ結婚して1年も経ってないのにーーー!!失くすなんてありえないーーーー」
「………ゴメン…ナサイ」
「え!?聞こえないーーー??」
「……ごめんなさい」
「あはは!」

項垂れた彼に二回も普段はほとんど言わない謝罪の言葉を言わせると、なんだかおかしくなって声を上げて笑ってしまった。ローはそれに小さく顰め面しつつも「クソ…。確かにあそこに置いたと思ってたのに…」…とブツブツ言いながらも焦りの表情はそのままに目をうろうろさせていた。

「…見つからなかったら…。どうしてくれよう…」
「…お、同じのを買いに行こう」
「そういう問題じゃなーい!私悲しい!!新しい物で解決しようとするなんて!」
「あああ。クソッ!!」

ローはぐしゃぐしゃと頭を掻いて、更に困った顔をしていた。ふふふ!私はまた心の中で笑った。


さあて。いつ、私の手にあるこの指輪に気が付くかしら??今彼はもう一度洗面所に行って這いつくばり、目を皿のようにして失くしたと思いこんでいるコレを探していた。多分この後は寝室やらリビングやらにも赴いて捜索しまくるだろうから、それは大分先の話になりそうだ。


そう思いながら、意地悪な私は苦笑しながらもう一度手の中の花束の匂いを吸い込む。
いい匂い。
私が好きだと言っていた花をきちんと覚えていて、ローはそれを買ってきてくれているから…やっぱり私のほうからこの手にある指輪の存在を教えてあげよう…かな?


「あああーー。クソ!…スキャンとかできればいいのに…」


ああ、でも。
もうちょっとだけ子供みたいに困ってるかわいい彼を見ていよう…かな?だって、こんな彼、滅多に見られないんだもの、ね。


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