青春カラヴァッジョ | ナノ
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「カラヴァッジオって何だよ」


突然の声に私は思わず「わ!」と叫び、冗談抜きで身体が飛びあがった。もう日が落ちて辺りは真っ暗で、アパートの周りの街灯のみが道を照らす程度の中のそれだったので、私は変質者かと思ってしまった。まあ、すぐに彼だとわかったんだけれど。

「トラファルガー君…。ついにストーカーになったの?」
「うるせえ。質問に答えろ」
「…先生にそんな言い…」
「答えてください」
「ふふふ」


美術室にいるたくさんの人に圧倒されたトラファルガー君は、すぐに部屋を出ていなくなってしまった。かなり怒った顔をしていたけれど、その後職員室に行っても誰も彼について文句を言っていなかったから彼はその後おとなしく過ごしたみたいだった。というより、今日一日はまるで先週のことが嘘みたいに彼は静かに過ごしていたようなので、私はみんなに崇められた。
『もう体調を崩さないでくれ』
…なんて言う人がいて、私はそれに驚いたけれど曖昧にそれに相槌を打っておいた。ドフラミンゴ先生はくつくつと笑っているし、センゴク校長はこっそり私にウィンクしていた。


「カラヴァッジオはイタリアの画家よ。彼はね……まあ、その、素行が悪くて喧嘩っ早かったみたいなの」
「…」
「人を殺して逃亡もしたみたいね」
「俺は人を殺してねぇ」
「殴りかかったとは聞いたけど」
「うるせえなぁ。ムカついたんだよ」

カラヴァッジオ少年は吐き捨てるようにそう言った。私は言い終えてしまってから、そういえば…と慌ててきょろきょろと周りを窺う。夜とはいえど、人がまったく通らないわけではない道だ。あまりこんなところを誰かに見られたくはない。するとトラファルガー君は「誰もいねえよ」とニヤリと笑って言った。「抜かりはねぇ」。…さすが、今までの経験が活かされている。

「安心はできない…」
「ならすぐにでも家に入れろ」
「できるわけないじゃない」
「まあいいじゃねえか」
「散らかってるし」
「準備室よりも?」
「…同じくらいかな」
「なら耐えられる」

強引にそう言う彼に戸惑っていると、車のライトが遠くで光るのが見えて私は思わず焦った。すると彼はその姿にニヤリと笑うと私の背を押してあれよあれよと言う間に部屋へと侵入してしまった。


「密会の場を奪われたからには、今度からはここでヒナと会うことにする」


彼はニヤニヤと笑って言った。困るなあ…と心底そう思ったけれど、彼はきっと完璧に忍んでやって来れるんだろうな…ということもなんとなくわかったので、やはり私は完璧に彼を突き放すことができない。
これからどうなるのだろう。
何が起こるだろう。
ドフラミンゴ先生の嗤う顔と、センゴク校長の静かな笑顔が頭の中に浮かび上がった。
でも、まあいいか…とやっぱり思ってしまった。
何かあったのならば、その時にまた考えればいい。辞表だって、また出してもいいや。そのくらい、残念ながら私は今幸せだった。



トラファルガー君はそして私の部屋にあるたくさんのりんごの絵を見て笑った。

「心を奪われる」

そう一言言って私を見つめた。そしてもう一言、言った。ニヤリと笑いながら。



「ここはベッドがあるから居心地がよさそうだ」





おしまい

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