超短編!〜平成 | ナノ
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隠した言葉を、貴方へ贈る

海軍本部にあるバルコニーのテラス席に座って資料を読んでいると、誰かの視線を感じたのでふ…と顔をあげた。
「なに?」
…と首をかしげながら言って、少し遠くにいて私を見つめている彼、ロシナンテを見遣る。すると彼は「いいや…」と慌てたように首を振るので「そう…」と私は再び資料に目を落とした。

けれどロシナンテはゆっくりと私に近づき、おずおずと「ここ、いい?」と空いている椅子を指差してきた。だからそれに了承の意味で無言で頷いてみせる。彼はそれに少しだけ嬉しそうにしつつ、どこかしら落ち着かない雰囲気で隣に座った。

そわそわとし続けているのはすぐにわかる。だから「なに?」…と、資料から顔をあげてまたそう問いかけるも、彼は私と目が合うなりすっとそれを逸らして「…いや…」…と、曖昧な返事をしつつそっと顔を俯かせた。けれど私が彼から視線を外せばまたこちらをちらりちらりと眺めている。それが暫く続いた。

「気持ち悪い…。何かあるなら言って。ロシナンテ中佐」
「…いや。…その。…敢えてこちらから口にするもんでもないしなぁ…ってね…」
「ますます意味が分からなくて気持ち悪い…」
「…お前は相変わらず酷いな」
「ひどくて結構」

そう言って彼を小さく睨みつけ、また資料に目を落とした。ロシナンテがハァ…とため息を吐いているのがわかった。
そうね。
私はきっと酷い女だろうね。


「…じつは…今日……。誕生日でして…」


すると、私がいよいよ何も言わなくなったことで諦めがついたのか、ロシナンテは恥ずかしそうにそう言ってきた。「誰の?」。顔を上げて彼を見つめ、意地悪くそう切り返した。「俺のです…」。するとロシナンテは子供みたいに拗ねた顔をしてそう言ってきた。フフッ。思わず吹き出してしまった。

「それは大変!大きなロウソクのたったケーキがいるわね。ああ。でも、そんなもの用意したらあなたきっと燃えちゃうわ」
「…茶化すなよ」
「海軍本部に海兵みんなの誕生日を祝う制度でもあれば和むかもね。今度元帥に提案して…」
「なあ」

私の言葉を遮って、ロシナンテがそう言った。相変わらず子供みたいに唇を尖らせたその姿。こんな人が中佐やってるなんて笑っちゃう。私の資料を持つ手に、そしてそっと添えられるロシナンテの手。私はちらりとその手を見て、次いで彼に視線を送りつつ片眉をあげた。


「ちょっとくらい、祝ってくれない?」


そして素直すぎる言葉でそう告げる。私はまた吹き出してしまった。「ロシィ…。どうしたの?今更祝ってもらいたい年齢でもないでしょ?」。笑いながらそう言って、彼の添えられた手から離れるようにして読んでいた資料を揃えてトントンと机の上で整えた。


「さぁて。行かなきゃ。これから任務なの」
「……」
「じゃあ、また」
「…お前は本当に酷いなぁ…」


すげなく椅子を引いて立ち上がる私に、ハァ…とあからさまなため息を吐きつつ、けれどやっぱり諦めてしまったのかロシナンテは悲しそうな目をしつつ私に笑顔を浮かべていた。
彼が私に好意を持っていることは知っている。ずっと前からこんなだもの。何か言いたげにしながら近づいて、でもすぐには言えなくて、けど最終的には恥ずかしげにしながらも言いたいことを素直に言ってくるそんな彼。


「あ、そうだ。…よければコレ、あげるわ。…開いてるけど」


私はそんな彼に背を向けかけ、ああ…と今気が付きましたと言わんばかりに、制服のポケットを探ってそれを見つけ出して彼に投げてよこした。ロシナンテはえ?と驚きつつも、それを華麗にキャッチする。くしゃり。彼にとっては思いのほか柔らかかったらしいそれは、彼の強く握った手の所為で音を立てつつ残念ながら少しだけ潰れてしまう。彼はその手を開いてそれを見つめた。そしてすぐに肩を落とした。

「…タバコ、ね」
「別に出所は怪しくないから、飲んでも平気よ」
「…ハー。じゃあ、これは君からの貴重な貴重なプレゼントってことですか」
「ふふふ。そうなるの、かな」

手の中の無残に潰れてしまったそれにやはりあからさまな落胆のため息を吐く彼に、私は「じゃあね」ともう一度告げて今度こそ本当に彼に背を向けてその場を去った。
「…いってらっしゃい」
私の背中に悲しげなロシナンテの声がかかり、私はそれを背中で聞いて思いっきりニヤリとした笑顔を浮かべた。そして気持ち足早にこの場から立ち去った。



彼はいつ、気が付くだろうか。
そのタバコの側面に書いておいた私のメッセージに。


今すぐはちょっと困るかな。
できればこの建物から出てしまって、彼が追い付けないくらいに離れた時がいい。


私は酷い女だから。
そして、どうしてもいつだって素直になれない、見かけによらず恥ずかしがり屋な人ですから。


だから「誕生日おめでとう」の言葉と共に添えた、私の彼への思いを綴ったソレに気が付くのは…


もうちょっと先がいい。




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2016/7/15 おめでとうロシナンテ

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