超短編!〜平成 | ナノ
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とある日、冬島にて。

とある日私が台所でシチューをかきまわしていると同居人の二人が帰って来たのがわかった。
ちらりと見た彼らの顔に擦り傷がいっぱいあって身体が泥だらけなのはいつものことなので敢えて指摘はしないでおこう。
けれど、彼らが私の様子をうかがいながら隙をついてテーブルに置いてあるパンやおかずをこっそり取っては袋の中に隠しているその行為には目をつぶれない。

「何してるの?また何か拾ったんでしょ!」

私がすかさず後ろに振り向いてシチューのお玉を突きつけると気づかれていないとでも思っていたのか二人はびくん!と肩を浮かせて慌て顔。私は彼らにずんずん近づくと背後に隠してあった袋を奪い取って中身を確認し、盛大に眉をあげつつ二人を睨みつけてやった。

「あのねえ。毎回言ってるけどわたしたち犬とか猫とか飼ってる余裕ないんだよ??わかるでしょ?貧乏なの!貧・乏!!明日のご飯のお金すらままならないってのに何で拾ってくるかなあ??」
「ご、ごめん。でも今回はちょっと事情が…」
たじたじしながら二人のうちの一人がそんな言い訳。でも私が「何?!」と言い返すと困ったように黙りこくった。この町じゃ手の付けられない悪ガキってことで通ってるらしいけど、私の前じゃいつも彼らはこんな感じ。

「事情なんてどうでもいいの!お金持ってる優しい人が拾ってくれると信じて元の場所に返してきなさい!」
「いや、でも、あのさ。今回のはいつものと違うくて」
「いつもと違うって何なのよ!それに今日もまた派手に喧嘩して傷だらけになっちゃって!消毒液や包帯代もばかにならないのわかってよね!毎日喧嘩ばかりしてないでいい加減にちゃんとした働き口を見つけてきなさいっ!それにパンもおかずもふたつずつ入れてるってことは二匹なの!?二匹も拾うなんてあんたたち馬鹿でしょ!?何考えてんのよもう!」
「二匹というか…あの…」

そうまくしたてると二人とも目をうろうろさせつつ、けれど何でだかいつもみたいに「わかった」とは言わなかった。
おかしいな。ここまで私が責め上げると降参してくれるはずなのに。もしかしてよっぽどかわいい顔した犬か猫を拾ったのだろうか?
私は彼らが始終気にする家のドアの向こう側をひょいと見てみた。
ドアの隣の窓からは雪をまとった寒そうな風がびゅうびゅう吹いているのが見えたので、確かにこの季節に外で動物が捨てられているのを見てしまえば保護意欲もわいてしまうかも…とついそう思ってしまう。
けれど、先ほど述べた通り我が家は貧乏、家計は火の車。
私は口を閉ざしてもじもじする彼らをもうひと睨みすると、こうなったら自らの手でその捨て犬(か猫)をどうにかするしかない、とドアへと向かう。「あ!」「ちょ!待って!!」。すると慌てた二人が私の行為を止めようと手を伸ばした。けれどぴしゃりとその手をはねのけてバーン!冬島特有の分厚く作られた家のドアを思い切り開けた。



「…これはどういうことかな??ペンギン君、シャチ君」



そこで見た光景に私は思わず目を丸くしながらそう言った。
「いや、だから。今詳しく説明しようとしてて」
「二匹じゃなくて、その、ひとりと一匹…ってことでちょっと言いづらくて…」
「何言ってるの!早く中へ運びなさいよ馬鹿!!」
「「ご、ごめん!」」



私がドアの向こう側に見たものとは。それは寒さでガタガタ震える傷だらけのミンク族のシロクマと、薄汚れた布をぐるぐるにまいて寒さを凌いでいる一人の小さな男の子だった。
しかも男の子は今にも倒れそうなくらい青白い顔と、ところどころ肌を不自然に白くさせた…一目見ただけで何かの病気にかかっているとわかる子だった。
それでも構わずに手を伸ばして彼のおでこに触れてみる。そこは信じられないくらいに…熱い。

「ペンギン!この子をベッドに寝かせてあげて!シャチは早くドア閉めて!!クマさんは暖炉の側に来て!!」

私は早口で命令すると、家にあるありったけの毛布を持ってきて男の子が横になったベッドにそれを重ねた。薪を今日ばかりは節約の二文字を忘れてどんどん暖炉へとくべ、部屋を暖かくする。
その合間に熱い飲み物を作ってシロクマさんに渡すと彼はエーンエーン泣きながらそれを受け取って怯えながらも「ありがとう」と言って飲んでくれた。でも小さな男の子はぜえぜえ荒い息を吐きながら側にいる私をぎろりと睨みつけた。
私とたいして歳の変わらない子供のくせに、病人のくせに、ぎらぎらと怒りに燃えた不快感でいっぱいの嫌な目をしたボロボロの男の子。

「おれに、構うな」
「何言ってんの。おとなしく寝てなさい」
「うるせえ。触ん、な」
「威勢がいいからとりあえずは大丈夫そうだね。外は寒かったでしょ?でもこれからもっと冷えるんだよ。今はここにいたほうがいいの!」

男の子の必死の抵抗にぴしゃりとそう言い放って私も彼を睨み返してやった。
そのまま冷たくしたタオルを無理矢理おでこに当ててやる。
彼は一瞬嫌そうにするも、フンと小さく悪態をついて目をギュッと閉じるとその後は黙っておとなしくなった。


これが私と彼が初めて出会った最初の日の話。
彼は名前をトラファルガー・ロー君と言って、どうやら私やペンギンやシャチ同様孤児みたいなものらしかった。
暖かい部屋で休んで少しだけ楽になったのか、ロー君は先ほどより元気になった声でぽつぽつと細切れにそれらしきことを語ってくれた。

「親は…いない」

暖炉の火がはぜるパチパチという音の中、厳しい目をしたロー君のその声は部屋の温度と正反対に冷たかった。

「帰る家もねぇよ」

始終とげとげした怖い雰囲気しかしないこの男の子。
果たして何者なのだろうとそう思った。
けれど、身体の至る所に真新しい傷をつけ、血で汚れて憔悴しきったその姿を見れば今は彼が落ち着くまでこのまま家においてあげてもいいか…と。そう思うことしかできなくて私は小さくそっとため息を吐いた。


「何があったの?」


ロー君の眠るベッドの側でそう聞いてみる。
ロー君は睨みつけるような鋭い目をしたまましばらく押し黙った後、私の背後をちらりと見遣ってぽつりと冷めきった声で言った。


「あの二人はお前の子分か?」
「え?!ペンギンとシャチのこと?あはは。子分じゃないけど、まあ似たようなものかな?何で?」
「ならよく躾けておいてくれ。あいつらいきなりおれに因縁つけてきやがった」
「え!?そうなの!その話本当??で、その傷なの?!ねえ!!!あんたたちっ!自分より年下に手をあげたの?!マジで?!」
「あ!あのねあのね!!あいつらおれのことも殴ってきたんだよ!?いきなり!バシって!棒で!」
「えええ!!シロクマちゃんのことも襲ったの?!んっもーーー!信じられない!」


ロー君とシロクマちゃんの台詞に、台所でいそいそシチューを食べていたペンギンとシャチはぎくりと身体を強張らせた。
私はゆらりと椅子から立ち上がると、腕を組みながら冷たい目で二人を見下ろしてやった。



「ちょっとあんたら。床に正座」
「あの!でも俺たちそいつにめっちゃ返り討ちにあったんですよ!?」




(続くかも)


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