超短編!〜平成 | ナノ
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Harf・PerfectWorld

*オリキャラ登場、苦手な方は注意。ハートの海賊団の女性乗組員「イルカ」さん。




「キャプテンキャプテン!!私今日で通算500回敵を一番に見つけたよ!!約束でしょ??町へ行かせて!」

私は敵船遭遇後の戦闘を終えた途端、キャプテンにそう詰め寄った。すると、彼は眉を寄せて私の言葉に仏頂面を浮かべ続けるも、イルカが「いいじゃない」とのんびりした口調でそう言えば暫くした後眉間の深い皺を少しだけ緩めた。
すぐさまチ…という舌打ちが聞こえたけど、小さな声で「仕方ねえ…」と言ってくれたので私は万歳して喜んだ。
ずっとずっと念願だった町歩き。ようやくその願いが叶うのだ。
私は嬉しくて、海水で濡れた光る鱗をひらひら揺らした。イルカは私を見て笑いながら「よかったわねぇ」と言ってくれた。


私は数か月前からこの船のクルーになった人魚だ。

どうしても外の世界にあるいろんな場所を見てみたくて、生まれ故郷を飛び出してはや1年。そんな私が北の海にて突然海賊に捕獲されそうになって負傷し、もうだめだと思ったところに現れたのがキャプテン…トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団だった。
彼は私を捕まえようとした海賊をあっという間に倒してそして私を海から引き揚げてくれた。私が普通の人間だと思っていたらしく、魚の下半身を見た時は口をあんぐり開けて驚いていた。
彼も私を捕らえてオークションなどに売ろうとするのだろうか?
最初はそう思って怯えたが、彼はそんなことしなかった。何と傷の手当をしてくれて、治るまで船へ置いてくれたのだ。こんないい海賊さんもいるのか…と私が当時とても感動して感謝したことは今でも忘れていない。だから傷が癒えた時、少しでも恩返しをしたくて船周辺の哨戒役を買って出た。海を素早く泳ぎ回り、誰よりも早く敵船や海王類や海獣を見つけて知らせ続けていればある日キャプテンが「仲間になるか?」と言ってくれた。とても嬉しかった。なので二つ返事でそれに了承しこの海賊船での生活を開始した。そして今に至っている。
私が色々な世界を見たくて故郷を出た、という話はキャプテンも知っていた。だから島を歩きたい、と私は言い続けた。
けれどキャプテンはそれを決して許してくれなくて、島へ着けば私は部屋の中に隠れているか遊泳していろと言われる。
それでも諦めずに日々懇願していれば、さすがに根負けしたのか『500回船への脅威を一番に見つけたらな…』とある日言ってくれた。そして今日それを達成したのだ。

「わたしの足を貸してあげる。そうすれば見た目は人間になるし、大丈夫でしょ?」

イルカはにこりと笑ってそう言ってくれた。キャプテンは常日頃私を妹のようにかわいがって助力をしてくれようとする彼女を少しの間だけ睨みつけたが、すぐにため息とともに能力発動のためのサークルを広げてくれた。「シャンブルズ」。それは私には奇跡の言葉!そして何と次の瞬間にはイルカは人魚に、私は人間になっていた。


「すごい!!!足だ…」


初めての感覚と感触、抑えきれない感動と妙な違和感で私は小さくパニックになりそうだった。うまく歩けなくてふらりとよろけた私を側にいたキャプテンは手を取って支えてくれた。
「キャプテン〜〜!!ありがとうっ!!」
あまりの嬉しさに顔が緩んでしまって、ふにゃーっとしたしまりのない笑顔をキャプテンへ向けた。キャプテンはそんな私に呆れているのか目を逸らしながら舌を打っていた。

暫く船の上で歩く練習をし、念願だった島の中へ!
梯子を使って船から降りるなんて難しそう…と思っていたら、キャプテンが担いで下ろしてやると言ってくれた。ダメ元で「一緒に町に行ってくれる?」と聞いてみる。すると大げさなため息と共に彼はその提案に頷いてくれた。「そんな危なっかしい歩き方じゃ放っておけねえよ…」。その際相当な顰め面だったけど、気にしないことにした。


「ねぇ、忘れないでね。半分はわたしの身体だってこと」


いざ出発しようとした私たちの背後、欄干に座ったイルカは魚のひれをゆらりと動かしながらクス…と笑ってそう言った。
「うん!わかってる。転ばないようにするね」
「…忘れねぇよ」
私はそれにしっかりと頷き、何故だろう、隣のキャプテンは苦々しげにそう言っていた。

「本当にありがとう、キャプテン」
「…」

えへへ、と笑ってキャプテンを見つめた。キャプテンはそれに半分だけ笑って、半分は険しい顔をしていた。


しっかりと繋いでくれたキャプテンの手のお陰で転ぶことはなさそうだ。
ゆっくりとしか歩けない私に合わせて歩いてくれるキャプテンは時折ため息を吐くものの、文句を言う事はなかった。
優しいキャプテン。
そんなあなたに恋するなんて…本当に簡単なことだったよ。
私はずっと、多分きっと海であなたが私を拾い上げてくれたその時から、私はあなたに恋をしていたんだと思います。…私が人魚で、あなたが人間であっても。
だからどんな難題を言われても、絶対にそれを達成して町を一緒に歩くっていう夢を叶えたかったんだ。
キャプテンを町歩きに誘っても絶対に嫌がるだろうと思っていたけど、まさかあっさりOKしてくれるとは思わなかった。…イルカが足を貸してくれたからだろうか?そうすれば、私は人間にしか見えなくなって面倒事はきっと起こらない。…だからこそキャプテンは今私と歩いてくれているんだね。


町の人々は私たちがどんな風に見えているだろう。
恋人同士が歩いていると思っている人もいるだろうか?
そうだとしたら、それは本当に…嬉しい。

私はドキドキと高鳴り続けている心と、泣き出したくなりそうなくらいどうにもならないこの不毛な想いを、珍しい物でいっぱいの景色を眺めて得られる高揚感でそっと隠した。
今のこの幸せは半分借りた物のお陰でできているから…。


…だからこれは、半分だけ…完璧に幸せな私の話。

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