超短編!〜平成 | ナノ
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スパークルA

〜身体が入れ替わった私とニジ様の物語〜


「…ックソ!ああ!!クソクソクソ!!!あぁああああ!!クソがクソがクソが!!!」


広々とした部屋で、私は先ほどから酷い悪態ばかりを聞かされていた。…私の身体から、…私の声で。
フカフカの高級絨毯の上をドスドスと歩き回る私≠ヘその顔を般若のように歪めてもいて、正直…見るに堪えない。
でも私は私≠止めることなんてできなくて、ただ部屋の片隅でオロオロとそんな私≠見つめることしかできなかった。…ニジ様の身体で。

「っこんな事ってあるか?!畜生!!誰の仕業だ!そいつを絶対に殺してやる!!いや!殺すだけじゃ足らねえ!!」
(ッッ!恐ろしい!)
「おい!お前は本当に何も知らねえのか!?誰かに何かされていたとか、何かをもらったとか??」
「ッッ!!し、知りません!!」
「…ックッソ!!そんな表情すんじゃねぇって言ってんだろ!」
「も、申し訳ありません!!」
「ウァアアアア!頭を下げるな!!!そんな恰好見たくもねえわ!!」
「ううう…」

突然に身体が入れ替わってしまった私とニジ様。
先ほど、城の廊下であわやイチジ様とヨンジ様に見つかりそうなところをどうにか交わしニジ様の私室に逃げ込んだ私たちであるが、今のところ私たちに出来ることと言ったらここで隠れていることだけであった。
突然身に降りかかった不運に戻る術なんてわからず、原因すらも不明!
正直どうすることもできなくて、だからだろうか、ニジ様は溢れ出る苛々と怒りを抑えることなく先ほどから散々な言いっぷりである。
でももうこれ以上言えることもなくなったのか、しばらくしてニジ様は「ハァアアアアーーーー」、盛大なため息をつけば部屋の中央に鎮座している青いビロードの椅子にどかんと座って大胆に片足を組んだ。うぉおーっと。スカート注意ですよォ!!!

「…決めた」

そして、しばらくの沈黙のあとニジ様が低い声でボソリとそう呟いた。ん?決めた??何を??

「…ど、どうかしまして??」
「このままだとおれは狂い死にするだろう」
「そ、そうなんですか!??」
「ああ。…だから…」
「だ、だから…?」
「…お前を殺す」
「はい!!?」
「そうするしかねぇ」

えええええーー!殺す!?殺すって言いました??私を??私をって…えーと…どっちなのかな!!??ニジ様の身体にいる私?それとも私になっているニジ様??!あああややこしい!!でもどっちにしろ何もメリット生まないんじゃないですかァア!!??

ジロ…

そしてニジ様はゆらりと椅子から立ち上がると、私を睨みつけながらしずしずとこちらへ近づいた。「…そこにしゃがめ」。ドスの効いた声でそう言いながら、両手をゆらりと上げている。…ってことは、殺されるのはニジ様になっている私ですか!?ちょ!!まっ!!!

「首に手が届かねえ。膝立ちになれ」
「ヒェエエエエエ!!お、お待ちください!!わ、私を殺してもニジ様が元に戻るかどうかわかりませんよ!!それに私が死ねばニジ様のお身体も一緒に死んでしまうんじゃあ??!」
「…うるせぇ。それで戻れるなら万々歳。そうじゃなくても、そんな気味の悪いおれをこの世から消せるんだからとりあえずは清々する」
「えーー!そ、それでいいんですか!?!」
「…構わん」

なんと、そんな理由でニジ様は私を死に追いやろうと考えているようだった。ちょっと!早計すぎやしませんか???その後のことをもうちょっと考慮したほうがいいんじゃ!?でもニジ様の目は本気で、恐ろしさで震える私の真ん前まで歩み寄れば伸ばした両手でドン!と私の身体を突き、私はその衝撃でいとも簡単に床へと倒れこんでしまった。ガクガク。足が震えて仕方がない。でもニジ様は容赦なくそんな私の身体の上にやってきて跨ると、ためらうことなく両手を首へとあてがいつつ顔を近づけてきた。

「暴れるなよ」
「いやーー!イヤーーーーー!!やめっっ、やめてっくだっ」
「!!クッソ!!首に手が回らん!!しかも固ェ!何なんだこの皮膚は!」
「ニジ様の皮膚ですもの!!!」
「ダァアアア!!頑丈すぎて歯が立たねぇじゃねえか!」
「っっん!っふ!!アッ…ハハ!やめ…、ちょ…!!くすぐったい、ですッッ!!」
「ハァ!??」

…しかし、私は運がよかった。
私が入れ替わった身体はニジ様であり、ニジ様と言えばジェルマの誇る科学技術により強靭化されたスペシャルなボディの持ち主。だから私のか弱い両手で首を閉めようと躍起になられても、正直言って…、その行為はくすぐりに近いくらいの行動にしかなっていない。だから私は先ほどから笑ってしまいそうなのを必死で堪えるしかなかった。アヒャ、アヒャヒャと変な声を上げそうになりながら首を捻ってニジ様の手から逃れようと必死になる私。ニジ様はその姿を見るなり心底鬱陶しそうに顔を顰めて「クソが!!!」、一声吠えてダン!!と私の胸に一発拳を振り下ろした。「ッッ痛ェ!」。まあ、…それは自傷行為にしかならなかったけれど。

やったあ!!私助かったぞ!ラッキー!!
そう思っていた。


「おっと…、これは…これは…」


でも、最悪なのはその後だった。
ノックもなしにガチャリと開いた部屋の扉、こちらを見つめてにんまりと不敵に笑い、声を上げたのは……先ほどどうにかかわしたと思ったヨンジ様。
彼は私と、私に馬乗りになるニジ様をじーっとたっぷり見つめた後、私を見つめてもう一度ニヤァと笑った。


「悪い悪い。お兄様にそんな趣味≠ェあったとは、なァ。邪魔したよ」
「「あああ!!!!」」
「というわけで、私は退散しよう。まあ、…アレだ。『ごゆっくり』ってやつだ。…フフフッ」
「あ、あのっ!!これは!!!」

…バタン。
高らかな嘲笑と共に、そしてドアが閉められた。弁明しようと手を伸ばしかけた私の手は空しく宙を舞うだけだ。…嗚呼。


「アアアァアアアアーーー!!何なんだアイツのあの顔はッッ!!!」


そして私のお腹の上では屈辱でいっぱいの顔をしたニジ様がそう叫んでバンバン私の身体を小さな拳で殴りまくっていた。
それは今の私には痛くも痒くもないのだけれど、ニジ様の手は私を殴るごとに真っ赤にはれ上がっているのだから止めて欲しいです。
…だってそれ。私の手。
…。



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