超短編!〜平成 | ナノ
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ヴィンスモーク家といえばかなりの資産家である事が一番に有名であるが、他にも有名なことがある。それは子息たちがかなりの健康優良児である…ということだ。
事実イチジたちは生まれてこのかた病気になったことがなく、ましてや熱すらだしたこともなかった。どんな無茶をしても酷い怪我を負うことはなく、擦り傷程度で済んでしまう。最早「丈夫」というより「頑丈」という言葉が彼らを形容するにふさわしいのだ。
でもただひとり、サンジだけは例外だった。
どういうわけか彼だけは普通の子供らしい体質をしていた。
なので時折、寒暖差の激しい日があればサンジは簡単に高熱を出していたし、何かあればそれ相応の負傷をした。
ちなみに今日は風邪をひいているらしい。
レイジュによると今朝から彼は咳が止まらず家で寝込んでいるんだそうだ。

「…まったく、情けねぇやつだろ?」

ヴィンスモーク家にお邪魔した時、イチジが現れて玄関先でそう言った。
身体の弱いサンジを心底軽蔑するようにフン、としかめ面するイチジ。でもすぐに「でも、おれらは元気だからな」と笑って言って私に中に入るよう促してくれた。
でも私はううん、と首を振って持っていた紙袋に手を入れて黄色いリボンを結んだ包みを取り出し、それをイチジに渡した。イチジはじ…とそれを見つめて首を傾げた。

「…何だこれは?」
「クッキー」
「クッキー??」
「うん。サンジにお見舞い。今朝作ったんだ。イチジ、渡してくれる?」
「え?!」
「今日はそれを渡しにきただけ。もう帰るね」
「…なっ」
「お大事にって伝えてね。それじゃ」

イチジは目を見開いて手のひらの上のクッキーの包みを凝視して立ちつくしていた。
その後「何だ何だ」と現れたニジとヨンジは、イチジの持つひとつきりのクッキーを見て何やらぎゃあぎゃあ騒いでいるようだった。
…あ。
イチジたちの分も作ってあげればよかったかな??
すっかり忘れてたや!



その後しばらくして私は元気になったサンジと出会った。
クッキーのお返し、と言ってヴィンスモーク家の庭に咲いていたであろうきれいな白い花を一輪くれた彼は、「はぁー」と肩を落としつつ疲れ切った顔をしながら「あいつらがウザくて困ったよ」と言った。

「なんで?」

私が聞くと、サンジは思い出すことすら面倒くさそうにしかめ面して言った。

「…あの日あいつら、寝てるおれの部屋に来て『風邪のひきかたを教えろ』って言ってうるさかったんだ」
「…」


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