超短編!〜平成 | ナノ
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春を悦ぶ人。

自室の部屋に座っている私は、抱え込んだクッションに顎をのせスマホを操作しながらその画面をじっと見つめていた。
対して目の前のロー兄は部屋の窓から外をちらりと眺めると、お母さんの出してあげたコーヒーをすすりつつ「いい天気だな」と明るい声でそう言った。

「うん、ほんと、いい天気」
「これから服がどんどん薄着になっていくな。手首や足首の出た服をお前が着ていたら俺はムラムラしてたまらねェよ」
「はいはい。えーと、ヨーグルト…じゃないし、ラベンダー…でもなくて…っと」
「それに桜が満開だ。お出かけ日和というやつだぞ。お前とどこかに行きたくて俺はさっきからウズウズしている。だから今すぐその色気のねえ部屋着を脱いでどこかへ遊びに行こう!!!」

そしてそう言いながら今にも立ち上がらんとする。
だから私は画面を見つめたまま冷めた声でそれに返答した。

「ムラムラ・ウズウズじゃなくてその反応はムズムズ=Aでしょーが!!か・ふ・ん・しょ・う、なのロー兄は!!しかもかなり深刻な!」
「ああ。お前が愛しすぎて涙が溢れ出てくる」
「んー。ググっても試して効果なかったものばっかり出てくる…はいティッシュ…ん!?これは初めて見た。なたまめ=cか。ロー兄!!今年はこれにしてみようよ!なたまめ茶が花粉症にいいんだって!」
「…ああ、何だかお前の姿が見えなくなっていく…。一体どうした…」
「…。馬鹿なの?かゆみと涙で目が開いてないんだってば。ねえ!私これからドラッグストア行ってみるわ。なたまめ茶売ってるかもしれないから」
「俺はお前と花見に行きたくて…」
「もう!!家の中にいなさいよ!!外に出たらくしゃみ止まらないくせに何言ってんの?!!」
「だってお前の髪にくっついた桜の花びらを取ってやりたいんだ。ついてるぞって言いながら。で、その後…」
「はあ?何それ!ウザイしキモッ!!何のドラマか映画を見たかは知らないけど春先のロー兄はおとなしくインドア生活してろっ!!」

私はそう叫ぶとすがりついてくる勢いのロー兄をキックしてこの身から放し、財布の入ったバッグを手にしながら「ここにいてよね!」と釘を刺して部屋のドアをバタンと閉めた。

あー!もう!!
誰か頭のいい人が花粉症にメチャクチャよく効く薬作ってくれないかなぁ!!
あれこれ調べてもどれもまったく効果ないし、ロー兄ってばそれらを試すのいちいち嫌がるんだよね。どうせ効かないからって拗ねながら!!ああ疲れる!

私はため息を吐きながら、自分自身も外の空気に多少目をしょぼしょぼさせつつ桜の花びらが舞う中を近所のお店目指して愛用の自転車にまたがった。
ロー兄が花粉症の所為で、いつも4月は花見どころじゃない。


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