超短編!〜平成 | ナノ
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カラフル!C-青春編-

「ねえ。この間クラスメイトとデートしたんでしょ?どうだった?」

ある日の午後、好奇心いっぱいの眼差しのレイジュさんがそう聞いてきてきたから私は飲んでいたお茶を吹きそうになった。
彼女に誘われて訪れたヴィンスモーク家のティールーム。
その台詞が言い放たれた瞬間、部屋の空気が途端にぴんと張りつめるのが分かったので居心地が悪くなった。
何故か現れて一緒にお茶を飲んでいたイチジたちの眼差しが途端にじ…と私に集中するから逃げ出したくもなる。
「教えてよ♪」
漂い始める明らかな彼らの不機嫌オーラ。
いやいや、そもそも、何でその事を知っているのデスカ??お姉さん??

「あー。その。クラスの人が宿題を見せてあげたお礼をしたいって言ってきてそれでなんだけど。…え?もっと詳しく??えーと。…あの。駅前で待ち合わせて…そのあと一緒に水族館に行って。え?その後も??ううう。魚を見て、イルカショーを見て、そのあと人気のパンケーキやさんに行って、一時間並んで。それで、パンケーキを食べて…。そ、そのあとのことも??うーん…な、何したっけなあ??あ、ああ…、かわいい雑貨やさんがあるからって連れて行ってもらって、そこで北欧雑貨を何個か買ったんだった。…で、そのあと公園へ行ってぶらぶらして、ベンチに座って学校のこととかいろいろ話して…そ、それで終わりだよ!!」
「わあ。行く場所の選択が若くてカワイイ〜!!何をしても楽しそう!!いいわねえ若いって」

私が一通り語り終えると、レイジュさんは更にウキウキしていた。しきりに若い、を連発し(3歳しか違わないのに…)、「で?どうなのその人と??」とその調子のまま聞いてくる。…どうなの、と言われましても…。相手はただのクラスメイトでしかないし。

「なんだ…。そのつまらねぇ休日は…」

すると黙って聞いていたイチジが不満そうな声でそう呟いた。
ニジとヨンジも同意すると言わんばかりにコクコク頷き、「水族館に、パンケーキに雑貨屋だって??」と私の行った場所を馬鹿にするような口調で繰り返す。
まあ…、熱帯魚やイルカなら南の島に行って直接海で見るような人たちだからね。
パンケーキは屋敷の専属コックさんが三ツ星レストラン並みのものを供するだろうからね。
手頃価格の北欧雑貨なんて興味ないだろうし…ね。

「でも、楽しかったよ?」

へへっと苦笑いを浮かべ、それでも庶民の私には十分に楽しめた日であったことを伝えると、高貴な彼らはムッとあからさまに嫌な顔をした。「…クマノミとか可愛かったし」。私がさらにそう言うと、イチジはティーカップ(マイセン)の中身をがぶ飲みして「チッ」と舌を打った。ガチャン!割れるんじゃ…と心配するくらいの強い力で食器を置いて、「うるせえ」。ひと言そう告げるれば立ち上がってティールームから去って行く。その横顔は不機嫌なままだ。
「お前、そんなもので喜ぶなんてお子様だな」
「まあ、私等には理解できないが」
同じく不機嫌顔のニジとヨンジも立ち上がるとそう言ってティールームから消えた。
「じゃあ、今度はおれと動物園行かねえ??」
サンジだけはとても優しかったのが有難い。





そんな日から数日。
突然イチジたちから家に来いと言われたので、何だろうと行ってみると屋敷の一室に巨大なアクアリウムが出来ていたので驚いた。
クマノミをはじめ、ナンヨウハギやキイロハギ、グリーンサロンシュリンプ。色とりどりのそれらが真新しい水槽の中を可憐に泳いでいるから私は呆れかえる。
明らかに家庭用じゃないサイズの水槽。でも、この屋敷の設備としては全く違和感がないのだからその後思わずクス…と吹き出してしまった。
隣に立つイチジが「いつでも見に来ればいいし」とぶっきらぼうにそう告げる。
やれやれ。全く…。ヴィンスモーク家の人間ときたら。

「…ああ。ついでに甘いもんでも食っていけ」

しかも、おいしそうな匂いと共にテーブルに2段重ねのパンケーキがおかれた。
北欧食器に入れられた暖かい紅茶と共に。


「ねえねえー。どうしてその男の子と付き合わないのよーつまんないー」


先に椅子に座ってパンケーキを食べていたレイジュさんはつまらなさそうにそう言った。
ひらひら泳ぐクマノミを目で追いながら、結局あの日のデートのみで終わってしまったクラスメイトとの結末に、「だってもともと好きな人じゃなかったし」と笑って見せると、イチジたちがフ…とさりげなく小さな笑みを浮かべるのが見えた。



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