超短編!〜平成 | ナノ
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優しい気持ちA

「…ゲホ…」

何と風邪をひいてしまった。
今私はひとり暮らしの寮の一室にて高熱によりほぼ身動きが取れない状態にて床に臥せっている。
原因はきっと先日訪れた病人の部屋に思いのほか長居しすぎたせいである。というか、それ以外有り得ない。
寝床を整えてあげて、おかゆなんて作ってあげて、食べさせて。心細そうな顔から一変して嬉しそうに笑うから、彼の側で何てことのない仕事場であった出来事をぽつぽつと話してあげたりした。すると結果としてこのありさまだ。春先に風邪を引くなんてドジ…と告げた私の言葉がそのままブーメランとなって心に突き刺さっている。辛い。
そしたら何とその人が突然我が家に現れた。
チャイムが鳴ったのでフラフラしながら玄関のドアを開けてみるとそこには病人だったその人がすまなそうに頭を掻いて立っていた。
そして申し訳なさそうにしながら私の看病を申し出てきたのだ。

(…今一番来てほしくない人ランキングができあがった…)

ぼうっとする意識の中、せわしなく歩き回るロシナンテを薄く開けた瞳で見つめながら私はハァ…とため息を吐いてそんなことを考えた。

(…3位は……)
「あれ?…ここにも毛布ねえなあ。えーと、こっちか?…うっわ!!!ししし、下着なんて見てねえぞ!あわわ!じゃ、こここ、こっちかな!??」
あちこちと引き出しを開けてはここにもないあそこにもない…と中身を引っ張り出して部屋中を私の衣服で散乱させていくロシナンテ。
どうやら毛布を探し当てたいらしいのだけど、彼は未だにそれを見つけられていない。

(…2位は…)
「そうだ!その前に氷嚢作ってやるよ!水と氷…っと…うわぁ!冷たッッ!ああああ!!!氷がっ!水がっっ!!」
バシャーン!
つるりと滑って手から落ちていったたくさんの氷。それに慌てたロシナンテは次いで蓋の空いている氷嚢もろとも派手に転んでそのまま中身をぶちまけた。あー…。床がびしょびしょになっている。

(…そして、堂々の1位は……)
「ギャーーー!」
「…」

彼の悲鳴が聞こえるので首をその方角へと捻ってみると、コンロに置いた鍋の底より大きな炎が火柱を上げていた。
何故こんな事になるのだろうか??
明らかに我が家のコンロの能力を超えた火力を彼はいとも簡単に生み出しているのだ。…本当に不思議でしかない。
部屋は燃えていなさそうだからそれだけはよかったと言うべきなんだろうけど、それにしても何と言うか…。ロシナンテという人間のドジ加減はいつだって安定しすぎている。

「ごめん…鍋焦げちまった」

そして彼はとぼとぼと私の側へと寄って来るとこれ以上できないくらいに眉と肩を下げていた。
「…」
いつもの元気な私であったらこんなことをした彼に嫌味のひとつやふたつを言ってやって、下手したら蹴っ飛ばしていたかもしれないそんな状況であった。…いつもなら。

「…も、…いい…から」

でも今は様々な彼の行動に苛々させられるよりもずっと、誰かが側にいてくれている安心感を心の底から心地よく思う私がいるのだから病人とはかくも気弱な生き物でしかない。
「ここ…いて、よ」
「え!えっ!」
しかもそれはロシナンテのような危なっかしい人であっても適用されている。

「…ん。…へへっ。りょーかい」

照れたようなロシナンテの嬉しそうな了承の声。
私は深い息とともにそっと瞳を閉じてみた。
衣擦れの音と共に空気が動き、ベッドの側へとやってきてくれたロシナンテがそっと床に腰を下ろす仕草が視界を閉ざした暗闇の中でもよくわかる。

遠慮がちに私のおでこに触れたロシナンテの手は思いのほか気持ちよくて自然と口角が上がっていた。
うん。
病人であることが…今日はそこまで辛くない。

そう思いながら、私はいつの間にか眠りについていた。


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