超短編!〜平成 | ナノ
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逆トリサンジはテレビに夢中

ある日私が出会ってしまったのは長身スーツの金髪ヘアーをしたホストみたいな見た目のフェミニストだった。話しかけられたので対応していると、その人はどうやら道に迷ったみたいなのだが、私と会ったことで迷った事も素晴らしい!とか何とかクサいことを言い出したのであーはいはい、と適当にあしらって背を向けて去ろうとした。が、その人はその後すぐに別の女性に声をかけて同じような事を言い出したのでこりゃいかんと思い首根っこを引っ掴んでとりあえず連行する。繁華街に行けばこの人の務める店でも見つかるだろうか?…と考えつつも、時折ものすごく寂しげな瞳をして辛そうにするその人が何だかかわいそうになってきてとりあえず家へと上げてあげた。そして喉が渇いた…という彼にまぁお茶くらいなら出してやるか、とテレビをつけてその前に彼を座らせ、私はキッチンでお湯を沸かす準備をした。

「…」

暫くして湯呑を二つ持って行くと、ホスト風男は真剣な目をして食い入るようにテレビを見つめていた。何の番組だったっけ?私が画面を見てみると、それは料理番組だった。

「何かすごいものでも作ってるの?」
「おかしいんだ…不思議の国のレディ。これ、『180秒クッキング』って言ってるんだがすでに180秒経ってる上に完成してねぇ…」
「え!その長寿番組知らないの!?それ突っ込んじゃいけないっていう日本国民全員における暗黙のルールだよ!!」
「しかも30分寝かせます…って言ったぞ」
「だから突っ込んじゃいけないんだってば!」
「…っておい!!冷蔵庫にすでに寝かせたやつがあるってどういうことだ!?」
「仕方ないんだよ!10分の番組なんだから!あらかじめ準備されたものが随所ちりばめられてるの!周りにアシスタントも大勢いるんだよ!」
「なんだそりゃ!?解せねぇ!」

ホスト風男がそう言ってブツブツ言い始めたので、私は無理やりにチャンネルを変えて彼にお茶を差し出し、お腹が空いたかも…という彼に仕方ないからお茶菓子でも出してやるか…とまたキッチンへと向かった。スーパーで買ったクッキーをお皿にのせて戻ってみると、やはりホスト風男は食い入るように番組を見つめていた。…通販番組だった。

「…何の商品?」
「不思議の国のレディ〜♪この包丁セットどうやったら買えるの〜〜??いろんなのが10本ある上に今ならもれなくもう1セット付けてくれるらしいんだ〜〜!!」
「はいはいはい!!そいつらの商法にまんまとハマんないで!!包丁なんて2セットもいらないでしょ??!!それこそ解せないよ!!それに包丁って10本も必要!?見てよ!最後の10本目って万能包丁≠セよ?それ1本ありゃいいってやつじゃない!!」
「そんな事ないよ〜!食材によって包丁を変えればもっと………このクッキー、不味ィな」
「は!いきなりだね!!ハイハイごめんね!!これ激安スーパーの安いやつだから!!私には充分おいしいんだけどね!舌が肥えていらっしゃるんだね!有名ブランドのものじゃなくてごめんなさいねー!」
「…こんな不味いものレディには食わせられねえ」
「ってちょっと!!どこ向かってるの!?そっちキッチン!!我が家のキッチン!!ああああ!勝手に冷蔵庫開けないで!!」



…と。私が止めるのも聞かずにその人は小麦粉やバターや砂糖などを探し出すと慣れた手つきであっという間にクッキーを作り出したので驚いた。
オーブンなんて持ってなかったが、ならフライパンで大丈夫と言って彼がそれを焼き始めると信じられないくらいいい匂いが狭い部屋にたちこめたので更に驚いた。

そして気付けばいつの間にか私がテレビを見る側になっている。


「毎日でも作ってあげるよ、不思議の国のレディ」


…だなんて。さっくり芳ばしいクッキーとおいしい紅茶を差し出されながら紳士な笑顔でそう言われたら、もう少しなら置いてやってもいいかも…とすら思えるから胃袋を掴めばなんとやら、は男子どころか女子であっても通用するらしい。




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