超短編!〜平成 | ナノ
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迎えに来てくれる人。

電車を降りて見上げた空は20時近くにもなると星が見えるほどに真っ暗になっていた。
冬の始まりががよくわかるくらい肌寒く下がった気温に、私はふるりと小さく身震いしつつ通学鞄を身体に寄せてその寒さを多少誤魔化そうとした。
…が、改札を出た先の広場のベンチにいた人物と目が合うや否や、顔が歪んで身体中に悪寒が走り体温が激下がりする。
ニヤァ…
そこにいた人物は私を見止めるなり怪しく笑い、広げていた本をぱたんと閉じてこちらへと近づいてきたので思い切り叫んでやろうかと思った。…ロー兄。何でこんな時間にここにいるんだよ!!

「遅いじゃねえか。RINEしたのに返事も返さねえから心配したぞ」
「そもそもロー兄は友達登録なんてされてないからね!」
「何だそれ…ずっと既読にならないのはその所為か…」
「それより何してるのかな?!こんなとこでまさか私を待ってたとかじゃないよね?!」
「おい、携帯を貸せ。いますぐ俺を友達…いや、恋人設定にして二人のROOMを作ってやるから」
「話聞いてる?!んなもんやらんでいいしそんな設定ないわ!!それより電車降りたらロー兄が待ち構えているなんて気持ち悪いんだけど!」
するとずっとヘラヘラしていたロー兄が急に真面目な顔をして言った。
「最近この辺で不審者が出るって言われたろ?心配だから迎えに来たんだよ」
「…」
顔面偏差値の高いロー兄がまともな顔でそう言ってくると、彼の異常性格を知ってはいても一瞬だけ心がキュ…と痺れる。…が
「…それよりお前何で制服じゃねぇんだよ…。今日はいい神風が吹いてるからスカートがよく舞い上がりそうだってのに…ブツブツ」
「キモッ!!もう変態すぎ!!」
私は部活動を終えた状態のまま帰宅したのでジャージ姿だった。それを見て究極つまらなそうにそう言ってきたロー兄のその発言にはブルブルッとあっという間に悪寒が再び走り、私は鞄をロー兄へと思い切りぶつけると彼を避けて足早にこの場を去ろうとした。…お巡りさん、不審者ってもしかしてコイツじゃないですか?

「まあ、待てよ。家まで一緒に帰ろう。手をつないで」
「嫌!私からは5メートル以上離れて歩いて!」
「そんなに離れたらお前の部活後の汗の匂いが嗅げねぇじゃねえか!」
「んああぁあああ!!もうヤダ!10メートル以上離れて!!」
「駄目だ。そんなに離れたら妙な奴が現れた時すぐに対処できねぇ。それは困る」
「…」

真面目口調でそう言われると、不覚にもまた心を引っ掻かれる。早足でロー兄から離れようとしていた私だったが、そのセリフには途端にどういうわけか歩調を緩めてしまった。だから私は、あっという間に近づいてきたロー兄に手を取られることを許してしまう。

「…冷たッ!!ちょっと…ロー兄、手がすごく冷えてる…」
「ああ。夕方は結構冷えるんだな。あそこに着いてすぐはそうでもなかったのに」
「…どれだけあの場所で待ってたの?」
「3時間」
「ハァ!?さ、3時間って…5時から待ってたってこと!?バカじゃないの!?ならその間ずっとあのベンチにいたの?!よく職質されなかったね?!」
「警察には話しかけられた。だが特に怪しまれはしなかったな」
「うっそ!話しかけられはしたんだ!!何で捕まえなかったんだろうポリス!無能すぎる!!」
「勉強の邪魔して悪かった、なんて言われたな」

ニヤニヤ。笑うロー兄はポケットから「よくわかる!医大生のための医療大全」という名の本をちらりと見せながらそう言った。ポリス…。小難しそうな本というアイテムのせいで不審者を見抜く判断力を鈍らせてしまったのか?私はこの町の治安を守る彼らに一抹の不安を感じるしかなかった。お巡りさん…コイツはほぼ不審者寄りですよ!

「あああ!もう捕まってしまえ!私帰る!ついてこないで!」
「待て待て。俺の冷えた手を温めてくれ。お前のためにこんなになるまで待ったんだ。ああ、キスしてくれてもいいぞ。そうすりゃ一気に身体が火照る」
「誰がするか!20メートル以上離れて!!」
「寂しいこと言うな…って…ッッヘーーックション!!」

するとロー兄が派手にくしゃみをする声が背後から聞こえた。
思わず振り返ると、ブルブルと身震いしながらロー兄が鼻をすすっている姿が見えて、悲しいけれど私はため息を吐きながら歩みを止めてしまった。「もう…」。呆れながら鞄の中からマフラーを取り出し、「これでも巻いてて。風邪なんか引かれたくない」…そう言ってロー兄へと投げてやる。


「お、おおお前の使ってるマフラーか…!!」


スンスン。
するとロー兄がたちまちそれを鼻先へと運びニヤけながら鼻をひくひくさせ始める。ゾゾゾーーー!!私はまた身体中を走り抜けた悪寒に身震いしながらその場から猛ダッシュして走って逃げた。


「ダーーー!やっぱりコイツヤバいヤバいヤバい!!」
「待てーー!!お前香水なんてつけてんのか?お前自身の匂いは俺には十分いい香りだからんなもん使わなくていいーー!!」
「嫌ーーー!!お巡りさん!!もう絶対不審者はコイツです!!」


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