超短編!〜平成 | ナノ
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よもやよくあるラブストーリー

私の通う女子大のカフェテリアはかなり美味しいという事で有名だ。
食事メニューは豊富だし、デザートもかなりの種類が日々揃っているため、いつも生徒たちで賑わっている。

「ええー、スペシャル売り切れ〜??うっそー」
「だいじょ〜ぶだよ〜麗しのレディ〜♪♪普通の日替わりにスペシャリティを一品サービスしてあげる〜〜」
「やったあ!ありがとうサンジさーん♪じゃあ日替わりで!」
「オッケー☆」

そしてもう一つ、そこで腕を振るうシェフがかなりのイケメン且つ料理上手だということも有名だった。
友人が頼もうとしていたスペシャルランチが売り切れでかなりがっかりしていたところ、すかさずそう言ってくれるサンジさん。友人の麗しの微笑みにでれーっと目をハートにした彼は慣れた手つきでいそいそと日替わりに追加する一品を作り始めている。

「はい、お待たせ。スペシャルにしといた日替わりと、あとは君のいつものオムライスセット」
「わーおいしそ〜う!ありがとー」
「いただきます」
「へへっ。後で料理の感想教えてねーレディたちっ」
「はーい」

私たちに笑顔で料理を渡してくれたサンジさんに友人はもう一度魅力的な笑みを浮かべながらそれを受け取った(それにサンジさんはハートを射抜かれていた)。私は自分のオムライスを、彼女と比べるとちっとも魅力的にできない笑顔で受け取って、窓際の席へと移った。サンジさんはハートの目でキッチンから友人に向かって手を振り続けていた。

「…サンジさん、きっとあなたのことが好きなのね」

そんな彼の姿を見て、思わずそう言っていた。友人は手を振るサンジさんに笑顔で手を振り返しつつ、私を見つめると「そだねー」と笑顔と裏腹に素っ気ない声でそう言った。
「でもー、付き合うとかぜんっぜん無理ー」
しかもそう言ってフォークを持つと、付け合わせのパスタにそれをさしてぐるりと巻き付けた。
「だってコックさんだよーー?年収低いじゃん、絶対。私は高収入な人と付き合うの」
「…」
かっこいいだけじゃダメダメ〜!
その子はうふふとかわいらしく笑い、私は曖昧にそれに頷き返した。そしてその後彼女はいつも通りパスタをお皿の端っこへと避けていた。
確かにね。
この子はいつも医者だとか弁護士だとか、そういう人を狙ってる。


…そして数日後。
私の通う女子大は突如として、ある話題で持ち切りになった。

「うそぉ〜〜!!サンジさんって…あの、…あの、ヴィンスモーク家の息子さんだったのぉ〜??!!」
「…」

ある日、我が女子大に高級外車が数台止まり、中から誰もが知る有名人、ヴィンスモーク・ジャッジさんが降りてきたときは生徒全員が騒然となった。
彼の側には同じく有名である娘のレイジュさんがいて、彼女はそのまま大学のカフェテリアへと入って行けば厨房の中のサンジさんの腕を掴んで引きずり出した。「家へ帰るわよ」。そう言いながら。
私も友人もその一連の出来事を聞いた時は驚きでしばらく口がきけなかった。
どうやら大富豪であるヴィンスモーク家での生き方に嫌気がさしていたサンジさんは好きな料理の道に進むべく、家を出てここで働いていたんだそうだ。
途端に友人の目がきらきら輝きだしたのがすぐにわかった。
私はその変わり身の早さに苦笑する。
そしてお姉さんに連行されたサンジさんはそのまま学校のカフェテリアから消えてしまった。
あの絶品オムライスも、友人がいつも残すからと頂戴していたおいしい付け合わせのパスタが付く日替わりも、もう食べられないらしかった。



友人はあれからヴィンスモーク家に訪れるなどしてサンジさんに会えるよう頑張っているらしい。彼女からの「会えないよー(><)」という泣きべそラインで私はそれを知った。実に努力家だ。
そう思いながら町をいろいろと歩き回って見つけた何件目かの洋食屋でオムライスを頼んだ。
学校のカフェテリアのコックさんが変わってからというものの、私はおいしいオムライスを出してくれる店をずっと探しているのだが、納得できる味を出す場所は未だに見つけられていない。

「…まあ、仕方ないか」

でもきっと、どんなに頑張ってもあんな絶品料理にはもう二度と出会えないんだろう。あの人の…サンジさんの料理は特別だったから。
そう思いながらずっと抱いている喪失感と共にテーブルクロスのギンガムチェック模様をぼーっと見つめ、とけた氷でカラン…と音が響いたコップを指先で弄んでため息をついた。

「ほらよ。お待たせ」

その時にふわり、と卵の匂いがして店員さんが近づいた。
白いヒゲを三つ編みに結わえたおじさんは不愛想な顔でオムライスをゴトリと置き、それをちらりと見た私は「…」、途端にお皿に釘付けになっていた。

「ウチのチビナスシェフがスペシャルにしといた、と言っていた」
「…」
「全く。新入りの癖に生意気なガキだよ」

ふわふわの卵がかぶさったオムライスの側には、見覚えのある付け合わせのパスタがぐるり。
私がおじさんを見上げてくしゃりと笑うと、おじさんはそれにニヤリと笑い返しながら目線の動きで厨房のほうを示してくれた。


「おれを探してくれたのかい?」


懐かしい声だった。
でもとりあえず言っておくと、私は自分の口に合うオムライスを見つけようとしていただけだ。

だから、友人にはこのことはちょっとの間だけ内緒にしておこうとそう思う。


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