超短編!〜平成 | ナノ
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ある平和な…A

エマです。まだまだ朝晩寒いですが昼間暖かかったり道端でたんぽぽを見つけたりするともうすぐ春だなあとウキウキしてしまいますね!そんなある日、私の患者さんが桜を見る前にどうせ死ぬんだ!と言って自暴自棄になりました。だから私、馬鹿言ってんじゃねえ私たちが絶対に治してやるから一緒に花見しようぜ!って言ってやりましたよ♪その患者さん、これで安心できたでしょうか??来週手術頑張ります☆
さて、次回は「バチスタ手術は10時間!限界突破な胃袋と膀胱」「ひらめきはまさかの術中!院長真っ青術式変更」「例のあの人がチーム脱退!?荒れ狂う現場」…の3本です!じゃんけんぽん!ウフフフ♪

…というおふざけはさておき。
私は思いがけず長時間になってしまった手術をどうにか終えると、ハー…と息を吐きながらソファに深く沈んでシロップをいっぱい入れたコーヒー牛乳を飲んだ。
本当はもっと早く終われたんじゃないですか?
…だなんて。チーム・エマさんの一人にひっそりとそう言われて、私情にとらわれたせいでいつも通りの手術ができなかった自分に情けない…と嘆息した。とりあえず手術自体は成功したものの、出血量が予想よりも多くなり、だから患者の負担を大きくしてしまった。グスン…。けれど私が今のこの状況に思わず子供みたいに泣きべそをかいてしまいそうになっているのは、その患者に対して申し訳なく思う以上に別の理由が私の心をかき乱しているからだった。

「お前らしくねぇオペしやがって。馬鹿が」

ソファの背後から声がしたので顔を上げてみると、そこには私を呆れたように見下ろすイソノ…ではなくトラファルガーがいた。

「泣いてんのか?」
「泣きそうなの」
「…ハッ。スーパードクターにもしおらしい部分があるんだな」
「イソノ!何でお前ここ辞めてドラム王国に行くなんて言うんだよぉ」
「…。知ってたのか。まあ、武者修行のためだな。…ここにいたらずっと俺はお前の第一助手らしいから」
「…」

私の言葉にす…と目を逸らしたトラファルガーが何だか遠くのほうを見ながらそう言うのでますます泣きそうになった。
院長が私に患者のカルテを渡しながらぽそりとこぼしたトラファルガーの未来の話。
まさか、と思うもその時の院長の顔は真顔だったし、今まさにトラファルガーがそれを認めたのでどうやら本当の話らしかった。

「嫌だよイソノ。ずっと仲間でいるって約束したじゃん」
「…約束はしてねぇ」
「おいトラファルガー!来週あの自暴自棄な患者さんの手術しようぜ!」
「来週だけはやってやるよ」
「それが終わってもこの先ずっと…患者は来続けるのに」
「お前がいるなら大丈夫だろ」
「…誰が私の助手をするんだよ」
「タヌキ屋がいるだろ?」

私が言う全ての言葉をまるで振り払うようにするトラファルガー。冷たくしか聞こえないその声に、ついに溢れた涙がぽろりと目から落ちて頬を伝い、それを見たトラファルガーはギョッとした顔をして更に私から目を逸らした。

「ヤダヤダ!もう私手術しない!」
「ハァ?…いい年した大人が何言ってんだ」
「だって…ッグスグス。うわーん。やだよーーやだやだ」
「…駄々っ子か」
「やだやだやだやだ」
「…」

何と言われようとも子供のように首を横に振り続ける私にふわり…、大きな手がやってきて頭へと載せられた。トラファルガーはそこを優しく宥めるように撫でてくるから…心が苦しい。
「…俺が帰ってきたら、お前は第一助手に格下げかもな」
そしてボソリと一言だけそう言うと、最後にぐしゃっと髪を乱暴にかきまわして彼はこの部屋から出ていった。
部屋には私と、おいおい俺ら居るのに何やってんだお前ら…とでも言いたげなチーム・エマさんの皆が取り残される。
一口だけ残っていたコーヒー牛乳は、飲んでみるととても苦い味がして私はまた泣いてしまった。

その後。
春になるとトラファルガーは本当にびっくりするくらいあっけなくここからいなくなってしまった。
病院の外にある大きな桜の木はいつのまにか花びらを全部落としていて、気づけばもうすでに緑の葉っぱが出始めている。
















『もしもし?トラファルガーくん?元気かな?院長です。つかぬ事をお聞きしますが…そこにうちのエマさん、行ってないかなあ?昨日数日分のオペを強行で全部やり終えた後、桜を見に行く≠チて手紙置いていなくなってしまったんですよねぇ。ハァア…。何日かしたら帰ってきてくれるのかなぁ??君、彼女をこっちに帰して…くれるよねえ??…オペ待ちの患者がまだまだいっぱいいるからさぁ。ハァアアア…』
「…タヌキ屋からもう聞いてる。今ここにいるよ。着いた早々寝ちまったから起きたら桜見させてそっちへ連れていくよ。…全く情けねえスーパードクターだ」
「…ムニャムニャ、ウーン。…トラファルガー…花見…と、…手……しよう……おねがい」



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