超短編!〜平成 | ナノ
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bQができるまで

昔々。革命軍の食堂で朝ごはんを食べていた時、となりのサボ君に私が何気なく渡したのが蓋の開けられなかったジャムの瓶…だった。

「ねえサボ君、これ開けてよ。固くて開かない」
「おう。任せろ」

男の子だから…という特別な意識なんてなく、ただ隣にいたから…という理由で渡してみたに過ぎなかったんだけれど、サボ君は頼られた事にへへっと嬉しげに笑ってその瓶を手にすれば「ふんっ!」と大げさに気合をいれて蓋を開けようと試みていた。
…………が、残念ながら相当固かったらしく何と開かなかった。「ありゃ」「…か、固ェな」。その結果に思わずそう声を上げてしまった私に、サボ君は気まずそうに顔を赤くしながらふぬッ!ッうーん!!とその後も何度かチャレンジしていたけれど蓋はやっぱり開かなかった。


「貸して」


…すると、そんな私たちの背後から抑揚のない声と共に長い手がスッと伸びてきて、サボ君の手から瓶を取りあげた人がいた。先輩だった。
クールでカッコよくて、腕っぷしも強ければ頭もいい…という、要するに私たち革命軍の下っ端からしたら憧れ中の憧れと言っていい存在であるその人!私が思わずドキ…と胸を高鳴らせながら先輩を見上げれば、彼女はあ…と声を上げるサボ君なんか気にも留めずジャムの蓋に細い指先をあてがうと、パカ…。いとも簡単にその蓋を開けてしまった。

「はい、コアラちゃん」
「あ、ありがとうございます!!!」
「フフ…」
「…」

何の苦もなくそれをやってのけた先輩に、サボ君が複雑そうな瞳を向けているのはすぐにわかった。口元も悔しげに歪ませている。
先輩はそんなサボ君の心情なんか気づきもしないで彼の頭をコツンと軽く小突くと「頑張れ。少年」…と。爽やかにそう言って笑い、その後は振り返りもせずに颯爽と食堂から去って行ってしまった。「相変わらず素敵ねぇ〜」。私がジャムの瓶を見つめながらそう言い、そっとサボ君を盗み見てみると彼はあからさまに口をとがらせて拗ねた顔をしていたのだから可笑しい。

「がんばれ。少年」

だから私はもう一度皮肉を込めてその台詞を言ってやる。「わかってる…」。彼は膝の上の拳をぎゅっと力の限り握りしめながらそう返事をした。



…で。その後何年も時が経って今に至っているわけなんだけど、皆様ご存じのとおりサボ君は我が革命軍のナンバー2にまで登りつめ、竜爪拳による戦闘能力もかなりのものになったのだからあの日彼が心の中に抱いた決意らしきものはかなり強かった…というわけかな?今の彼はどんなに頑固な瓶の蓋でも指2本あれば大概開けられるだろう(蓋自体を壊してしまう可能性のほうが高いかも、ね)。

そんな事を考えながら先輩と並んで朝ごはんを食べていた。
その時先輩は目の前にあるハチミツの瓶を手に取ろうとしていたところであり、だから私は今や遠い昔の出来事となってしまったそのことを思い出したのだ。
すると、それに気づいたらしいサボ君が食堂のかなり遠くのほうにいたにも関わらず、昔のリベンジのつもりなのかブンブン手を振りながら大きな声で彼女にこうアピールした。


「せーーーんぱーーい!!俺!俺それ開けましょうかーーー!!?」
「いい。自分でできるし」


けれどこの先輩はやっぱりいつも通りのクールな態度ですげなくそう言い返すと、難なくその蓋を自分の手で簡単に開けちゃえば自分と私の間にそれをコトリと置きながらクス…と笑っていた。
サボ君はそれを見せつけられて明らかにがっくりと肩を落としていて、側にいるドラゴンさんはそんな彼に苦笑いなんて浮かべているんだけれど、先輩のすぐ隣にいる私には彼女がその後ぽそりと呟いた言葉がしっかりと聞こえたので、彼に対して違う意味合いの苦笑いを向けている。


「頑張ったよね。青年」


だなんて!その台詞をサボ君の目の前で直接言ってあげたならきっと彼は舞い上がって喜んじゃうだろう!
そう思うのに、先輩は決してそんなことしないんだからサボ君はきっとこの先も必死で自身を向上させ続けていくんだろうな、とそう思う。…こんなパーフェクトな先輩であってもいつか何かで頼ってもらえるようなそんな男になるために。

その事を考えれば私は思わずニヤニヤと笑ってしまう。その顔をどうにか抑えながら、私は隣で微笑む先輩に「ですよね」と言いながら目を合わせた。
この先輩ってば後にも先にもこんな風にずっとナチュラルに罪作り。
いつか私も彼女みたいな女になれればいいな、なんて。そう思いながら彼女の開けてくれたハチミツをパンにそっと塗り付けた。




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