超短編!〜平成 | ナノ
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逆トリウソップ嘘をつかない

今この家には妙なお客さんがいる。
その人は突然家に現れて、自分はどこかの何かのキングで今はお忍びでここへやってきているんだちょっと休ませてほしい…と。最初そう言ってきたんだとは後日おばあちゃんから聞いた話。
おばあちゃんはそれはそれはよくお越しくださいました…だなんて言ってその人を家の中へ上げてお茶をすすめ、彼が絶え間なくつむぐ様々な話を聞きながら数日一緒に過ごしていたらしい。
一人暮らしであるおばあちゃんの様子を見に訪れてみれば他人が普通に暮らしているんだもの。私は玄関で腰を抜かしそうになってしまった。ななな何やってんのおばあちゃん!!怪しすぎるじゃんその人!!しかも男の人だし!…って最初は思った。けれど、彼の話を聞きながらおばあちゃんは始終楽しそうにしているし、何か騙してやろうとか盗みを働こうとかそういう素振りが決してない、むしろ時折かなり臆病そうな雰囲気を垣間見せる鼻の長いその男の子のおもしろい空想世界の冒険談を私も一緒になって聞いていると思わず笑ってしまってワクワクして…、だから何となく彼を追い出す気になれなくなっている。
しかも彼は…

ピンポーン
「あ、誰か来た」
「はいはい。今行きますよ」
「あ、おれが行くよばーちゃん。ハイハーイ」
「スイマセーン。新聞取りませんか?」
「新聞??新聞はクーが運んでんのを欲しい時に買ってっから別に…」
「は?え??くー?」
「知らねぇの??ニュースクーだよ。新聞配達の鳥!何だよこの辺ニュースクー飛んでねえのか??有名だろアレは!!まあ、買うって言ってもナミの許可がいるんだけどな。いっつも値上がりしてるから勝手に買っちまうと怒って殴られて新聞程度で死にそうな目にあわされるんだよ。ナミって女は金が絡むと鬼のように恐ろしいんだ。前だってちょっと小遣いを多めにもらおうとしたらクリマタクトでタコ殴りに…。え?値上がりはほとんどしない??ならちょっとナミに聞いて…」
「た、タコ殴り!!??し、失礼しましたー」

…と。こんな風に彼はちょっと迷惑な業者を妙な対応で追い出してくれているのだ。

「マンション買いませんか?」
「まんしょんって何だ?ああ、家のことなのか。今はここに世話になってるけど、おれ今船で暮らしてるから家なんていらねえよ。しかも最近作った新しい船に二億も使っちまったからなー。金もねえし」
「は!?え!!?二億!!??」
「そう、二億。一度その現金の入ったケースがぶんどられちまったんだよ。そん時はヒヤヒヤどころの騒ぎじゃなかったぜ。ククッ。懐かしいな。まあ結局捕った奴が仲間になったから戻ってきてよー。しかもそいつは大工で…」
「えええ?!ぶんどった人が仲間に!!?お、お邪魔しましたー」

「保険に入りませんか?」
「ホケン??ケガした時や死んだ時の保証!??ウチにはチョッパーって医者がいるからケガの治療は何とかなってるよ。し、死ぬ時だなんて…縁起でもねぇな…。確かに海賊やってるといつも死とは直面してるけどよ。ドレスローザじゃ俺の首に五億の賞金かけられて首狩りゲームが始まったから住民たちに殺されそうになったんだ…。あの時はマジで三途の川が見えそうに…」
「え?!海賊!??首狩りゲーム!?…失礼しました…」

極めつけは…

プルルル…
「あら、電話」
「ばーちゃんおれが出るよ。…。はいもしもし?」
私は相手が気になったのでそっとスピーカーボタンを押してみた。すると相手の上ずった声が聞こえた。
『もしもし?俺だ。父さんだ!』
「は?オヤジ??…何でオヤジが…」
『悪い。父さん、車に乗ってたら事故を起こしてしまったんだ。その示談金が必要で今すぐ口座にお金を入れて欲しくて…』
「クルマって何だよ?オヤジ船に乗ってたんじゃねえのかよ」
『…。悪い。そうだ船だった。操縦していた船が事故にあったんだ』
「操縦って何だよ!オヤジは船なんて動かせなかったんじゃねえのか!?」
『あ…えっ!?そ、そうだった。だが、俺のせいで事故にあったんだ』
「しかも何でおれの居場所知ってんだよ。家を出て行ってから今までおれに連絡寄越すことなんてなかった癖に!!」
『う、うん…。そのことは悪かった。そうしなければならない理由があって…』
「今更うるせえよ!!う……グスッ…!!……元気なのかよ」
『…あ、ああ。元気だ』
「…そうか。おれも元気にやってる。べ、別にオヤジと会いたいわけじゃねえんだからな!!おれは今ルフィの船でオヤジと同じ狙撃手としてちゃんとやってる……だから…。…あああ!あのなあ!!おれはいつかオヤジを超える一流の狙撃手として蟻の眉間にタマをぶち込めるくらいの腕になってなあ!!そんでもってこの世界でおれの名を知らないものはいねぇくらいになってッッ!」
『え!?狙撃手??!!蟻の眉間に弾??!!……スイマセン、間違えました』…ガチャ!

…と。
なんと彼はオレオレ詐欺すらも撃退してしまうほどだった。…が、彼の会話を聞いてたらそれを称賛するどころじゃない。

「ウソップくん…。何かごめんね。その人君のお父さんじゃないよ。オレオレ詐欺て言ってね…云々」
「はああ!?マジかよ!!?おかしいと思ったけど!!」

おばあちゃんはウソップ君が長くお父さんに会えていないという事実に涙ぐみ、ますます彼のことをかわいがってしまいそうだった。
そしてその後、おばあちゃんの家にセールスが訪れたり迷惑電話がかかってくることはなくなり、なんとこの家は平和になった…というお話。


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