超短編!〜平成 | ナノ
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毎年恒例

「付き合ってもらえませんか?」
「一緒にいよう」
「少しの間側にいて」
「手をつなぎたいな」

…などなど。
こんな台詞を飽きるほど聞くようになると、ああ、夏が来たな…って思うようになった。果たしていつの頃からだろうか?


「今年もおれ、モテモテよ」
「さっすが。ヒエヒエの実の能力者、クザン」


そういえばその度に、彼女にそう言って愚痴るようにもなったっけ。この話題を毎年の恒例行事のように話し始めてからかなり長いから、おれが夏限定で人に求められるようになったのも同じく長いってことなんだねェ。

「ついには同僚の男からも好意を寄せられたよね」
「こんなに暑くちゃ男であっても君に求愛したくなるよ」

ため息交じりにそう言うと、目の前の彼女はおれのボヤきに腹を抱えて笑った。
笑いすぎて出た涙を細くて白い指先で拭いながら、窓の外から見えるぎらぎら眩しい太陽をちらりと見てまた笑う彼女。「本当に今年は猛暑だもの」。海軍本部全体がまるで蒸し風呂のように暑い夏の午後、そう言った彼女は喫茶室にあるテーブルにボトルに入った飲み物を置けば蓋を開けてその中身を一口飲んでいる。
こくりと動く喉も白かった。
こんなに日が降り注いでいるというのに、彼女は日焼けとは無縁。

「…冷やそうか?」

彼女の持つペットボトルの飲み物は見てみればすぐに常温であることがわかった。だからおれはそう言った。
言いながら手をそっと伸ばしてみる。
でも、彼女にすぐフルフルと首を振られた。「いいの」。そう言ってにっこりと微笑まれる。

「身体冷やしたくないから、いつも常温とかあったかいの飲んでるんだ」
「…。そうだったねぇ」

夏になれば冷を求めておれにはいつも嫌と言うほど人が集まって来るのに、彼女だけはどうしてだか、いつだってそうじゃなかった。
こういうのってよくある話ってやつだろう。
本当に必要としてもらいたい人には必要とされないってやつ。
毎年毎年、夏が来るたびにおれはそれを思い知らされる。

「ごめん。お待たせ」
「あ、ロシナンテ!」

そんな現実にため息をつきそうになった時、彼女に声がかけられた。
途端に真夏の太陽にも負けない眩しい笑顔となった彼女がそれに振り返る。
彼女の後ろには待ち合わせに遅れたことにすまなそうにして眉を下げた中佐がいたのだが、彼はおれと目を合わせるとすぐににっこりと笑った。
2人して向かい合っているというこの状況に何の疑いも持っていない、全くもって純粋な笑顔なのだから逆にこちらが申し訳なく思ってしまう。ちなみに、これは夏に限らずいつもの話。

「じゃあね、クザン」
「デートですか?いいねェ、君らは」
「ふふふっ。いいでしょ?クザンも早く誰かいい人見つけなよ」
「冬でも一緒にいたいと言ってくれる人がいればね」
「いるよ。必ず」

そして彼女はおれに可憐に笑ってバイバイと手を振ると、ごく自然に中佐の手に自分の手を絡ませれば彼とぴったり寄り添ってこの場から去って行った。

その見るからに暑そうな姿を見せつけられて、「冷やそうか」と言ってやりたくなるのをおれは抑える。
代わりに、今度こそ本当にため息を吐いた。深く、長く。

やれやれ。
いつもの事であるが、やっぱり毎年夏におれは失恋をするな。

そう思いながら冷えたため息で自身をクールダウンさせてるんだから、この能力を一番必要としているのは自分自身なのかもしれない。


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