スパークル
私にこんな能力があるなんて、知らなかった。なにせ生まれてから一度もその能力を発動させたことなんてなかったんだもの。
「も、もしかして私たち…」
「入れ替わってる、だと??!」
それは私がジェルマ王国で働き始めてすぐのことだった。
ここでの生活を始めるにあたり、仕事が厳しく大変で、しかも王子様からよく殴られたり蹴られたりすることがあるとは聞いていた。
だから今回ちょっとしたヘマで第二王子であるニジ様から強力なパンチを食らった時は「これかー!!」と泣きながら心の中で思っていた。
あまりにも威力あるパンチで吹っ飛ぶ私の身体。
そんな次の瞬間!
その身体を私は見た≠フだから驚いた。
吹っ飛んで廊下の壁に激突し、へなへなと床に崩れ落ちる私の姿。それを何と私はずっと傍観していたのだ。少し離れた場所で。
死んで魂でも抜けた?!!
そう思った。
「くっそ…。痛ェ…」
だが、その後すぐに何かおかしいことにも気がついた。よろよろと立ち上がる私≠見つめる、その目線が随分高くなっている事に。しかも、立ち上がった私≠ェ私を見るなり驚愕に目を見開かせながら「…おれ…がいる…」と声を震わせてこちらに近づいて来る事に。慌ててこちらの身体を見てみれば、着ている服が明らかにニジ様のものでしかない事に。
それで先ほどの台詞が思わず出た。まるで映画でしかないじゃないか!
「お前!!何かの能力者だったのか!?どういうわけだ!!何でてめぇの身体とおれの身体が入れ替わる!?」
「わ、わかりません!それに私は能力者じゃないんです!しかもこんなこと初めてでございます!!」
「ええい!すぐ元に戻せ!こんな姿、気持ち悪くて吐きそうだ!」
「そ、そんな!わからないです!どうすればいいのか全く見当もつきません!!」
「はぁ!??」
近づくなり私の胸倉を掴んだ私=i=ニジ様)は顔を般若のように歪めながらそう詰め寄った。が、この現象をどうにかするだなんてそれを初めて経験した私にできるわけがない。ニジ様は苛々と頭を掻きむしるとクソーー!!と咆哮を上げ地団太を踏んでいる。私はそんなニジ様を見ておろおろすることしかできなかった。ああ、そんなに髪をぐちゃぐちゃにしないで。それに大股でドスドス歩かないで。そして、そんな事が気になった。
その後、人気のなかった廊下の向こうから兵士らしき人間の声がすると、ニジ様は慌てて私の手を引っ張って、どこかの一室の中へと引きずり込めば腕を組んでブツブツと何かを考えこんでいた。
「入れ替わる前、おれはお前を殴ったな」
「は、はい。そ、そうですね!」
そしてしばらく考え込んだ後ひと言そう言って私を睨んだ。
「ならもう一度お前を殴れば元に戻るかもしれねえ」
「は!…そうですね!そうかもしれません」
成程確かに。そう思っているとすぐにニジ様は拳を振り上げ私の腹にグーパンをしてきたので慌てて身構えた。ガッキン!!!すると信じられない音が響いてびっくりした。「いってぇえええええ!!!」。しかも直後に手を腫らし涙目になったニジ様がそう叫び、しかも軽く吹っ飛びながら尻もちをついた。あああ。私の手がー。
「くっそ!!おれの身体はこんなに固ェのかよ!!しかも元に戻ってもいねぇ!!あああ!!畜生!手が痛ェぞ!!」
「い、痛みますか??」(おどおど)
「おれの顔してそんななよなよした声出しながら近づくな!気持ち悪ィ!!」
「す、すみません」(…シュン)
「だからそんな顔してんじゃねぇって言ってんだ!ただの召使ふぜいが!クソ!どうしたらいいんだよ!!!」
腫れた手に触れようとすれば勢いよく払いのけられそう罵られる。
私の顔を奇妙に歪めてそんな言葉づかい使うのホントやめて欲しいと思ったが、その前にこの現象をどうしたら元に戻せるかが本気でわからないから困った。
私たちはこれからどうなるのだろう??!
「おい。ニジ。どこにいる」
「その変にいるんじゃねぇの?さっき召使を殴って来るって言ってたからなー」
しかもイチジ様とヨンジ様の声がして、ニジ様がうぐっと顔を青ざめさせている。
そんなの、私も同様にうぐ…と眉を下げるしかないじゃないか。
一体どうしたらいいのだろう。
いきなり波瀾万丈すぎる人生だ。
――
続くかもしれない
続かないかもしれない
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