2016Xmas | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

Walk with SantaClaus


寒くてたまらない夕方。道を歩いていたらサンタクロースがいたので私は思わず声をかけた。

「サンタさんお願い。プレゼントください」

するとサンタさんはそんな私に顰め面を浮かべつつプレゼントをくれる代わりに頭を容赦なく小突いてきたので「痛ーい!酷ーい」、その場所を撫でさすりながら同じく顰め面でそう抗議してやった。サンタさんの恰好をしたエースは表情を崩しながらククッと可笑しそうに笑う。けれどその後はまるで私が邪魔者であるかのように手でしっしと払ってくるので憎らしい。

「うるせえんだよジュリ。バイト中に話しかけんな。サンタは忙しいんだぞ」
「ふーん。クリスマスだっていうのにサンタコスでバイトかぁ。寂しいね」
「放っとけ!これが俺の現実なんだ。リア充カップルが少しでも俺を見て和んでくれればそれでいい」
「ふふっ。とか言いつつバイト後は彼女とリア充するんじゃないの?」

私はサンタの付け髭をつまみながらそう言ったエースを笑いながら茶化した。ちくりと傷んだ胸には当然、気が付かないふりをして。

私とエースはいわゆる親友だ。
出会いは半年前、場所は大学にて。共通の知人を通して知り合った。
話してみると趣味が同じであっという間に仲良くなって、そしてよくある話そのまま私はたちまち彼に恋をした。でも彼を知れば知るほど、きっと彼女がいるんだろうなあ…とそう思い知らされる毎日だった。明るくて楽しい彼は男友達どころか女友達も大勢いて、はっきり言ってモテる男。『彼女?いねーよ!アハハ』。誰かしらがたまにする恋人いるんでしょ?…の問いかけにはいつも笑ってそう返答する彼だったが、それははっきり言って嘘だとしか思えない。だから私はいつだってこのあふれ出そうな思いを隠しつつ、どうにか作った笑顔と何とも思っていませんよ…な態度で彼とトモダチ♀ヨ係を続けている。

「ハァ!?何だよお前。いつも言ってんだろ?彼女なんていねーって」

…が、エースは私に小さく声を荒げつついつもの台詞を言ってきた。「またまたぁ…」。私は途端にくさくさし始めた感情を抑え込みながら、エースを見つめていられなくなってふい…と彼から目をそらした。


「…そういうお前こそどうなんだよ」
「私?ま、見てのとおりよ。私もこれからバイト。リア充カップルのために今夜はおいしい料理を運びまくるの」
「何だ俺と同じじゃねーか!…で…、その後は?」
「はぁー…。コンビニケーキでも買って食べるかな」
「一人じゃ食い切れねえだろ」
「バカね。一人用のを買うのよ」

最後の自分の台詞にぐさりと傷つきながら、私はじゃあね!とエースに手を振った。
冷たい木枯らしが吹き抜けるこの場所は立ち話しをし続けるには辛いから…。そう思わせるために二の腕を手のひらで何度もこすってみせながら。
防寒のためにモコモコと着ぶくれている太っちょサンタさんは「そっか」。素っ気なくそう言うと、じゃあな、彼もまた私に対して手を振った。

「ジュリバイト何時までだ?」
「10時」
「そっか。俺は9時」
「なーんだ」
「あ?何だよ」
「残念だなーと思って!帰り道にサンタはいないのか」

私の台詞を聞いたエースはふんっ…と息を吐くと「ま、サンタは忙しいからな!」そう言って二カッと笑った。本当に残念だよ…。半年かけてずいぶんと上手になった作り笑いを咄嗟に浮かべると、私は言いかけた言葉を飲み込んでそっと彼に背を向けバイト先へと急いだ。





「ジュリちゃーん。暇ならバイト後俺と飲もうよォオオオーん♪」
「ハイハイ。サンジさん、また来年ね」

厨房ですいすいクリスマスの特別メニューを作り続けるサンジさんが言ったそのセリフを笑って突っぱね、私はまた一組の幸せそうなカップルへとデザートを運んだ。
サンジさん特製のおいしそうな手作りケーキ。
コンビニデザートも最近は進化してかなりおいしくなってきているが…でもまあきっと、一人で食べればその味もあまり感じとれなくなるだろう。特に今日、こんな日であれば。

(ハァ…)

そしてお客さんに気づかれないようにそっとため息を吐きながら、今後も叶わないであろうこの恋心をどうやったら終わらせられるかを考えた。
消えることを願ってもずっとなくならないまま年末が来てしまい、そしてこのまま新しい年を迎えてしまいそうである。
…せめて来年のクリスマスまでにはどうにかしたいものだ。
そう思ってもうひとつ、ため息を吐いた。


カランカラン〜


すると、そんな悲しみにくれる私の前、「はーい!いらっしゃいま…」「フォッフォッフォ♪」「…」、何と突然ドアベルの音と共にサンタクロースが現れたので思わず口が固まってしまった。
エースはあの時見かけた恰好のまま店の戸口に立っていて、はあはあと息を弾ませながら私の前まで歩み寄ると大きな笑顔で持っていた紙袋をこちらへと捧げてくるのでこの身体もその事態には固まった。


「ハァハァ…。ジュリ、メリークリスマス!」


あ、サンタクロースだ!
店内にいるカップルたちがそう言って笑い声をあげる中、エースはそんなことなど気にも留めずに、動けなくて唖然としている私の手へと無理矢理にその紙袋を握らせた。

「さっき、あげられなかったから」
「…」
「プレゼントでーす」
「……」
「ちゃんとケーキ屋のケーキだから美味いぞ」
「でかいんだけど…」
「それしかなかったんだよ。へへっ」

どうみても大きすぎる紙袋に私がようやくそうとだけ伝えると、エースは照れ臭そうに笑って「じゃああと少し、バイト頑張れよ」手を振って踵を返した。

そして、エースは、もう一言。
私に背を向けたまま何とこう言ってきたので心臓は飛びあがるくらいに跳ねてしまうし、その音はここにいる人全員に聞こえてしまうんじゃないか?と思うほどに大きくて私は焦った。


「帰り道で待ってる!食い切れねえだろ??」


そう言い放ち、冬の街の中へと小走りで消えていくサンタクロース。
私は手に大きな紙袋を下げたままその言葉を何度も頭の中で駆け巡らせ、鼓動が早まるばかりである心臓と熱く火照った顔と共に彼の小さくなりゆく背中をただじ…と見つめた。


「もう上がってもいいぞ〜」

くつくつ。
すると、笑うサンジさんが厨房の向こう側から爽やかにそう告げる声が聞こえてハッと私は我に返る。


…そうすれば途端に店内のカップルたちがクスクス笑って私をはやし立てるその声にも気づいてしまって、何が何だか、もう色々とパニくって大変すぎる今年の聖夜。



おしまい


prev /

BACK