迎えに来てくれる人。
電車を降りて見上げた空はまだ18時だというのにすでに真っ暗になっていた。
暗くなると同時に肌寒く下がった気温に、私はふるりと小さく身震いしつつ通学鞄を身体に寄せて心もとない気持ちを多少誤魔化そうとした。
駅からの帰り道は住宅街へたどり着くまでにどうしても閑散とした場所を通らなければならず、私は今まさにその人気のない道路を歩こうとしているところで。
その際いつになく不安な気持ちになってしまったのは最近この近隣で不審者が現れたという情報を聞いたその所為だろう。
私は制服のポケットに忍ばせてある防犯ブザーの存在を服の上から確かめつつ足早にこの場を通り過ぎようとした。
ガサ、ガサ、ガサ…
が、突然に聞こえた不自然な物音に思わずビクリと身体が強張った。
それが葉擦れの音ではなく、犬や猫といった小動物が発したものでもないことはすぐにわかった。これは誰か人が落ち葉を踏みしめた音、だ。しかもそれを聞いて歩みを止めてしまった私の行動に合わせてその音も止まったものだから背筋が一瞬で寒くなった。
誰かが背後にいる…。
そう思った私は顔を歪めてすぐさまその場から走った。走って走って、そして明るい光を放つコンビニへと急いで入り店員さんと目を合わせた。「ッシャイマセー!!」。そのからりとした声を聞いて途端に安堵する自分がいた。
振り返って見た店の外の風景はここからすれば普通の見慣れた通学路。けれど一度怖い思いを抱いてしまえばそこへ一人で戻ることはどうしても躊躇われて。
私はしばらく悩んだあげく、申し訳ないと思いつつもスマホを出してRINEを起動させそれを操作した。
<ロー兄今家?)
(どうした?>
予想に反してすぐにきた返事に、自然と顔がくにゃりと緩む。
震えが多少収まった指先で私は更にロー兄へとメッセージを送った。
<迎えに来てほしくて)
(どこにいる?>
<公園近くのコンビニ)
(待ってろ>
理由も聞かないシンプルな返事をこの目にすると、ここへ入ったときに得た以上の安堵を感じた。
ロー兄を待つ間買い物をし、そのビニール袋をぶら下げて外に立っているとしばらくしてロー兄が暗闇から現れた。私は嬉しくてすぐさま駆け寄る。
「ごめんね急に…。ちょっと怖くて…」
私がそう言うと、ロー兄はニィと笑って頭をくしゃりと撫でてくれた。
「変質者が出たんだもんな。そりゃ怖ェだろ」
「本当にごめん」
「構わねぇよ気にするな」
そしてロー兄は笑ったまま、ちょうど暇だったんだ…と言う。
嘘ばっかり。
私は心の中でそう言ってやった。
大学から家に戻っても勉強に追われてるってロー兄のお母さんが言ってたよ?
私はロー兄の優しい嘘にこの上なくくすぐったくなりながらえへへと笑った。
「気なんか使わなくていいから、いつでも呼べ。何かあってからじゃ遅い」
並んで歩いている中、ロー兄はそうも言ってくれた。
「うん」
私はロー兄を見上げて微笑む。いつだって優しいロー兄。私を見下ろすロー兄と目を合わせながらそのセリフに頷くと、ロー兄はまた頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
ロー兄が側にいる。それだけで私は安心に包まれた。
そしてこの暗い夜道からはあっという間に物騒な雰囲気が消えていってしまうから不思議だね。
「そういえばコンビニ来るの早かったね」
「気晴らしに近くを散歩してたんだ」
ロー兄はそう言うと、フ…と家路の方角を見ながら笑った。
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