超短編!〜平成 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
落とし物を拾った

町を歩いていると電伝虫が落ちていたので保護した。
少し途方に暮れたような顔して淋しそうにしていたので、ヨシヨシと頭を撫でてあげて家でお水と、欲しそうに見えたのでビスケットをあげてみる。
ふふふ。かわいい。
持ち主さんがとても大切にしてあげてるみたいだね。
殻には独特の模様が入っていて顎付近にヒゲみたいなのが生えてるし殻と同じ模様の帽子まで被っている。
野生の子と比べて身体をこんなになるまで変化させてるから相当長い事持ち主の男性(ヒゲがあるからきっと男性!)と一緒にいたんだろう。

だからきっと持ち主さんからそれ俺のなんです的な電話が来るかな…とそう思っていると案の定「プルプルプル…」と、突然に電伝虫が声を発した。
…と、途端にその子の目がギン…と鋭い目つきになった。


『…おい。テメェは誰だ?』
「あ、これメインストリートに落ちてましたよ。私が拾って今家で保護してます」

第一声がそれって!怖ッ!…と思いつつもそう告げると、電伝虫は一瞬驚いたような顔をし、けれどすぐに元の顔に戻って次の言葉を発した。相変わらず目つきが怖いし、どこか警戒しているようだった。


『…俺がそれの持ち主だ。取りに行くからそこがどこなのか教えろ』
「あ、じゃあ近くのわかりやすい場所言いますね。そこで待ってます」

私はそして家の近くにある目立つ飲食店の名前を告げた。
電伝虫の先の人はそれにわかった…と短く告げながらやはりこちらをずっと睨み続けていた。


「あ、そういえば…。私この子にお水とビスケットあげちゃったんです。勝手にごめんなさい」


そして、じゃあ…と話が終わろうとした矢先、私はふとその事を思い出して慌ててそれを告げた。
すると電伝虫はずっと固定だった睨み目を驚きからでなのか急に見開かせ、口をもぽかんとしばし開け放した。『…』。何故だか向こう側の人物が沈黙する。怒ったかな?

『…ッ。…ククク。ハハッ』

しかしその沈黙は、驚いた顔をした電伝虫の目がぱっと柔らかく緩み笑い声があがったことで破られた。ずっと凄むような声音だったのがどういうわけか急に明るい。
けれど電伝虫が穏やかな目つきをしたのはその一瞬で、すぐにその表情は変わった。それはニタァ…と形容していいような…何だか爽やかではない笑った目、だった。

『それはどうも。…クク。じゃあな。また後で』

そして電伝虫は「ガチャ」と通話が終わった時の声をあげ、目を閉じグゥ…と眠り始めた。私は先ほどの妖しい笑みにちょっとした不安を感じつつも、安心したように眠り始めた電伝虫を両手で包むと待ちあわせの場所へと向かった。



がやがやと騒がしいメインストリートにある、大きな店の前のベンチに座ってその人を待つ。
すると遠くから「ヒー!海賊!」という叫び声がしたので慌ててその声のした方向に目をやった。
行き交う人達は海賊を避けるように道の端へと移動している。なので少し遠くてもその人の姿はよく見えた。独特の模様の帽子。顎にはヒゲ。「!?」。私は瞬時に掌の電伝虫を見つめた。そしてもう一度海賊と呼ばれたその人のほうを見た。まんま、だ。この子そのままな人物が歩いてきている!!!!!!しかも目つきも一緒でかなり鋭い!!!けど持ち主さんのほうが殺気みたいなの纏ってる分何百倍も怖い!!しかも手には長い刀握りしめてるし!!!そして今私とその人は目が合いました!!ニタァ…。そしたら途端にその海賊さんが不敵に嗤ってきたものだから頭の中で鳴り響くのは最早危険信号でしかない!!!

私はすぐさま一般人の普通の反応として、ベンチにその子を置くと立ち上がって逃げようとした。
ガシ!
…が、すぐさま肩を思い切り掴まれたので思わず「ギャッ!」と奇声をあげてしまった。
恐る恐る振り返ると…、何故だろう…、余裕で逃げられる距離があったのにそこにいたのは電伝虫とお揃いの帽子をかぶってニタニタ嗤うさっきの海賊さん。


「待て逃げるな。拾ってくれた礼くらいさせろ」
「いいいいいいらないです!結構です!必要ないです!!!!」
「ククク。まあいいじゃねえか。お前にもビスケット、やろうか?」


ほら、ちょうどすぐ側に店がある。


そう言って肩を掴む手に力を入れた海賊さんに、私はヒエーーーと半泣きで叫びながら今後教訓にすべきことを考えていた。
むやみに電伝虫は拾うべからず!
私、明日は生きているだろうか?




*電伝虫の特性がよくわからないので全部捏造な上、電伝虫の見た目もちょこっと改造。

prev index next