超短編!〜平成 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
エース君は悩んでいる

「おはよーエース」
「エースくーん、おっはよ〜」
「おう!っはよ」

いつだって、気づけば誰かから声がかかってた。

「次理科室だよなー?行こうぜ」
「ん!」
「え?宿題してないのー?じゃ、見せてあげるね」
「うっわ!サンキュ!!すげぇ助かる」
「今日放課後どっか行く?」
「あー、いいな。うん、行こうぜ」

そうであるよう努力するなんて今まで全くしたことなかったけど、ありがたいことにおれの側には常に誰かがいてくれた。そしてそいつらはおれにいろいろと話かけてくれれば世話も焼いてくれていた。

「エースくん。好きです。あの、付き合ってください」

しかも時には。こんな風におれのことを好きだと言ってくれる子がいたりするから、おれはそのたびに顔が赤くなって照れてしまう。
よく知らなかったり顔見知り程度でしかない女の子と付き合うことの意味がわかんねえからその申し出は断ってばかりなんだけど、自分を好ましく思ってもらえることは単純に嬉しかった。

「あーまたかよ!いいなあ畜生!」

そんなおれを男友達は羨ましがっていつもからかう。
でも何かされるとしたらそれだけで、恨まれたり妬まれたりすることなく終わるのだからおれってば幸せだよなあ…とそう思った。

「告白されてもいつも断ってんな〜。もしかして好きな奴でもいんのかよ?誰なんだ!?教えろよー!」
「エースくんのタイプの女の子っていったいどんな人なの?知りたーい」

休み時間や放課後になるとおれの席にすぐさまやってきてくれる友達たち。
身体に腕をまわされて頭をガシガシかきまわされながら。おれのとなりの席に強引に座ってきた女の子に大きな瞳で上目遣いに見つめられながら。
今日もおれはいつもの質問をされながら「んー」とあいまいな声を出していた。

すきなやつ

タイプ

その単語が頭の中でぐるり、ぐるりと回っていった。
巡らせたところでその言葉に変化なんて起こりはしないんだけど、でも、身体の中へと浸透もしていかないからその言葉はいつだって当てもなくおれの頭をひとめぐり、ふためぐり。

「じゃあ、先に帰るね。バイバイ」
「あ、うん!バイバイ、エマちゃん。また明日〜」

するとおれの席からかなり離れた場所でそいつ≠ェ誰かに向かってそう言った。
ひどくざわついた中にいてもそいつの声は何故かよく通ったから、おれはそれに顔をふ…と上げていた。
ちらりと視線を送った先のそいつはもう背を向けていたので笑った顔が見れたのはほんの一瞬。
そんな時、おれはいつも思うことがある。
あ…、今日もおれあいつと目が合わなかったわ。
そして。
今日も。
おれはそいつからただのひと言も話しかけられることなんてなかったなぁ…っていうことを。





いつだって声がかかって振り返れば誰かしらと目が合った。
ニコニコ笑っておれを見ている友達や女の子。
それは先生にも当てはまった。
「こらーポートガス!」
「おーいポートガス!」
名前を呼ばれて振り返れば目を吊り上げていたり、時には笑っている先生と視線が合って近づかれた。
その後は小突かれるだとか、そうでなければ、何かしらの用事を言いつけられるとか。
けどそいつとはそういうことが皆無、だった。
嫌われているとかじゃあないとは思うんだ。
そいつが話すことが苦手な物静かすぎる性格ってわけでもない。
たぶん、そいつにとっておれはどうだっていい存在なのだろう。
そいつの興味の対象の中におれという人間は入っていなくて、だから、彼女はおれに自ら話しかけてきもしなければ、視線を送ってくることもない。

「…」

最初はそんなこと何とも思っていなかった。
けれど、とある日・とある瞬間から、突然その事がどういうわけか妙な気がかりとなって俺の頭に居座り始め、そうなるとおれはますますそいつのことが気になった。
だからおれは事あるごとにそいつの背中を見つめることばかりを続けていて、いつかもしかしたら…なんてささやかな期待なんか抱きながら、友達や女の子に「どこ見てんの?」…だなんて言われたり。


「おっはよ!」
「おはよう、ルフィ」


そんなある朝、ルフィが明るい声をあげながら目の前を歩くそいつを追い越す際に肩をたたいて挨拶している姿をおれは見た。
するとそいつはふわっと笑ってルフィを見つめ、同じように挨拶してた。
んん?!
そしたらおれは気がついたんだ。

ああ成程!
おれも自分から声をかければいいってやつか!
そいつから声がかからないのなら、おれから言えばいいんだよ!

単純すぎる、他人が聞いたなら速攻で馬鹿にされそうなそんなアイデア。でも今のおれにとっては何だか名案中の名案で。
ならば即実行だな。
だからおれはよし…と意気込むと、すうっと大げさなくらい息を吸っていた。…でも。

「おはよー」
「おはよう」

そいつに別のやつが近づいて声をかけ、そいつがそっちへと顔を向けたので俺は吸い込んだ息をごくり…、慌てて飲み込んだ。
行き場を無くしたおれの言葉が胃の中でそっと静かに消えていく。
すると途端に、少しだけ腹の中が気持ち悪くなった。
だから、おれは自然と顰め面。

その後。そばを通りかかるとき、教室を移動するとき、お昼休みのとき、その他いろいろ、様々な瞬間で。
おれはそいつに何らかの声をかけようとするんだけれど、その度にどうしてだか失敗していくからおれは顰め面し続けるしかなくて、そして、ある瞬間にふと思った。

あれ?
何だろう。
わからねえ。

…だからおれは側にいたルフィをぐい、と掴んで引き寄せてそっと聞いたんだ。
ルフィはおれの質問に目を丸くした後、ぽかんとしながら「何言ってるのかわからんねぇ」って呆れてる。


「なあ。声をかけるタイミングって、いつなんだ??」
「んあぁ?」


prev index next