超短編!〜平成 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
誰か助けてくれF

ひさかたの 光のどけき 春の日に!

「――お前ら…」

この日、教室のドアが開く直前のロー先生の声はいつになく強張っていた。
その後慎重かつ遠慮がちにドアが開いて先生は中へと入ってきたのであるが、彼は足を踏み入れるなり目を見開いて「うわぁあああ!!!」。激しく叫んでのけぞって、その勢いで背中を教室の壁にどかんとぶつけていたので私たちのほうがびっくりして驚いてしまった。おいおいせんせー、どうしたのよ。

「せんせー、何やってんですか」

私が呆れてそう言うと、先生は驚愕の表情のまま私たち生徒全員を見渡して、「お前ら…ふ、普通じゃねぇか!!!」…と。何とそんなことを言ってくるので、私たちは先生に対しあらあらウフフ…と上品に笑い声をあげてしまった。

「普通って。当たり前じゃないですか、今日は卒業式ですもの。ねぇ?ビビさんナミさん?」

私は笑みを浮かべたまま、後ろにいる二人へと振り返りながら同意を求める。彼女たちは美しくかつ控えめな微笑みを浮かべてそれに頷いた。口を閉じて笑う…だなんて。この二人もやろうと思えばできるんだね、知らなかった!
ちなみに彼女らの長い髪は校則通りにきっちりと結わえられていて、いつもはつけたりつけなかったり、ついていたとしてもアレンジして巻く制服のネクタイが今日ばかりはきれいな三角形をして首元におさまっている。それは私も同様だ。もちろん、他の生徒たちも。
シャツや上着のボタンは一番上まできちんととめて、スカート丈は膝が少し見える程度に。ソックスは学園指定のハイソックスを。ピアスやネックレスといった華美で学業に不必要とされるアクセサリーは今日ばかりは家にて留守番!そしてなにより。今この瞬間私たち全員は、椅子に座ってしっかりと前を向いている状態だ。
ロー先生はこの光景に目を白黒させて驚いており最早声も出せないでいた。…まあ、そうだろうね。こんな風に私たちが真面目な服装と態度で先生を迎えているなんて、もしかしたらこれが初めてなのかもしれないんだもの。

「お、俺はてっきり今日は全員が裸同然の恰好で踊りだすんじゃねぇかと…」
「んま!ローせんせーったら思考が破廉恥!あたくしたちそんなことしませんわよねぇ?だって淑女ですもの」
「淑女?ハァ?笑わせんなよ…全く…。今まで散々ふざけた日々を過ごしてきたやつがどうしてそんな言葉で自分を形容できるんだ厚かましい」
「まあまあ、ローせんせー。過去のことはもういいじゃないですか。オホホホ。それより今日はあたくしたち、ローせんせーにお礼を言いたいんですのよ。ね?みんな??」
「はあ?礼?」
「そう!!全員起立!」

まだ朝イチだというのに何だか疲れた、疲れ切った顔をしているロー先生に頷いてみせて私は掛け声をあげた。皆が椅子を引くガタガタという音が一斉に響きわたる中、私たちは背筋をまっすぐに伸ばして立つととびきりの微笑を浮かべながら先生の方を見つめた。
こうやって、この教室でロー先生と顔を合わせるのは…今日で本当に最後になるんだね。ごほん!私は咳払いしてのどを整えると、ちょっとだけ感極まりながら口を開いた。

「私たちは今日卒業式を終えればこの学園の生徒ではなくなり、ここから離れることになります。でも、ここでの生活の事、そしてロー先生のことはこの先ずっと忘れないと思います。先生はどんな時でもどんなことをされても私たちを見放すことなくずっと担任を務めてくれましたね。そのおかげで私たちは素晴らしい学園生活をおくることができました。こんなに楽しい一年は多分今後二度と経験できないと思っています。先生は私たちにとって最高の担任、最高の理科の先生でした。一年間、本当に本当にお世話になりました。生徒一同、心を込めてお礼を言いたいと思います。ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」

両手を身体の前で丁寧に揃え、優雅に全員でお辞儀した。すると、その動きに合わせて皆からシャンプーだったり柔軟剤だったり香水だったり…。そんなフローラルな香りを含んだ空気が生まれて舞い上がり、この教室はまるで花園のようになる。

「…」

私はゆっくりと顔を上げてみた。そこにはやっぱり驚愕の表情を張り付けたままのロー先生がいる。
その顔は私たち全員を見渡せばゆっくりゆっくり奇妙な顔へと歪んでいって…そしてなんと!先生は急にくるりと私たちに背を向ければ、腰に手を当て顔をちょっとだけ上へあげていた。あれれ?もしかして、泣いてる??ふふふ。どうやら感動させちゃったみたいだね。でもね。本当のメインはこれから、なんだよ!!

「そんなローせんせーに花束をプレゼントしようと思いました」
「…、おぅ」
「でも、それじゃつまんないよねって話し合ったです。ねー?」
「「「「ねー♪」」」」
「…は?」
「だから、私たちにしかあげられないものをせんせーにプレゼントします」
「??」
「受け取ってください。みんな、行くよ!Are you READY?」
「「「「Yes☆We are♪」」」」

私の軽やかな掛け声とともに、皆は各々の制服のポケットに素早く手を差し入れた。
そこから出てきたのは何だと思う??それは、一人一人違う色をしたカラフルなリップスティック!この間皆で一緒になってお店へと買いに行ったんだよね。先生にはこの世にどのくらいリップの色番が存在しているかなんてきっとわかりやしないだろう。ものすごくたくさんのリップスティックが陳列された棚から私たちはそれぞれ先生のことを考えながら各自好きな色を選びとりこの日に備えていたんですよ。
私たちはリップのフタをとるとあの夏の日に先生が目にした下着たちよりもカラフルになるようそれを唇に塗り付けた。んーッマ♪ちなみに私のはまるで桜みたいなピーチブロッサム、という色だ。

私の声に訝ったロー先生が振り返りかける。「Go!」。その後の私の号令で、皆は我先にと先生へ飛びかかった。「ッうわ!!!」。そしてビビちゃんとナミちゃんがすぐさま先生の両腕を掴みつつ、予想外の事態で防御が遅れた先生から紺のスーツの上着を取り去れば、その後わらわらと先生へ群がった私たちがむき出しになった白シャツに降らせるの!30人分の、キスの雨!!

「ウギャーーー!」

途端に悲痛な叫び声があがったけど気になんてしない。
あ、ちなみに事前に頬や唇にはキスしない事!シャツオンリー!≠チていう協定を私たちは結んでいるんだよ。皆先生を心の底から愛しちゃってるから本当は生肌にキスしてあげたいトコロなんだけど、それだけは勘弁してあげないといけないよね!…だって校長にそれを見られて明日から先生を路頭に迷わせてしまったら……きっと私たちはそれに笑い死にしてしまうだろうから!笑!

「よーっし完了!委員長、最後の仕上げ、やっちゃって♪」
「OK☆せんせー、背中失礼〜」
「お前ら止めろーー!」

そして私は敢えて真っ白く残した背中の部分に、とびきり真っ赤なリップで大きく書いた。

We LOVE you,so much!!

…ってね。
これでまるで桜吹雪みたいなキスマークとラブレターの入ったワイシャツを着たロー先生のできあがり。
さあ、これから私たちにとって最後の学園行事、卒業式が始まるよ。
私たちはロー先生を見て「あはは!」と一斉に笑い声をあげると、ぐったりして死にそうな顔をした先生の手をとりほとんど強引に彼を体育館へと連れて行ってあげたのでした!


最後まで静心なんてなく、私たち花≠ヘここを去っていきますわ♪


先生、本当に、ありがとう。大好き!!






…その後


「…まだ脱がねえのかそれ?式の後でもらったんだろ、新しいシャツ。ああ、余韻に浸ってんのか。いい子たちだったもんな」
「…うるせぇ」
「ロー先生、ちょっといいかの?話があるんじゃ」
「何だよ、校長……って!!うわぁあああああ!!お前、どうしてまたここに!!それは中学の制服じゃねえか!なんでんなもん着て……って!!顔がなんか違う!!!」
「どーもこんにちは!姉がお世話になりました。わたくし、妹でございます」
「フォッフォッフォ。来年度からこの学園に入学するんじゃよ。姉同様主席でここに入学する優秀な子での。今日は入学式の生徒代表挨拶について打ち合わせをしておるのじゃ」
「あいつ妹もいたのかよ!三姉妹か!」
「あ、そうだ先生。先生、お姉ちゃんと付き合ってるらしいって本当ですか?お姉ちゃん絶対に彼氏の事教えてくれないから気になって」
「ああぁああぁぁあ…。妹、お前、こんな日にこんな場所で爆弾投下してんじゃねえよ付き合ってなんかねえわ。何でそんな話が出てくるんだよ馬鹿野郎がァアアア!!問題児のあいつらがやっと卒業したんだ!頼むから俺に平穏な環境を与えろッッ!!」
「えー、本当に??だってビビさんやナミさんが先生とお姉ちゃんはいつもじゃれあってるって言ってたし」
「うるせぇよ!!じゃれあってなんかねぇ!」
「えー」
「フォッフォッフォ。妹さん、先生をいじめんでやってくれ。本人は何だかんだずっと誤魔化そうとしておるが、実はもう周知の事実よ。健全な関係を守っておったのでワシたちは見守ってやっておったのじゃ♪」
「ホラやっぱりぃ!!」
「うぎゃあああ!!何だよそれは!!マジかよみみみ、皆知ってたのかよ…いつからだよ何なんだよそれはァアアア!!ああああ!」
「これですっきりしました♪お義兄さん、これからよろしくお願いいたします。先生が私の担任になるそうです」
「あああ!??!何が義兄さんだよ担任とかマジかよ!どうせお前も姉と似た性格してるんだよな??ま、またこれから地獄が…しかも三年も…」
「あ、ちなみに私たち三姉妹じゃなくてもう一人妹がいるから四姉妹です。妹は私の三つ下です。多分この学園に入学します♪」
「嘘だろ?じ、地獄…が六年…続くのか???……あああ、もう……」


誰か助けてくれ!



おわり!


シーズン2へ続……??


prev index next