超短編!〜平成 | ナノ
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優しい気持ち

寒さがぐんと和らいで春になったと思った矢先、ロシナンテが風邪をひいて寝込んでいるらしいという間抜けな話を私は聞いた。
インフルエンザが大流行していた冬の真っただ中派手に転んで川へとダイブしていったり、タバコの火が燃え移って服が焼けたせいで雪山を長時間薄着状態で過ごすことになっても何ともなかったそんな人間が今になって風邪なのだから、何というか本当に…、安定のロシナンテだ。

でもそんな彼でも海軍の独身寮にて単身寝込んでいる状態を想像すると少しだけ不憫になった。なので私は仕事を終えると彼の部屋へと行ってあげることにした。明日は我が身かもしれない話でもあったので。

「ロシナンテ。大丈夫?開けてくれない?」

そう言いながら部屋のドアに手をかけてみると、不用心にも鍵がかかっていなかったから病気はかなり重症ということか。
入るよ、と声をかけがちゃりとドアを開けてみると、ロシナンテはほとんど何もないと言っていい質素な部屋のベッドの上にて赤い顔をしてぜえぜえ荒い息を吐いていた。それなのに彼ときたら薄い布団一枚きりを身体に巻き付けただけの状態だ。
「…もしかして夏のまま?」
呆れながら思わずそうこぼすと、その声でようやく私に気づいたらしいロシナンテが熱に浮かされた虚ろな眼差しををこちらへと向けながら「エマ…?」。目を見開きながらざらざらした声で私の名を呼んだので、ふ…と小さく息をついた私は買い物袋を床へと置いてそっと彼の側へと近づいた。

「何で今時期に風邪なんて引くの?本当にドジね」
「…な…んで?」
「気になって来ちゃった」
「だめ…。エマに…うつっちまう…」
「そうね。用事を済ませたらすぐに帰るわ」
「……」

ロシナンテは私の言葉に弱々しい笑顔を浮かべた。そして眉を下げながら「わるい…」と一言呟いて熱の所為でなのか潤んだ瞳を瞬いた。
そっと触れてみた額はかなり熱い。私は押入れを開けてもう一枚布団を見つけ出すと、それを彼へとかけてあげた。これでもっと快適に眠れるだろう。

「…さっき、考えてたんだ…」

すると、かすれた声でロシナンテが突然に小さくそう言った。「何を?」。私は毛布を整えてあげながら聞き返す。

「病気してひとりきりな俺の部屋に来てほしい人ランキング…」
「…ハハ。蛇姫様みたいな美人が来なくてごめんね」

ロシナンテの馬鹿みたいな妄想に私は思わず吹き出した。
でも、ロシナンテは私に「そうじゃ、ねえ」と言いながらふるふると首を振った。「来てほしいのは…」。そう言いながら、熱く火照った手がするり伸びて、そっと私の手に触れた。

「第3位が…いつもみたいに素っ気ないエマで、」
「…」
「第2位はちょっとだけ…おれに優しくしてくれるエマ」
「…」
「第1位は…」

ぜえぜえ…
その後ロシナンテは苦しそうな息をひとつ吐いて呼吸を整えると、私をじい…とまっすぐに見つめながら、いい歳した大人の癖に甘えた事を言ってくる。
それなのにその発言を馬鹿にする気になんて少しもなれないし、むしろ仕方ないね、と限りなく優しい気持ちにすらなれるのだから病人ってヤツはこういう時に得をする。

「…おかゆ作って食べさせてくれるエマ」
「はいはい。了解」



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