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障害のある恋

後ろから抱きしめて、そっと彼女の頭の横に自分の顔を埋めてみた。
頬をくすぐる彼女の髪から、甘いシャンプーの顔りがして思わず鼻がひくついた。
その事に思わずフ…と笑ってしまったりなんかして。
「いい匂いだ」
なんて言ったりなんかして。
彼女の肩にのせた俺の顎を主張するようにグリグリっと動かしたりなんかして。
彼女の頬と俺の頬が時折かすかに触れるたびに、心がこの上なく躍ったりなんかして…。
ああ、何て幸せだ、なんて…俺は今そう思っている。


でも、悲しいかな。
彼女はそれに決して動じない。
決して動じずに、ただ、ふふっと穏やかに笑っていたりする。


彼女の顔は今の体勢では見えやしないのだけれど、きっとその顔は、俺のこの突然の行動に対して焦ったりだとか、驚いたりだとか、ましてやときめいている…などといった甘い感情など少しも浮かべていないに違いない。
ただ、受け入れて、あっさりと消化して、何やってるのトラファルガー君…なんて思っているに違いないのだ。


「ふふふ。どうしたの?トラファルガー君。甘えちゃって」
「べつに…。いいだろ。好きだからこうしてる…」

かっこつけてそんな風に言ったって、やっぱりその言葉は彼女の心を決して動かしたりなんかしないんだ。

だから俺は毎日、どうにもこうにも埋められない、縮められない彼女との距離…いや、この『差』に悩まされてしょうがないんだ。


「机から降りなさい。お行儀が悪いから」
「…」

振り返った彼女はそう言って俺を抱っこすると、俺が身長差を縮めようと登っていた机から床へと下した。途端に見上げることになってしまう、彼女の微笑んだ顔。いつだって、俺はこの、どうしても縮まらない彼女との『差』に、泣きたくなるくらいの絶望を感じているんだ。


「園児に好かれるのはとっても嬉しいな」
「…」


そして彼女は華やかに笑って俺の頭を撫でるのだ。まるで大人な顔をして。まるで子供な俺に対して。
俺はそっと唇をかみしめた。
俺はそして、そっと心の中で哭(な)いた。



トラジックチャイルドは、今日も密やかに悲恋の淋しさを抱き、抜け出せないおもちゃの箱の中にいる。

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