超短編!〜平成 | ナノ
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連休を満喫したい人。

連休の初日。昼まで寝ていた私があくびをしながらポストに新聞を取りに行くと、突然にラミちゃんが現れてぺこりと私に頭を下げてきたので驚いた。

「これから出かけるところだったからちょうどよかったあ!面倒だと思うけど、今日からウチの愚兄よろしくっ!じゃ、バイバイ!行ってきます!」
「!」

寝起きで頭の回転は鈍かったけれど、その言葉を聞いた私はすかさずラミちゃんの腕をつかんで今にもいなくなりそうな彼女を捕獲した。話を聞いたところでもう嫌な予感しかしないけど。
「ちょっと待って。突然すぎて意味が分からない。今日からラミちゃんの両親が旅行でいないことは知ってる。うちの両親もその旅行に誘ってくれて同じく不在になったから私は数日ぐうたらできそうで非常にありがたいと思っているよ。でも待て。待ちやがれ。ラミちゃんはロー兄と家に残るはずだよね?何、その大きな旅行カバン。どこ行くつもり??ちゃんと面倒みてくれないとロー兄死んじゃうんじゃない?!」
「そう!多分3日もあればほとんど死んじゃうと思うの!あの人料理できないでしょ?それなのにコンビニご飯や外食は好きじゃないし、インスタントラーメンとか缶詰とか嫌がるしパンも嫌いだから飢え死に確定なのよ。だからよろしくってこと!」
「待たんかい!あんた一応妹でしょうが!両親不在なら兄の世話しなさいよ!」
「だーめーなーのー!私今日からカレシと旅行なんだもん!!ああ!そうだ!お母さんたちには内緒だよ??!こういう機会利用しないとお泊りなんてできないじゃん!ね?お願い!!お土産買ってきてあげるからあ!!」
「ハアァァ!?おおおお、お泊り!?というか、ラミちゃん、かか、彼氏いたの?!うそ!知らない!!何で教えてくれな…いや!待って!その前にラミちゃんもいなくなったらロー兄本当にどうなるの??死ぬよ?!死んじゃうよ?!前も一人残されて死にかけたことあったじゃん!!」
「でしょ?嫌でしょ?近所で若者が飢えて孤独死なんてかわいそうでしょ??頼れるのはお姉ちゃんだけなの!だから愚兄のごはんも一緒に作って食べさせてあげて!いい?頼んだからね!あ!おにーちゃん!私今から行ってくるからあ!おこづかいありがとー!!じゃ、今度こそ本当にバイバーイ!!」

そしてラミちゃんは思い切り私の手を振りほどくと、いつの間にやらのっそり現れたロー兄に笑顔を振りまき鞄を抱えなおしながらさっさと駅に向かって走って行った。ロー兄はというとニヤリとそれに笑って頷き、今度は私に向かってニタァ…。決して爽やかとは言えない気味の悪い笑顔を浮かべてくるのでその途端に私の顔は思い切り引きつった。プラス、背筋には極寒に近い寒気。
…というか、今さっき確かにおこづかいありがとう、と言ってたよねあの不良妹は。私はロー兄をギン!と睨みつけた。きっと…きっとこの兄が妹を家から追い出すためにも嬉々として軍資金を出してやったに違いない。まさか実兄が妹の外泊を手助けてしてやるなんて!本当に信じられない奴である。

「というわけだ。今日から世話になる」
「世話してあげるなんて言ってない。私はこの休日ゆっくりのんびり一人きりで一日中海外ドラマを見て過ごすつもりなの。視界から消えて。今すぐ」
「なら一緒に借りに行こうか。『ランニング・デッド』や『監獄ブレイク』か?あれは俺も見たかった」
「聞こえた?消えてって行ったの!ああもうヤダ。とりあえず今日はもう一度寝る。寝てやる。寝なきゃいけない。寝るしかないわ!」
「…そう言えば腹減ったな」
「んああぁああ!聞こえない聞こえない!もう知らない何も知らない!じゃあねバイバイ!おやすみなさい!」
「朝から何も食ってねえ」
「聞こえない…聞こえないんだ。それにロー兄は目の前になどいない。幻聴幻覚幻聴幻覚…」
「…冷蔵庫、空っぽにしておくって言ってたな…どうすりゃいいんだ…」
「…」
「できたてのおにぎり食いてぇなあ…」
「…」

ぽつぽつと語られるその声をきちんと拾えるこの耳の良さは正直少しも必要のない能力でしかない。
私は必死で聞こえないふりをしてロー兄に背を向けるとバタンと扉を閉めてしっかりとその扉を施錠する。
少しでも奴をかわいそうだ、と思ったら最後だと思うのだ。
互いの家族が家に在住していたからこそどうにか残されていたであろうロー兄のわずかな理性が今日から数日果たしてどうなるのかがわからないのだ。
だからあの変態ウォーカーには決して近づいてはならない。
そしてこの家という守りを決してブレイクされてもならない。


「お前の家、メシくらいは炊いてんのか?」
「うぎゃああーー!!しまった裏口ィイ!!」


しかし!すぐさまあっさりとロー兄は我が家に入り込み、慣れた動きでキッチンのものを物色し始めた。
「何もねえなあ…」
そして炊飯器を開けたり冷蔵庫を開けたりしながらボソッと呆れたように呟いてくるその言葉に最高に苛々しながら、私はお父さんのゴルフクラブの位置を頭の中ですぐさま確認した。
あとはハンマーや包丁や布団たたきやモップやら、なんやらかんやら、とにかく武器になりそうなものの位置、すべてを。

何かあったら絶対にそれらで防御…、いやもう思い切り攻撃してやらないと。そう思った。
ああ、なんで銃を所持しちゃいけないんだろう日本って!!
善良な市民である私がいきなりサバイバル生活突入であるというのに。
ある意味海外ドラマより酷いこの現実に私は深い深いため息をつくしかない。


「エプロン…。裸に…。なんてな。…ふ、ふふ」
「もう嫌だァアアア」


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