青春カラヴァッジョ | ナノ
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07


辞表を渡した時、センゴク校長は思った以上に驚いた顔をした。何故?と問う彼に、生徒に恋をしましたと告げると、あはははははははは…とかなり長い事笑われて、けれど私がそれにずっと真面目な顔をしたままなのを見ると、本当なのかね…とかなり複雑そうな顔をしていた。「本当です」…と更に告げると、彼は「あああ…」と唸って、頭を抱えてしまった。

「その生徒の未来を壊したくありませんので…」

そう告げると、センゴク校長は暫く休みなさい、と言って私に家へ帰るように告げた。どのみち美術の授業がなくなっても進学校にはなんの問題もないので大丈夫だ。私はそれに頷いて職員室へ戻ると机の上を片付けた。


ドフラミンゴ先生はあれ以降特に何かを言ってくるでもなく、誰かに何かを言うわけでもなく、やはりくつくつと笑っているだけだった。傍観して楽しんでいるのかもしれないし、そうすることで混乱が生じることに興味がないのかもしれないし、いつの日にか私やトラファルガー君を脅迫するつもりかもしれなかったが、真意はわからなかった。ただここを去る私に一言「あのデートは楽しかったよ」…と告げた。「デートじゃありませんでしたよ」と言い返すと「それは残念だ」…と言い、フッフッフと笑った。
「なら、何故誘いにのった?」
と聞いた彼に、私は口を開きかけてやめた。
…好きになれたら楽になれそうだった、などと。そんな事を言って、せっかく今凪いでいる秘密を知る彼の心に、敢えてこちらから爆弾じみたものを投下する必要はないだろう。



家へついて、荷物を置いて、床に寝転んでハァ…とため息を吐く。これからどうしようかなぁ…とすぐさま思うも、まあいいか…とこれもまたすぐに思った。
あの薄暗い準備室で、好きな人と肌を重ねて愛してると言い合えた思い出があれば、暫くはどうにかやっていけそうだった。…それだけ、あの時間は私を幸せにさせた。


すると電話が途端に鳴った。緩慢な動作で寝転んだまま鞄に手を突っ込んでそれを引っ張り出すと、知らない番号からで、ああ、多分彼だろうなと思ってしばしどうしようか迷った。
けれどいくら放っておいても電話は鳴り続け、留守番電話サービスに繋がるたびに切られてまた再び鳴り出すからなんだかクス…と笑えてそれをとることにした。

「も…」
『おいヒナ!…あんた何で学校休んでんだよ』
こちらが何か言い始める前に、トラファルガー君は怒った声で話し始めた。
「はあ…。自宅謹慎を言い渡されたのよ」
『ハァ!?何だよ、それ!…まさか、昨日のことがばれたのか?』
「そうじゃないよ。処分待ちの自宅待機、になるのかな。…まあ、要するに学校をやめようと思って」
『…何言ってんだよ』
「だって、そうじゃない。…ふふふ。あのままあの学校で先生なんて続けられないよ…。生徒と寝た先生なんて、ね」
私は笑ったままそう言った。電話の先のトラファルガー君は口をつぐんでいる。
『…そこにいろよ』
暫く沈黙した後、するとトラファルガー君は何とそう言ってきた。
「はい?」
『家にいるんだろ??そこにいろって言ってんだよ!逃げんじゃねぇぞ!馬鹿が!』

何を言って…とそう言いかけるも、ブツッと電話は切れてしまった。あの子ここの場所知っているのかしら?…と、普通にそれを心配したが、まあ、きっとどうにかしてでも来るんだろうなぁと冷静に思ってしまった。そしてすぐさまそうじゃないだろ、と自分自身に突っ込んだ。今日は平日で、授業もある日なのに。…けれどあの子はきっとやって来るんだろう。忍んででも、誰かに見つかっても。それらしい理由を言ったりなんかして。


家はキャンバスやら絵具やら資料やらでごちゃごちゃになっているので、外に出てアパートの隣にある公園のベンチに座って彼を待った。
平日の昼前なので、そこには小さな子供と母親が数名いて遊んでいた。何となく、お腹がくすぐったくなった。


「ヒナ」
「本当に来たのね」


三十分ほど遊んでいる子供たちを眺めていると、息を切らしながらトラファルガー君が現れて、すぐに私を見つけて公園へと侵入してきた。制服姿の彼は目立っていて、公園にいる皆が彼をちらりと見て不思議そうにしていた。
彼ははぁはぁと荒い息を整えつつ、私の隣にどかんと座った。こめかみにはうっすらと汗がにじみ出ていて、顔を赤くして、本当に全力疾走してきたかのようなその姿に私はちょっと感心した。まるで青春だなぁ…なんて。そして感心すると同時に、やはり甘やかな気持ちになった。

「…辞めるの止めろよ」

息がようやく整った頃、トラファルガー君は一言そう言い放った。「もう遅いよ」。辞表も出しちゃったし…と言うと、「センゴクに破ってもらったらいいじゃねえか」とドラマでよくあるそんな事を言った。「あいつ、そういうの好きそうだし…」。私はくすっと笑った。

「まあ、いいのよ。これで。私は昨日そっちのほうを選択したんだから」
「…」
「あなたを選ぶか、先生でい続けるか」
「…」
「後悔はしてない。とっても幸せだもの」
「俺といて、先生でもいればいいじゃねえか」
「ドラマや漫画みたいにはいかないよ。…それに、もう、一人ばれている人がいるし」
そのネタを今後どう扱うのか、まったく読めない人物なのである意味一番怖い。
「…ドフラミンゴだろ」
「…」

するとあっけなくトラファルガー君はその人物の名を口にした。私は驚いて目を見開いてしまった。
「知ってたの?」
「目が合ったことがあるからな」
「あらら…」
「睨みつけておいた」
「…あらら…」
「まったく嫌な野郎だ…。見せつけてやったのに、ヒナに手を出してきやがって」
「……あらら…」


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