夏の終わり、秋の到来
ポーラータングで怪談話し真夏の夜、私と他のクルーは部屋の明かりを消してろうそくを各自持つとぐるっと円になって座り、神妙な顔をしつつポーラータングでの百物語を始めた。
「まずは私から…。それはある朝の出来事です…」
「朝！？」
「まあ聞いて聞いて。…私が朝起きて廊下を歩いていると……その先から聞こえてきたんですよ……」
「…ゴクッ」
「…」
「ジョーリ…ジョーリ……ジョーーーリ…。それは…キャプテンの部屋からでした…」
「…ッ！！」
「……！！」
「私は恐る恐るその部屋に近づいて、そっと、そーーーーっと、その扉を開けてみたんです…」
「キャァアアアアア！！！！」
「ワァアアー！！」
「ッ！！うわぁああああ！！何で急に叫ぶんだよッ！ベポ！！」
「だってだって！怖いって！！キャプテンの部屋の扉をノックもなしにそっと開けるなんて怖いッッ！！」
「そりゃ確かにその後の事を考えると怖ェけどよ！！…まあいい。ろうそく一個消すぞ。…フッ」
「えー！まだ私オチ言ってないのにーー！あのね！！そこにいたのは嬉しげな顔して鬼哭を研いでるキャプテンの姿で！！」
「…で、その切れ味を早速試したいってか？」
すると途端に私にかけられる冷たい声と、首に当てられる鋭い鬼哭の切っ先！！ゾォオオオオ！！！
キャプテェエエエン！！いつの間にーー！
「キャァアアアーー！！！いきなり怖ッッ！！…ろうそく一個消そう」
「冷静に消してんじゃねぇ。俺が登場しただけで怪談扱いか」
キャプテンの制裁この度の潜水は想定外であった。
別に海は荒れていないし、周りに海軍の船なんかもいなかったから暫くは青空を拝めると思っていたのだ…！
ブーッブーッブーッ！
「おい！！火災発生か！？？火元はどこだ！すぐに見つけろ！！」
潜水直後、艦内には緊急ブザーが鳴り響き、キャプテンは慌てた声でクルーらにそう叫んでいる。潜水艦ゆえに火災が起こると命に係わる。なのでこの艦内には煙探知機がいくつも設置されているのだ。
「あー…。あの、ですねぇ…。きっと、そう。あの…。火災じゃあないッスよ」
私とベポが柱の陰に隠れながら恐々とそんなキャプテンを見つめる中、事態を把握しているであろうペンギンが困ったようにそう告げていた。「アァ！？テメェ原因がわかってんのか！？どういう事だ？」。キャプテンは、当然だろう、それを聞いて怒った顔で彼に詰め寄っている。ペンギンはヒー！とその勢いに気圧されつつ、暫くはしらばっくれるような態度をとってくれていたが、ついにキャプテンが鬼哭を鞘から抜いた姿を見れば慌てたように私とベポを指差しながら緊急ブザーの鳴った原因を言ってしまった。
「ああああいつ等の所為ッスよ！あいつ等、七輪でサンマ焼いてましたから！」
「…ハァ？？秋刀魚、だぁ？」
キャプテンは絶対零度の声でそう言いつつ、指された方向をギラリと睨んだ。私とベポはヒィイイ！！とその冷たい、冷たすぎるドライアイスのような視線を受け止めれば思い切りすくみあがった。
「ど う い う こ と だ」
「ひゃー！つ、釣りをしてたら秋刀魚がとれまして！」
「…」
「さ、秋刀魚は炭火で焼くのが一番おいしいと思いましたので！」
「……」
「な、なので、ベポと一緒に七輪で…。あ、あの、最初は外で焼いてたんですよ？？まさかねぇ！あははっ！潜水するなんてねぇ？ベポ」
「ウ、ウン！そうだよねぇ！！慌てちゃうよねぇ！！」
「………」
「…」
「…」
「…………」
「…お、おひとつ、いかがですか？」
…おい、お前等。外を見てみろ。ああ。ちょうど秋刀魚が泳いでいるぞ。
すると、始終こちらを睨みながら無言を貫いていたキャプテンがふと外を見るなりそう言ってきた。胸の位置にまで上がった彼の手の指先がゆらりと揺れる。
「ワァー！ほんとうだ！たくさんいるねぇ」
「ベ、ベポ！！馬鹿！！逃げ…ッ」
「ＲＯＯＭ、シャンブルズ」
言われたまま呑気に窓の外の海を見つめそう喜んだベポの手を引っ張ろうとした私だったが、それは無意味だったようだ。
非情にもすぐさま能力発動したキャプテン。
私の視界はぐらりと揺れて、気づけば……
『グボガボゴバガバァアアアアアーーーー！！！！』
『オボゴボボボボガボォオオオーーー！！』
ベポとふたり。海の中にいた。
とれとれピチピチ！
「…。炭火以外で調理しろ。いいな…？」
「ハ、ハイイイイ！！！」
そして潜水艦の窓の向こう側。こちらに背を向けて歩いていくキャプテンが見えた。
キャプテンの制裁。その名も「いきなり海地獄」。
「ガボゴボガバァアアアーーー！（たーすーけーてーーー）」
「オゴボゴグボゴォオオオーーー！（もうしませぇえーーーーん）」
スーパーで秋刀魚を見つけました。秋になりましたね。
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