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ある平和な…B

ある平和な病院には今いない、哀れな医者の話



ひどく眠たかった。
暑くも寒くもない心地よい気温の中、春の陽光を身体に浴びていると眠気がさらに増して瞼が重たくなる。
「エマ先生、はい、サンドイッチ」
誰かがそう言ってビニール袋を渡そうとしてくれた。でも私は広げられたレジャーシートの上に寝ころんだままひらひらと手を振っていらないと無言で伝える。かわりに側に置いていた自分のお昼のドーナツを取って齧った。ぼろりとそのかけらがひとつふたつ頬を滑り落ちていったけれど気にしない。誰かが行儀が悪いですよ、とやんわりそんな私をたしなめるけどここは外だもの。あとで払えばいいじゃない。

今日。部下たちに何故か手を引っ張られて病院の中庭の明るい場所へと連れていかれ、お昼はここで…となんちゃってピクニックが始まった。呑気なことして、と誘ってくれた部下を小さく睨みつけるも彼は気にする様子はない。「ここは患者さんが通らないから何をしたってだいじょうぶだろ!」。しかもそう強く断言してくるので、私はええい!と広げてくれたシートの上に寝ころんでやった。すると途端に眠くなってしまった。最近の私はずっと寝不足気味だから。

「もっとおれと仲良くなろうエマ先生」

部下はそう言った。「信頼関係を築きてえんだ」。丸っこい瞳をぱちぱちさせながら言うその姿はかわいい。けれど、もう仲いいと思うよ、とそれに素っ気ない返事をしたらちょっとだけ悲しそうに眉が下がった。

「エマ先生ちゃんとメシを食えよ。甘い物ばっかりじゃねーか」
「疲れた時は甘いものが一番」
「それに最近はずっと病院にこもってるし」
「…、それで日光浴ってわけか」
「医者の不養生そのままな生活してる」
「患者さんを優先してたらこうなる」
「それに顔が薄汚れてて」
「…え」
「服もしわくちゃ」
「…」

続く小言がどんどん妙な方向へと進み、ハァ…とため息が漏れた。空へと手をかざしてみると、久々に白衣を脱いで出てきた自分の服の袖が見えて、…まあ、確かに、その通り。顔についてはしばらく鏡をまともに見ていないから確認するのが怖い。
「サンドイッチよりもおにぎりがいい」
何も言い返せないのが悔しくてワガママを言ってみた。すると、そう言うと思いました!と別の部下の声がしてすぐさまおにぎりが差し出された。
誰かが作ってきたらしい。大きすぎて持て余しそうなそれを、欲しいと言った手前渋々受け取った。でも、おいしそうな磯の匂いがしたところで決して食欲はわかなかった。

「エマ先生がずっと不摂生だから、健康診断しようっておれら話し合ったんだ」

食べ始めない私に部下がそう言う。私はハハ…と小さく笑う。
「やだ」
「いーや!やってもらうぞ!!」
「私の身体を診察できるのは私以上に優秀な人って決めてる」
「そう言うと思ってた!だから…」
「…一体誰よ」

そんな奴、この病院にいたっけ?院長?そう思いながら、いやいやダメダメ!このエマさまを診るなんて大役、誰であろうと力不足だよーだ、と言おうとした。でも部下が「あ、来た来た」と楽し気に言うその声には思わず顔を捻って彼の視線の先をたどっていた。

「…マジで酷ェ顔してんな」
「!」





チョッパーです。大きな空をながめたら、わたあめみたいな白い雲が飛んでいたぞ。だから今日は楽しいハイキング…、と言いたいところだけど近場で気軽にピクニック、だ!ずっと浮かない顔をしている上司を誘って中庭で弁当を食べたんだ。最近お菓子ばっかり食ってるその上司は何だか患者よりも病人みたいでだからみんな心配していたんだけど、今さっきここから裸足でかけていったからきっともうだいじょうぶ、だな!さて、次回は「上司、女子力を取り戻す」「部下は気が利いて優秀」「見つかった病魔!最悪のステージ4!!」…の3本です。じゃんけんぽん!チョキを出すとおもったか??残念でした!エッエッエッ♪


……


『…エマさん毎日ちゃんとオペやってるよ。やりすぎてるぐらい、なんだ。おれに任せてくれればいいところだっていつの間にか自分でやっちまうんだよなァ…。トラ男はエマさんに何か言われなくても絶妙のタイミングで彼女をフォローできていたんだろうね。だから、毎日疲れた顔して甘いものばかり食べてる』
「…」
『あ、あと病気みたいだ』
「はぁ!?」
『でも、誰にも診察させてくれねえから皆参ってる。これじゃどんどん悪くなる一方だよ…。ちなみに女子力も低下してるんだ!時々顔洗い忘れてるし』
「待て!病気ってなんだよ??」
『きっとずっと前から知らず知らず患ってたんだね。最近ハリケーンのように急に症状が出てきたから…進行は早いと思う!』
「ハリケーンて何だよ!!進行が早いとか…まさか…」
『ま、とりあえずトラ男近々休暇とかある?いつ?エマ先生診てあげてよ。たぶんトラ男なら診させてくれるんじゃない?』
「何悠長な事言ってんだ!!すぐ行くよ!MRI検査室開けとけよ!?」
『わかった!じゃー、待ってるな!』


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