青春カラヴァッジョ | ナノ
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09


「カラヴァッジオだね」


私は呟くようにそう言った。
すると廊下を歩いていた彼がびくんとその身体を反応させ、そしてバッとこちらに振り向くなり私を、表現し難いいろいろな感情を混ぜこぜにした顔をして見つめた。トラファルガー君は顔に擦り傷をこさえていて、それが痛々しそうに赤くなっていた。慌てたように近づく彼に小さく笑って言った。
「授業は出なさいね」
「…」
「仕方なしでもいいから」
そう言って、くすりと笑って彼に背を向けた。彼の視線を背中に感じた。彼は何も言ってこなかったけれど、しばらくして彼が静かに廊下を歩いて行く雰囲気は伝わった。それにまたくすりと笑った。


「…おかえり。ヒナ先生」

廊下を歩いていると、ドフラミンゴ先生がくつりと笑いながら私を迎えた。私は彼を見つけるなり立ち止まって、彼をじっと見つめる。
今朝職員室にいた彼は、やっぱりトラファルガー君に対する悪態は一つもつかずにくつくつと笑っているだけだった。一体何を考えているのかやっぱりわからなかった。


「俺は、一番長く楽しめると思うことを選んだまでさ」


私が何も聞いていないのに、彼は唐突にそう言った。にやりと口角をあげた顔で、おかしそうにそう言う。

「ついには殴られそうにもなったがな」
「…」
「別に受け入れてもよかったが…」
「…」
「そうしたら、楽しみが終わっちまうだろ?」
「…悪趣味なんですか?」
「さあ。…退屈なのが厭なだけだろ」
「…」
「時代はスマイル、とも言うしな」
「…」
「一見平和そうだが実は…という状況はおかしくてたまらねえ」
「…」

フッフッフ。
そう言ってドフラミンゴ先生は教科書を持って去って行った。…やはり、彼の存在が一番この学校で恐ろしいなと思った。静かな傍観者を望んでいたらしい彼は「またお誘いするよ」と去り際に囁いてきたけれど、私はそれに小さく首を横に振った。







ガラガラとドアが開いたとき、私は笑って彼を迎えた。彼は難しい顔をしながらそろそろと部屋へと侵入する。
今この部屋は明るい空気で満たされていて、雰囲気はまるでからりと晴れたようになり、時間もまた、普通の速さで進んでいるようだった。

「おー。入部希望者?」

笑顔の女生徒がにこりと笑ってトラファルガー君を見つめた。ナミちゃんは腰かけていたスツールから立ち上がると、彼へと近づいて持っていた紙をはさんだバインダーを突き出す。
「…どういうことだ」
トラファルガー君は少し苛立った声でそう言った。
「どういうって…。できたのよ、美術部が。この度ついに!」
あはは、と笑う彼女に、トラファルガー君は始終腑に落ちない顔をすると共に、私の事をこっそりと小さく睨む。私はそれに気づかないふりをしてこの部屋に集まった生徒を眺めた。




『…美術部顧問に任命する…ですか』


私が手にした辞令に書かれていたそれを読み上げると、センゴク校長は大仰に頷いた。私は何度もそれを見つめてみるのだけれど、やっぱり書かれている文字は同じで、私は面食らってしまう。

『まあ、以前から要望はあったのでな』
『知りませんでした』
『君はそういうことにあまり関心も意欲もなさそうだったからねえ』
フフフとセンゴク先生は笑った。
『まあ、あの陸の孤島のような場所に活気が出るのはいいことかもしれん。いろいろと』
『…』
私は暫く笑顔のままの彼を見つめて、そして頷いた。
本人によると自身は仏らしいけれど、その笑顔の奥に怖いくらいの強い圧力は感じられて私は小さくため息を吐いた。


「ルフィはなんで入部したいのよ」
「えー?だって、描き終ったらりんご食えるかもしれねーだろ?」
「もう!あんたの食い意地ってこういうトコにも発揮されるのね」
「そういうお前は何でなんだよー」
「あたし?あたしはいつかヒナちゃん先生にヌード描いてもらうためだよ」
「えええーー」


くすくす。
私は思わず噴き出した。「ならまず果物籠のスケッチからやろうかな」。そう提案するとモンキー君が一際大きな歓声をあげた。


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