超短編!〜平成 | ナノ
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「幸福」は膨らむらしい

ねぇねぇーベポお願い!
えーでもーおれそんなことできないよー


ベポにべたべたまとわりついてそんなやりとりをしばらく続けていると、ローが私を彼からひっぺがしながら「俺がやってやるから離れろ」…と言ってきたので思わず目を丸くしてしまった。

「えー本当に?」
「ああ」

私が疑いの目でそう問えばすぐさまそう返事をしてきたので「それなら…」と言って本を渡す。ローはそれを見ると今度は自分が目を丸くしつつ、次いで私が渡したエプロンも見てう…と更に嫌そうな顔をするも、やると言ってしまったからには引き返せなくなったのか黙ってそれらを受け取ってくれた。


暫くした後、船長が台所にいる!という噂がすぐに広まった艦内で、クルー全員が笑いを堪えつつその近くを無駄にうろうろと歩き回る中、じゅーという音と共に辺りにはバターの焦げるいい匂いが漂い始めた。
私とベポは、エプロンをしめて時々小さく舌打ちしながらボールとお玉を持って難しい顔をしているローの背中をくすくす笑いながら見つめていた。
ローの足元には舞い上がった小麦粉と、こぼれた牛乳と割れた卵の欠片が落ちている。
でも敢えて手は出さないで、私はふふふとそんな彼の後姿を笑顔で見守った。


「10段重ねにしてね!ロー」
「…10枚もかよ…」
「おれもいるよキャプテン!」
「ベポは黙ってろ」
「うひゃー」


そんなやりとりをしていると、フライパンの中に落としたクリーム色の生地がふつふつと膨らみ始めるのが見えて、それと一緒に私の心の中の幸福度も同じように膨らんでいくのが分かった。


「ねえねえ。おれが作らないと本のとおりにならないんじゃないの?」
「ふふっ。そうだね。でもいいんだ。だってローがおやつ作ってくれるなんて滅多にないもん」
「そうだね。楽しみだね」


だから今回はアザラシちゃんのホットケーキだねぇ〜…なんてそう言っていると、ローが「熱ッ!!」と叫びながらガシャガシャガシャーンと道具やら何やらを派手に床に落としちゃったからそろそろお手伝いしてあげたほうがいいかもしれない。


私は棚の奥から出てきた古い絵本を懐かしい温かい気持ちと共に指先で撫でると、心なしか膨らんだお腹もそっと撫でてローの側へと歩み寄った。




(いくつになっても大好きな絵本)

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