ワンピ短編 | ナノ
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それは避けられない運命でした

「はいはいはーい!皆さん投票ありがとう♪今日から生徒会長を務めます、ポートガス・D・エース!以後よろしくってことで、はい解散!って…あ、そーかまだメンバーいたんだわ。ごめんごめん。アッハッハ」


調子のいい声がマイクを通して体育館に鳴り響く。
檀上で手をふりふり、いっぱいの笑顔でそう言った彼にくすくすと集まった生徒たちの笑い声が漏れ聞こえた。

そして私はそれをふるふると震えそうな拳をなんとか気合で抑えつけつつ聞いていた。本当は今すぐにでもこの手を振り上げて彼の事を檀上から引きずりおろし、もう一度メンバー選抜をやり直すよう抗議したい。けど、できるわけがなかった。私は彼ほど度胸や人望があるわけじゃないし、そんなことをしたら一気に目立ち、余計な事をした…と生徒全員から非難されてつまはじきにされてしまうだろう。…そんなことになったら、これからの高校生活が一気に地獄と化してしまう!

しかし!!

こんな奴が生徒会長、だと!?ふざけているにもほどがある。奴は…、奴はまだこの高校の1年生なんだぞ!!ついこの間この校門を桜吹雪と共にくぐったばかりのピッカピカの1年生なんだぞ!?やった合格した、これから楽しいハイスクールライフが始まるぞって、スタートラインに立ったばかりの人間なんだぞ!!??
なのに何故!


「はーい。じゃあ、次ね。副会長のご紹介〜。はいこっち来て!こっちこっち。俺の右腕、リコちゃん!」


そして腑に落ちない感情を必死に抑えつつ、俯いて固まっていた私の腕をほとんど強引に引っ張って立ち上がらせたのは他でもないポートガス。
やっぱりニコニコと笑いながら、もう何が何だかわからない状況で足がまともに動かせない私をぐいぐい引っ張って彼は私を檀上のマイクスタンドの前へと誘導していった。

…私はやっぱり抗議したい。

どうして私も奴と一緒に体育館の檀上サイドにいるのかを…。
何故、奴と同じくピッカピカの1年生である私が生徒会副会長に選ばれてしまったのかを…。

そもそもだ。
何故、何故に…。

奴も私も2人とも立候補すらしていないのに、何故会長と副会長に選ばれてしまったんだ!?


「はーい。以上で生徒会メンバー全員の紹介終わりってことで。今度こそ本当に解散!はいお疲れ様でした!」


私の記憶は途切れ途切れで、気がついたら奴のおちゃらけたメンバー紹介は終わり、どこか遠くの方から生徒たちが拍手する音が聞こえてきた。
私を引っ張っていた奴の腕はいつのまにやら私の肩に回されていて、少し顔をずらせば奴の顔は超至近距離にあることがわかった。

めまいがする。
いや、めまいどころじゃない。意識が飛んでしまいそうである。

奴は「いやー参ったよね。急に会長だなんてさー」なんて、別段そうでもなさそうなトーンで明るく言うと、ぐいと身体を折りまげて私を下からすくい上げるように見つめると
「これからよろしくな〜リコ!」
…と、そばかすの浮いた顔をニィイと綻ばせてそう言った。





「ともかく、だ」


目の前にいる先生は、はああ…と何度目かわからないため息を吐きながら私の両肩にバンっと手をおいた。
息が相変わらずタバコくさい。ついさっきまで吸ってたな、スモーカー先生。

「ともかくも…だリコよ。頼りなのはお前だけだ。頼んだぞ。…本当に頼んだ。あのポートガスに任せていたらこの学校は無法地帯になっちまう。お前が副会長なのが唯一の救いなんだ。頼むぞ。…立候補してねぇ奴が大多数の票集めて会長なんて今までにねぇ異常事態だ。しかも1年生。何なんだ今年は…。もう本当にお前しか頼れるやつがいねぇよ。なあ…。頼むぞ」

先生。
もう思考回路がまとまらないのか「頼む」ばっかり何度も言ってますよ。
それに…
「先生、言っておきますが私も立候補していない…からの副会長ですからね」
その事もきちんと付け加えておかなくては…。

「ああ…。いや、もうお前の場合は立候補とか関係ねぇよ。お前が当選してよかった。うん。…リコ。くれぐれも頼んだぞ」
「はあ…」

スモーカー先生は頭をがしがし掻くと、ほとほと疲れたように職員室の椅子から立ち上がった。
ぐるりと部屋を見渡せば、スモーカー先生と同様に「頼んだぞ!」的な視線が各先生から投げかけられて、私はうんざりと席を立つ。
まったく、入学して初めて入った職員室の入室理由がこの件だとは…。私は頭が痛くなるのを感じながら失礼しました…と部屋を出た。


5月になろうとした矢先の出来事だった。
今年の生徒会を決めるから投票してくれ、と。先輩たちのことはよく知らないだろうが、投票前演説を聞いて決めてくれればいいから…と。
この日担任のスモーカー先生はだるそうにそう言った。
そして私はそれを他人事のように聞いていた。
しかし…ふたを開けてみると、それは全く他人事ではなくなっていたのだから有り得ない。


『生徒会長は獲得票数…さ、さんびゃく!?342票!1年2組、ポートガス・D・エース君!?…で、です!!』


その日進行役の3年生のうわずった声と共に、体育館の生徒全員がおおーと驚きの声をあげた。
と同時に、私の斜め前であぐらをかいて座っている名前を呼ばれた張本人は『えー?何で俺?』とあくびまじりにそう言った。
私は呆れかえってその様子を眺めていた。仮にもこの高校の生徒代表である生徒会メンバーをこんなふうにおもしろそう、という好奇心だけで決めちゃうなんて、と。

『ポートガスさん、…ど、どうぞ檀上へあがってください』

そう呼ばれると、奴はへーいと間の抜けた返事と共にすっと立ち上がった。

着崩した高校指定の物ではない白いシャツにだらしなく結んだネクタイが揺れる。
スラリと高い背に、同じく高校指定ではない黒パンツからは裾をまくりあげているせいでくるぶしが見えてしまっていた。外はねした黒い髪に、そばかすの浮いた頬。
そしてエース君おめでとう!!と、黄色い声援をあげた女子たちに向ける屈託のない明るい笑顔。
さんきゅーとそれに奴が手を振れば、女子たちは更にキャーと声をあげて、やっぱすげーわお前…という男子生徒たちの笑い混じりの声もした。

要するに…。
奴は、この学校の人気者だった。
もののひと月しかこの高校に通っていないというのに、同級生はおろか、彼はすでに上級生にも気に入られているご様子。
それは主に女生徒がメインなのだが、男子生徒にも彼のあっけらかんとした明るい性格を気に入った人達が大勢いるようで。だからであろうか…なんと彼はこの高校の歴史上初、過半数以上の票数を集め、立候補無しの会長当選という偉業(?)を成し遂げたのだ。

しかし!
明るくて楽しそうな奴だが、見るからにチャラくて不真面目そうな彼が生徒会長になっただけでは先行きが不安である…という至極もっともな思考は全ての生徒にはあったらしく…。

『では続いて、副会長…って、ええーー!?同じく獲得票数342票で…』

…と。そこで言われたのが私の名前で…。何故か私が…、何故か私が!歴史上これまた初、同数の票を集めて立候補無しの副会長当選という事故だろ…!と思うしかない事態がこの度起こったのであった。

『ハァア!??』

私はその時思わずそう叫び、進行役の生徒を思わず凝視して彼を怯えさせてしまった。



「お前は真面目だ。本当にこちらが心配するほど真面目だ。それは融通が利かないほどに、だ」
「それ褒めてませんよね。むしろなんかけなしてますよね?」

職員室に呼ばれた時、スモーカー先生は開口一番そう言った。

「他の生徒も当然わかっていたんだろうな。アイツのストッパーにはお前が適役だ、と。皆きちんとわかっていたんだろう。うん。よかった。本当にそれだけが救いだ。…今日は…一体何が起こったんだ?俺にもわからん。説明してくれ。おい、そもそも何で今日選挙することになったんだ?おい!ヒナ!」
「先生…、もう頭渋滞しててうまくお話しできてませんよ」

職員室の中にある応接室に通され、座るよう促されるとなんとお茶すら出されて。
持ってきてくれたヒナ先生は少し憐れむように私を見て「いろいろと…、頼んだわよ。ヒナ期待」と湯呑を置いた。

そしてその後、前述したとおり何十回も頼むぞ…と先生に言われ、私は職員室を出て廊下をため息とともに歩いていた。

まるで初夏が訪れたかのように気温の高い晴れた日なのに…有り得ない事態のせいで気分は少しも高揚しない。
本当ならこの日はナミちゃんとケーキ食べに行こうねって約束していたのに…。スモーカー先生の突然の呼び出しでその約束も反故になってしまった。


「おーリコ♪待ってた」


…するとその時声がかかった。
一瞬無視しようかと思ってしまった、ひと際明るい能天気なその声。
発した人間なんてすぐに特定できて、私は舌打ちしそうになるのを必死でこらえる。

「あ!エース君、バイバイまたね」
「お♪マリンちゃん、今日もかわいーじゃん。バイバーイ」

けれど、通りすがりの美人上級生に声をかけられ、私がせっかく足をとめて奴のほうに向いてやったのにポートガスはあっさりと美人のほうへ身体を向けて笑顔でひらひら手を振っていた。しかも見つめ合っている時間が長い!上級生はウフフとそれに嬉しそうに笑い、そして私をちらりと見て少し冷たい目をするも、すぐにまた綺麗な笑顔を浮かべ短いスカートをひるがえしながらその場から消えていった。

「…何か用?」
「ん?何か顔、怖くねー?どしたの?」
「早く用件を言ってくれない?私もう帰りたいから」

思いきり不機嫌な顔でつっけんどんにそう言う。しかしポートガスはそんな事全く気にもならない感じで「帰るんなら、歩きながら話そうぜ」とやっぱり明るい笑顔で言った。

「嫌。今言って。私一人で帰りたい」
「えー。俺も帰るところだし、ならついでに一緒に帰ろうよ。話もできて一石二鳥じゃね?」
「私一人で帰りたい…って言ったの」
「なんでだよー。会長副会長の仲でもあるじゃんかー。早速さー、次の集まりの議題でも決めようぜ!な?」

ガシガシガシ

こちらの意思をまったく無視するポートガスはそして躊躇なくその手を私の頭に乗せると、そのまま犬にするみたいにワシワシとそこを撫でてきた。おさげがその振動でゆらゆら揺れた。

「よ!さっそく夫婦ゴッコしてんのか?ポートガス」
「副会長さーん。コイツ、頼んだよ〜。しっかりサポートして楽しい企画考えてくれ!」
「なーにが夫婦だお前らーうっせーな!さっさと帰ればーか」

するとこの光景をからかって、知らない男子生徒がわははと笑いながら走り去っていく。
私はかああ…と顔が熱くなるのを感じた。
本当に本当に、生徒会役員をやめたい理由がもうひとつ浮上している。それは…。それは…だ。それは今日の事故のようなメンバー選出直後から、私たちが皆から親しみをこめて(?)「夫婦」と呼ばれているからだ!


『俺ら、皆ででっけー家族みたいな感じでやってこーぜ!俺、親父!なーんてな♪ははは』


マイクスタンドを通したデカい声でエースは所信表明なのか、そう言った。会長は親父、ならば副会長はお袋か?って一体誰が言い出したんだか。その瞬間から会長副会長はイコール夫婦…ということでみんなの意見がどういうわけかまとまってしまったのだ。もう更なる事故だ。玉突き事故だ。彼氏すらいない私が、恋人を通り越して「夫」ができてしまっているんだぞ!?もしも私を好きな男の子がいたら、こんな風にからかわれてたら告白もしてもらえなくなるじゃないか!!

そう思うと私は途端にいたたまれなくなり、依然としてからかい続ける男子生徒とそれに煽られて対応し続けるポートガスを振り切るようにその場から走って逃げた。

選挙結果に抗議してやり直しをさせたとしても、私はきっと皆に面倒くせぇ奴…とかなんとか言われてジエンド。諦めて役員を受け入れても、こんな風にからかわれ続けてジエンド。…というわけで、どっちにしろ私の高校生活はお先真っ暗になるらしい。
その事実に泣き出したくなりそうなのを必死で堪え、私は急いで靴箱のあるエントランスに駆け込んでローファーを引っ張り出した。
明日からどうやって生活しよう…。
辛くなったら仮病でも使って休もうか?…ああ、でもそうしたらスモーカー先生に怒られるかな?…いや怒られはしないか。必死の形相で頼むから学校に来てくれ!…と家に来て懇願されるほうが現実っぽい気がする。一緒にヒナ先生も来たりして。まさかとは思うけどセンゴク校長も来ちゃったりしたら…あはは、おもしろいかも。あ、あはは…。

「おーい!待てよっ!リコーー」

そして泣きたいんだか、おかしな未来を想像して笑いたいのか、口角を下げたり上げたりしてわけのわからない状況になりかけた時奴はやってきた。
猛ダッシュしてきたのか奴の息は上がっていた。

「お前足はえーよ!追いつかねーかと思ったわ。おっと、靴、靴っと」

履きつぶしたスニーカーに足をねじ込みながら、ポートガスはにっこり笑う。きっと私が奴から逃げた…なんて少しも思っていないんだろう。その顔はまるで邪心のない、屈託のない笑顔。
そして奴はぽんっと私の頭に手のひらを置くなりやっぱり犬を扱うみたいにぐわし!とひと撫で。体育館といい、さっきといい、彼は必ずスキンシップを織り交ぜてくる。

「とりあえずさー。明日か明後日、メンバーで集まろうぜ。んでさー、今後の方針決めようぜ」
「…」

彼は笑顔を浮かべたまま、楽しげにそう言った。


この後もう一度逃げたとしても…。きっと彼は、その長い脚ですぐに私を追いかけてくるのだろう。…何しろ奴は私が副会長を全くやりたがっていないことに、少しも気づいていないだろうから。
私は目の前のポートガスをじっくり眺めてみた。
そのだらしない服装とへらりと笑った顔に…どうしようもなく…苛々した。
だから…残念だけれど私自身こう思った。
こいつをしっかり制御していけるのは、私がやっぱり一番適任だ、という事が…。


「ポートガス…」
「なに?」
「とりあえず、あんた」


私は彼の正面に立ちキッと顔を睨みつけると、びしっとそいつを指差した。


「その校則違反だらけの恰好を明日からなんとかしろや!」
「んぇ?」
「服は指定の物を着て!あんたのお母さん、全部用意してたでしょーが!!何でそれ着ないの!?あとそのブレスレットやネックレスも外せ!!それに遅刻もすんじゃない!今日もしてたよね?16にもなるってのに情けないわ!…まずはそこからよ『会長』さん!!」
「えぇー」


どうせやるなら…。
私は決めた。決意した。
どうせやるなら…やるならきちんとやってやる。もうとことん徹底的にやってやる。誰にも文句の言われない完璧な生徒会活動をしてみせるし、コイツにもさせてみせる!残念ながらこれはやっぱり私の避けられない…運命なんだ。
…うん。…もう。…私は…諦める。

「いいわね!絶対だからね!わかった?エース?!」

ぶつけるように言った台詞に、最初はあんぐり口を開けてぽかんとしていたエースだったが、やがてその顔はゆっくり元の笑顔に戻っていく。

「りょーかい!わかったよ。…『副会長』さん」

そしてニシシと笑って頷いた彼。
その長年見てきた彼の降参と言わんばかりの苦笑いに、私は高揚感を少しだけ…ほんの少しだけ得ることができた。


外の太陽は眩しくて、夏はあっという間にやってきそうだ。


「じゃー、家まで歩きながら続き話そうぜー♪」


そして夏みたいに明るい気性の、我が家の近くに住んでるこの男は、やっぱり屈託のない笑顔でごくごく自然に私の隣に立った。
…それはやっぱり今後も私が彼をお守りしていく日々の始まり、であった。


Actually,
We are
childhood friends♪



「にしても、二人で帰るの久々だな〜リコ!前はいっつも一緒だったのにな〜」
「幼馴染って事思い出させんな!!…ハァアア何でバレたんだろー隠してたのにィイーー。私絶対その所為で副会長させられてるに決まってるんだよー」
「何でだろうな〜!不思議だよな〜!(…隠し通せると思ってたのがスゲェ!)」



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