超短編!〜平成 | ナノ
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はす向かいの人。

高校にあがった途端に数学が難しくなって、散々な期末テストの結果と共にハァア…とため息を吐きつつとぼとぼと家に帰る途中で会ったのがロー兄だった。我が家のはす向かいに住む大学生で、お互いのお母さん同士の仲がいいから彼との付き合いは長くて深くて、…そして私にとっては今の高校に入れたのは彼のお陰と言っても過言ではないくらいの恩人であるその人!

「…どうした。そんなツラして」
「ロー兄…。大変なの。高校の数学が難しくて」
「ハハ…。だろうな。お前は受験の時点から危うかった」
「そうなんだよー。…やっぱりここを第一志望にし続けるんじゃなかったなぁ…。ロー兄があきらめるなって言って勉強教えてくれたから合格だけはできたけど…」

そう言って制服を撫でながら苦笑してみせると、ロー兄は私に近づいてくしゃりと頭を撫でつつ「大丈夫だろ」とニコリと笑った。そして「何ならまた勉強教えてやる」…と、何とそう言ってくれる。

「ほんと!?また家庭教師してくれるの??やったぁ!ロー兄教え方上手だからわかりやすいんだよね♪」
「ああ、任せろ」
「…でも、本当にいいの??医学部って毎日大変だってロー兄のお母さんが言ってるの聞いたけど」
「別にそこまででもねぇよ」
「本当に?」
「あぁ」
「わかった!でも一応ウチのお母さんにも相談してみるね!」
「そうだな」

私はとりあえずそう言ってみた。…が、高校受験の際に彼の出した成果を知っている上、優しくてカッコイイロー兄に昔からお母さんが全面的な信頼を寄せていることはわかっているのでこの提案はきっと彼女も喜ぶに違いないはずだ。
私は微笑んでいるロー兄に向って笑顔で手を振った。「じゃあね!ロー兄!」。そう言って、同じく手を振りかえしてくれたロー兄に背を向け、先ほどまでの重い足取りから一変、嬉しい気持ちでいっぱいになりながら軽やかに家へと走った。
その際にロー兄のお陰で入る事の出来た高校の、かわいくて憧れだった制服のそのスカートがひらり、嬉しげに風に舞った。
『似合っているよ』…と。
4月にロー兄が素敵な笑顔でそう言ってくれたことを思い出し、私は更に嬉しくなって顔がほころんでしまった。







俺は足取り軽く家へと吸い込まれていく彼女の背を見て薄く笑った。
そして、かつて真冬の小さな部屋の中、へこたれそうになる彼女に熱心に勉強を教えてやったその日々を思い出し、それに否応なしに興奮した自分の身体がぞくりと甘美に震え始めた事にまた笑ってしまった。

…例えどんなに大変な毎日であろうとも。
お前と二人でいられるならば、その時間くらいいくらでも捻出してやるさ。そう思い、笑い声すら上げそうになる自身を必死で抑え込んだ。


だって…。
なあ…。


…お前は知らないんだろう?
…わかりも気づきもしていないんだろう?


俺は…。



「…その制服着てるお前が見たくて必死で勉強教えてやったんだからなァ」




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