雨に追われて
それは土砂降りの雨から始まって、唐突にみぞれへと変化した。そのみぞれは次にあられや雹に変わり、次いでそれは雹とは言い難いほどの氷の粒となり、今や子供の頭よりも大きな塊となっている。
この島特有の雨、なんだそうだ。それはいつ起こり出すかわからないらしく、島のあちこちには避難するための鉄製の小屋があって私とトラファルガー・ローは慌ててその中へと駆けこんでいた。
彼は今ハートの海賊団でありながら私たち麦わら海賊団と行動を共にしていて、たまたま私たちは二人でこの島を散策しているところであった。
双方とも最初の雨でびしょ濡れで、避難小屋の床にぼたぼたと雨のしずくが滴っていた。
「しばらく出られそうにないね」
「そうだな」
ため息交じりにそう言った私に、トラファルガー・ローはふん、と息を吐いて目を伏せていた。濡れてべたりと足に張り付いたデニムを見てチ…と小さく舌打ちしながら。
「暖炉、つけるね」
暖炉と薪があるので、手際よく火をつける。これで衣類を乾かすことができるだろう。ごうごうと燃え上がるそれに、少しずつ部屋が温まっていくのを感じながら私は服のジッパーに手をかけた。
「!」
上着を一気に脱いだところで、傍らのトラファルガー・ローがハッと息を飲むのがわかった。「?」。その反応に首を少しだけ傾げてみせれば、目が合った瞬間にトラファルガー・ローは私から目を逸らした。
「何か?」
「…いや」
私は簡易キッチンのシンクに脱いだ上着の水を搾って落とす。それを椅子にかけ、次いでパンツを脱げばそれも同様にした。
小屋の隅には毛布が重ねて置いてあったし、それを巻けば服代わりになる。
「あなたは脱がないの?」
「…」
「風邪、ひくよ?」
「…そうだが」
私に背を向けたトラファルガー・ローは濡れた服を脱ごうともせず、直立不動であった。
外ではどんどん氷塊が落ち、あっという間に気温が下がっているというのに。
けれどトラファルガー・ローはどこか途方に暮れたように窓の外に視線を送り続けるだけで、何もしようとしない。
時折ハア…と深いため息を吐いたり、頭をガリガリ掻いているくらい。
「…お前は変わってるな」
ただ、ちょっとした間の後呆れたような声でそう言われた。「そう?」。その時私はタンクトップを脱ぎ、ブラジャーを取り、ショーツも取り去って完全に裸になっていた。毛布を取って身体に巻くとようやく人心地ついた気がする。ああ、気持ちいいや。
「でも確かにそうかも。ナミたちにもよく言われるもん。『あんたは幼少時代を過ごす相手を間違えた』ってね」
「麦わら屋とそんなに長いのか?」
「生まれた時からだよ。ずーっと一緒」
フーシャ村で産まれた私は、同い年のルフィと共に生きてきたようなものだった。
二人で毎日村や山をかけまわって遊び、動物を狩ったり魚を取ったり。いたずらもたくさんし、ダダンさんと生活をし、海賊になって今に至る。
その日々の中で急な雨に降られることもよくあった。
『その時はこうして服を全部脱いでふたりで抱き合って暖をとったんだよ』
そう告げるとトラファルガー・ローは一段と深いため息をついた。
「ねえ。寒くないの?大丈夫?」
私は寒そうにしか見えないトラファルガー・ローの背中に向かってそう言った。
私にとってはこういう時、濡れたままの衣服を身に着けたままであることが信じられなかったのだ。
「抱き合うとさ、暖かいよ?」
「…」
すると突然、トラファルガー・ローはくるりとこちらを向いた。強い視線で私をまっすぐに見つめていた。
そしてドクロマークのパーカーの裾をたくし上げれば一気にそれを脱ぎ、私の目の前には彼の身体いっぱいのトライバルタトゥーが飛び込んだ。
純粋にきれいだな、と思った。
「なら、抱き合うとするか」
静かにそう言ったトラファルガー・ローが私に近づいてくる。
今はひんやりと冷たい私の肩に触れる彼の手も、ルフィがそうだったようにいずれ暖かくなることだろう。
そう思うと安心した。
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