2016Xmas | ナノ
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招待状が届いたら…



「…キャプテン。あの…私、…えーと…、お、おいとまをいただいても……よろしいでしょうか??」


温かな日差しが甲板をあたためている、そんな穏やかな午後。
私はベポを背もたれにしてくつろいでいるキャプテンに向かって恐る恐るそう言った。すると途端にキャプテンは手の中の新聞をぐしゃりとつぶし目を見開いた。続いてたっぷり五秒くらいの沈黙。…そしてその後、油の差していない古びたロボットのようにギシギシと首をスライドさせながら私を信じられない、という目つきで睨みつけてきたので私は慌てて目を伏せるしかなかった。…この流れは…とってもヤバいということを物語っている。もうこの後自分がキャプテンに激怒される未来が…簡単に予測できる。

「ど う い う こ と だ」
「あのあのあの!おいとま、と言っても海賊辞めたいわけじゃなくて…、その、一週間か二週間の…自由な時間が欲しくて…」
「意味が分からねえ…。お前は今ここで自由じゃねぇと言いてえのか?」
「そういうわけじゃないんです!!!あの!!ちょっと……行きたいところができたというか…」
「…何があった」
「…そ、それは…」
「そういえばジュリ、この間レタークー(ビブルカードがあれば必ず本人に直接お届け!優秀なクー達による郵便配達)からお便りもらってたよね?速達で」
「ベポ!!何で知って…!!」
「…手紙?」
「……」
「しかもレタークーからの速達…だと?」
「……」
「おい、まさか…。テメェの身内に何かあったとでも言うのか?」
「えぇ!!?」
「…危篤の連絡でもきたのか?」
「それはっ!!えーと!!」
「えええ!!ジュリのお父さん死にそうなの!!??大変じゃない!!??」
「親父が危篤なのか!?」
「あわー!!」

ベポの突然のいい加減な発言のせいでなんだか事態が究極におかしくなりはじめた。なので私は慌てて「違いますー!!」と言って手を振り、首も振る。するとその振動でなんと、ひらり、ポケットからその手紙が運悪く甲板に落ちていったものだからさらに慌ててしまった。「あぁあー!」。最高に焦りつつその手紙を取って隠そうとする。…けれど床に座っていたキャプテンのほうが近かった。「…」。キャプテンは素早くその紙片を床から拾い上げると送り主が書かれた部分に視線を走らせ、…そして、次の瞬間ものすごく…それはもうこの航海史上一番…と言っていいくらいに顔を顰めたものだから私は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。ヒェエエエー。


「何なんだこれは」
氷のように冷たい声。紙片からゆっくりと顔を上げて私を睨みつけるキャプテンのその眼光の威力は鬼哭を突きつけられる以上に恐ろしい…。
「それは…」
「何でこんなものがこの船に届くんだ」
キャプテンは指先でつまんだその封筒を乱暴に揺らしながら私にそう詰め寄る。
「あああ…」
「まさかジュリ、テメェ…自分の身体の一部をそこに置いてきたってのか?」
キャプテンは次いで私を頭からつま先までギロリと一瞥した。
「あ、あ、あのあのあの……か、かかか、髪の毛を……欲しいって言われて……つい……」
「…で?ホイホイそれを渡してきたってのか?海賊のお前が?場所を特定されるようなことを?あの店のあの男に??」
「…すいません…。あ、悪用はしないからって……言われて…」
「今まさに悪用みてぇなことされてんだろうが!!」
「……ウグゥ…」
「読むからな」
「え!?あ!あーーーー!やめ、やめて!!やめてくださいーーー!!!」
「うるせえ!!」


盛大に怒鳴られ、その覇気すらまとったような威圧感に私は肩をすくめて立ちすくむことしかできない。
ベポはいつの間にかこの上ない危険を察知したのかさっさとどこかに逃げているし、甲板にいた他クルーは私たちから距離を十分に取ってひやひやしながらこちらの様子をうかがっている。
キャプテンは封筒からものすごい勢いでレターペーパーを引っ張り出すと、怒り狂った鬼のような表情でそれを読み始めた。…そしてそれを読めば読むほどその顔に青筋を増やして暗黒のオーラをダダ漏れさせているのだから私はもう今宵深海魚の餌になることを覚悟したほうがいいのかもしれなかった。


『俺のプリンセス、ジュリちゃんへ♪

ヤッホー元気??俺はもちろん元気で毎日姫のことを考えているよ!
今日はそんな姫にお誘いの手紙を書きました!
もし、姫の城での生活が退屈続きだったなら。12月24日、クラブでクリスマスパーティーがあるからぜひぜひ来てみませんか??
俺らキャスト全員姫のことを全力で楽しませるつもりだから、海賊行為の合間、気晴らしのつもりで足を運んでみてください。
つらくて悲しいことがあっても、俺らチョー盛り上げてそんなこと忘れさせてあげるからね!!
ワクワクドキドキ、いろんなイベント満載予定だよ!
姫のご来店、俺ら全員心からお待ちしてまーす(^_-)-☆ウィンク

俺のビブルカード、入れておくからね♪
だから姫のことは決して迷わせはしないから安心してv




「…」
「あ、ほら、あれ、あれですよね!!ホストさんって、営業すごい頑張ってますよね!!クリスマスってかき入れ時みたいなんですよ!!だからこんな私にもDMを、ね、送ったりなんかしてくれて!!んでもって、これ読んだらなんだか懐かしくなっちゃったんですよ!!あの人おもしろい人だったし!!キャプテンもそう思いません!!??それに私クリスマスパーティーって行ったこともしたこともなかったからついつい気になって!!両親ね、いなかったんですよ!!兄弟も!だから憧れ!?的なものもあって……だから!あ、あは、あはは〜」
「……で?」
「……だから…」
「………」
「………」
「…………で?」
「…スミマセン…。…もちろん、行きません」
「あたりまえだ」
「…ハイ…」


読み終えると同時にぐしゃり…、何かのいい香りがしていたそのレターペーパーを容赦なく手の中で握りつぶしたキャプテンは冷たい視線のままこちらを睨んできたので私はそう答えた。…そう答えるしかなかった。

あああああ。もうどこからどう見ても明らかに不機嫌でしかないキャプテン。
この後わたしはきっとくどくどとお説教でもされるのだろう。
けれどキャプテンは私が行かないと言ったそのセリフを聞くと少しだけ厳しかった表情を緩めてそのまま私から視線を外したので(…あれ?)私は少しだけ拍子抜けしてしまった。
キャプテンはその後何も言わないまま手の中の手紙を甲板の隅へと投げ捨てると、苛々と立ち上がって私に背を向けて船室へと歩いていく。
…かさり。
丸まったその招待状が潮風に揺れてころころと隅へ流れていくその様を見つめながら、私はホッとする反面、どうしようもない罪悪感に悩まされながら「はあああ…」とこっそり息をついた。


思わずといえど…、あのホストクラブのことが、ローさんのことが気になってしまったからといえど…。
自由時間をもらって遊びに行こうとしてたことがバレたのは究極にまずいだろう。
今すぐはどうこうならなかったにしても、私はキャプテンから解雇命令を出されても仕方のない…立場かもしれない。
今後が怖い…、怖すぎる…。
私はブルリ…身体を震わせると肩を落としてキャプテンの捨てた招待状を拾おうととぼとぼ歩いた。

…すると


「おい」


私の背にかけられる鋭い声!
今何か言われちゃう!?…そう思いながら恐々と振り返ると、キャプテンが首だけ捻って私を睨みつけながら…

「その日はココでクリスマス会だ」

…と。
なんとそう言ってきたので今度は私が目を見開く番、だった。


「え?」
「クリスマス会だ。ペンギンがやる、と言っていたからな。…お前も準備を手伝ってやれ」
「え!?クリスマス会?ここで?ポーラータングで、ですか??!今までやったことないですよね??」
「ええー?船長、でもそれ、俺がこの間提案したらすぐに『ふざけるな』って…………。…って言ってませんね。ハイ言ってません!俺、クリスマス会ノ準備頑張リマース!!オーイ皆、役割分担決メルゾー!!」
「本当にですか!?」
「…ああ」
「「「えええー!」」」

キャプテンとペンギンの言葉に俄かにざわめき始めた潜水艦。キャプテンは小さく舌打ちをしながら更に言った。


「たまにはいいだろ……気晴らしに…」
「…」


キャプテンはそして、今度こそ本当に背を向けて行ってしまう。
私はそんな普段では考えられない発言をしたキャプテンをぽかんとしながら見送るも、すぐさま自身の先ほどの失態について思い出せばやはり身体を震わせるしかなかった。



…けれど私は震えながらもこっそりとサンタクロースにお願いをする。


魚の餌じゃなく、船底に縛られるくらいでキャプテンの制裁が終わりますように…


…と。



大好きなこの船で、大好きなクルーたちと、そしてそれ以上に大好きなキャプテンと一緒にクリスマス会ができるのだ。
それならば、せめて、虫の息でもいいからその日までにこの命は残しておきたい。


だって本当の本当に、人生で初めてのクリスマス会!
話に聞くサンタのおじいさんという人も、このくらいのささやかなお願いであれば、罪深い私であれその幸運をプレゼントして…くれるかな?…って。



私はそんな風に聖夜の奇跡に期待しながら、どこかにいるというサンタさんに目を閉じてそう祈ってみた。







**おまけ




そうそう、姫〜、俺さー、今月から順位落ちてbTになっちゃったんだ(´・ω・`)ショボーン
でもマジ今後頑張って巻き返していくつもりだから悲しまないでね☆
姫の好きなお酒やフルーツいっぱい用意しておくよ。
前飲みたいって姫が言ってたから俺、カクテル作れるようになったんだよ!是非腕前を披露させてね!!

じゃー、バイバーイ!!』


「へえ〜。ホストってイロイロと努力してるんだなァ。…って、この人、bTに転落しちゃったのか。…どうしてかな?」
「わからない…。クリスマスパーティーもだけどそこも気になっちゃったんだよー。手紙読んでつい『私が助けなきゃ!』って思っちゃったの…。駄目だよね…。これじゃまさに私典型的にホストクラブにハマってる女だよね…はああ…」
「…まぁ、相手が相手だからな(ローさん、だもんなぁ…)…って、船長ォオ!!今、クリスマス会の打ち合わせをしてますから!!雑談じゃないですから!!」
「……ああ。…手ぇ抜くんじゃねえぞ…。初めてなんだ。派手にやれ」
「え!?あ!?…は、ハイイイーーー」
「了解しましたァーーーー」
「……(…クソ…、アイツなんでbTになったんだよ……俺も気になるじゃねえか……)」



おしまい


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