超短編!〜平成 | ナノ
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彼は優秀

私の好きな人はマルコ隊長だ。


「あ、…ッ」


その彼の背中をぼうっと見つめながら島の中を歩いていたら、間抜けにも木の幹に足を取られてこけそうになった。
しかも、苔で滑って体勢が崩れ、グキ…と鈍い音もした。
その痛みで出た呻き声と、地面に崩れ落ちる私に周りにいた仲間たちはギョッとした顔をして歩みを止めた。

「何やってんだよい?」

マルコ隊長はゆらりと振り返って呆れ顔だ。
でもすぐさま私のそばまで歩み寄ると、その場にしゃがんで私が顔を歪めながらさすっていた足首に手を当ててくれた。

「少し捻ったな」

くす…と。ドジな船員である私を小さく笑う彼はそのまま再生の炎を掌から出現させれば私の足首をその手で包み、撫でた。
そうすれば痛みはゆるゆると消えて、彼の手も離れていった。

「これでよし。少しはマシだろ?お前、前見て歩けよい」

そしてマルコ隊長はまたクスリと笑って立ちあがると、私に背を向けて行ってしまった。
あっという間だった。
彼の体温を感じられるほどに、私の側に彼がいたその瞬間は。

「おい大丈夫??平気か??肩、貸そうか??」

その後はエース隊長がやってきて私に手を差し出してくれた。
でも私は首をふるふる振って、大丈夫だとエース隊長に告げた。

あーあ。もう…。
マルコ隊長じゃなくて、エース隊長が船医ならよかったのに。
私はぼやく。

私がして欲しかったのは治療じゃなくて、こんな風に、マルコ隊長、あなたに手を差し出してもらうことなのに。
そのまま手をとってもらって、一緒に歩いてもらう事なのに。
優しいエース隊長は私が断ったことをつまらなそうにしてるけど、申し訳ないかな、あなたではだめなのだ。


再生の炎なんて有能すぎる能力使う船医が好きな人だなんて、ほんとこういう時ときめきイベントが発生しないや。

あ、でも、少しだけ、ほんの少しの間だけは最高に幸せだったけどね。

彼の撫でてくれた足は未だぽかぽかと暖かくて、私はずっと胸がドキドキしている。それは確かだから。



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