超短編!〜平成 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
その時≠ヘ君に任せた

私の初恋の相手は海賊さんだ。
20年前ふらりとこの島に現れて住み着いたその人は、以後気の向くままに航海に出れば何か月も戻ってこず、帰ってきたなら海で釣りをしたり村の酒場で飲んでいたりそんな日々を過ごしている。
ちなみに私は彼のそんな生活の最初の頃はこの世に生まれていなかった。
その彼は初めこそ海賊であるが故に恐れられていたが、20年も経ってしまうと住民も慣れたのか、その人の元々さっぱりして明るい性格のせいなのか、今となっては皆から慕われており、頼られている。そして私は物心ついた時からその海賊さんが好きで、今の今までずっと彼一筋で生きている。
その海賊は、名前をエースさんと言う。


「あー!帰って来たんだ!!!」


それは数か月ぶりの再会だった。
毎日の日課で彼の住みかの前を散歩している私は、部屋の窓が開けられているのを見て興奮冷めやらぬままドアをノックし中へ押し入った。
小麦色に日焼けした肌にそこまで目立つ傷がないのを確認するとホッとした。
潮風でパサついた黒髪頭をポリポリ掻いていたエースさんは私を見るなりニカッと笑うと「おう、久しぶりだな!」と明るく言った。
前よりも少しだけ目尻にできる皺が深くなったかな??
エースさんの笑顔をじいっと観察してそう思った。
それでも、彼はこの村に住む同い年のおじさんたちよりはよっぽど若く見える。

「もー。今度はどこ行ってたの??ずいぶん遠くまで行ったの?」
「んー。イーストブルーまで行ったな。久しぶりにフーシャ村に行きたくてよ」

エースさんは懐かしそうな表情を浮かべ、部屋の家具に掛けてある埃をかぶった布をバサりとふった。その姿に私は少し嬉しくなる。部屋の片づけをしているという事は、しばらくこの村に滞在するということだからだ。
だからまた明日も会える。きっと明後日も。
ドキドキと胸が高鳴った。
エースさんは布を全て取り払うと、それをナチュラルに差し出してきたので私は受け取った。私が部屋の片づけに出くわすといつもそれを手伝っていたからだ。それをたたんで、チェストの上に置くとエースさんは「ありがと!」とお礼を言って椅子にぎしりと腰掛けた。私はそのままいつもみたいにやかんに水をいれて火にかけてお茶を作ってあげた。エースさんはニュースクーの新聞を広げ、「おー。今年もルーキーがシャボンディで暴れてんなあ」と楽し気に言っている。お茶の缶を開けて中身が使えるか確かめて、その後二人分のお茶をテーブルに運ぶとエースさんは嬉しそうにそれを手に取った。

「もうエースさんはルーキーどころか中堅どころ??いやいや、それ以上ってやつですねぇ」
「信じられるか??今回のルーキーの一番の若手は18歳だとよ!!おれより22年下って、まるで息子だ」
「エースさん息子いないじゃん」
「まあそうなんだけどな!」

ニシシ!
私のツッコミにエースさんが大声で笑い、するとさらに目尻の皺が深くなって魅力的だったが反対に私は胸がチリ…と痛んだ。
私も今18歳。
エースさんにとっては18歳は息子や娘の年齢となるらしい。
だから私の初恋が実ることは難しいのだろうとそう思ってしまった。
でも私はこの恋をとめられない。
例え何か月会えなくても、こうしてエースさんに再会できれば彼が好きだと再確認してしまう日々。

「そういや、お前、学校はどうよ?」
「慣れたよ。あと1年通って、資格がとれたら私も一人前」
「なーるほど」
「エースさんはそろそろ引退を考えたほうがいいんじゃない??そろそろ船旅もきついでしょ?若手がどんどん活躍してるし」
「いやあ、まだまだ。あと20年は現役のつもりだ!」
「…20年」

その言葉を聞いた途端、ズーンと気が重たくなった。20年後。私は38歳。エースさんは60歳!!そんな遠い先の未来は想像もつかなかった。そのころまで私とエースさんはこんな風に一緒にお茶を飲めるだろうか??いやそれよりも、エースさんはその間についに誰かと結婚してしまうかもしれない。村にいる間は私が好きですオーラをまき散らしながら彼にまとわりついているけれど、彼もそれをわかってるのかわかってないのか、普通に受け入れて側においてはくれるけど。海に出てしまうと彼がどんな生活をしてどんな女性に会っているのか私には全くわからないのだ。あーーー。考えれば考えるほど辛くなる!!フウ…。だから自然と重たいため息が口からこぼれ出る。

エースさんは途方に暮れた私の表情がわかったらしい。
ふ…と小さく笑うと、カップから手を離して私の額をコツリと指先でつついて言った。
私はそれを聞いて驚きで目を見開いた。


「…で、引退後はお前に世話してもらうかなァ。介護士になるんだろ?」
「!!」


だから資格必ず取れよー


…だなんて。

そんなコト、今まで一度も言ったことがないくせに、いやはや、急にどうしたと言うのだろう??!
何かあった??
死に直面するような恐怖にでも??
その瞬間、エースさんはまさか私の事を思い出したと言うのだろうか??
え??信じられない!
でも、もしそうならば……。
……嬉しすぎる。


「まあ、こんなオジサンが相手でもよろしければ、だ」


その後照れた私に付け加えるようにそうも言われて、私は何か言おうにも言えなくて、ただ酸欠の魚みたいにパクパクと口を動かすことしかできなかった。

実らないことが定説である初恋が成就することも…、たまにはあるってことでしょうか??

私はそう思いながら、恥ずかしさでうつむいたままぷるぷる震える手でお茶の入ったカップを握りしめた。




「…いや待て!!60で介護は早ェわ。世話になるのはいまから60年後だな!!」
(!!…私、その時体力残っているかなあ…??)




prev index next