ボツSSとSSSの部屋 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

今宵より君は一番



「…どこへ行こうとしている?」

その声に、私はあはは…と乾いた笑い声をあげた。
夕食も終わり辺りがすっかり暗くなったポーラータング号の甲板。私はこっそりと登り梯子へと向かっているその途中だったのだが、ぐい…と襟首が突然につかまれるなりキャプテンにそう言われてしまった。私は首を捻ってキャプテンを見上げ作り笑いを浮かべて見せるも、呆れたような怒ったような彼の顔を目の当たりにするなり顔が赤くなるのを感じてぱっと目を逸らした。


昨日…というより今朝。
気づけば私はこの船の自室のベッドの上にいて、そこでいつも通りに目が覚めたので一瞬の後盛大に驚いてしまった。
…確か私は昨日こっそりとこの島にある有名なホストクラブへ行って豪遊をしていたはずだった。キャストさんに姫って呼んでもらって気分がよくなって、シャンパンタワーを見てピンドンを飲んでわーい!ってなって……けれどそこから先の記憶はない。
慌ててポケットの財布を引っ張り出してみたがそこには半分以上のお金は残っているし、服が破れてたり乱れていたりすることもなく身体に傷もついてはいなかった。だからとりあえずこの身に関してはいろいろと無事である。…だが帰宅に関しては全く思い出せなかった。だから恐る恐る部屋のドアを開け、近くを歩いていたペンギンを捕まえれば『私どうやって帰ってきたの?』と聞いてみた。ペンギンはお前酒臭っ!と顔をしかめつつ、その質問には知らないと言ってきたので私は益々焦ってしまった。
急いでお風呂に入って歯を磨いてミントなんか齧って体臭やら口臭を誤魔化し、もたれた胃を抱えつつ誰か昨夜の私の姿を見た者がいないか?…と食堂に行ってみると、そこでキャプテンと目が合ってしまったので慌てて逸らした。
…昨夜はお店のナンバー3である「ロー」さんって人と並んで座った私。酔いが回れば似たような模様の入った帽子をかぶったその彼が何となくキャプテンぽく見えてきたので、思い切り甘えてみたりたくさん話しかけたりして、キャプテン本人の前でどぎまぎしてしまうばかりである私は普通の態度でいられる練習≠ネるものをしていた。……が、やはり本物の威力は格別で、やはり別物であるらしい。
他人を使った練習なんて何の役にも立たなくて、尚且つ私がそんな事をしてきたと決してキャプテンが知るはずもないのに、まるで責めるているように見えてしまう彼の強い視線は私には痛かった。
だから私はその視線から逃れるようにしてキッチンに入り、忙しく動き回るコックさんの側をすりぬけて冷蔵庫の傍まで行くと中から牛乳を取り出してグラスに注いだ。そして誤魔化すようにしてそれを飲み干すと足早にキッチンから脱出した。



その後甲板の掃除をしつつ昨晩の記憶を再び脳内から手繰り寄せようとするもまったくの闇。…けれどそんな中でも「ロー」さんが『どうしようもなくなったら家まで送ってあげるから存分に飲んでくれていいよ』…と言ってくれていたことは何となく思い出した。ああ。それか!思い出して納得した。だから私は帰ってこられたのだ。きっと「ロー」さんか他の誰かが私を船へと連れて行ってくれたんだ。…だとしたら…申し訳ない事をしたな…。時折聞く悪徳クラブの存在なんてまるで嘘のように気のいい人たちばかりだったそのお店。しかも財布に残っていた残金から明朗会計であったこともわかる。ならせめてお礼くらい言うべきだよなぁ…、とそう思った。だから私は夜になるなりペンギンに出かける旨を告げてこそこそと、主にキャプテンに見つからないように出発するつもり…だった。キャプテンは時折過保護なくらい私の行動に口出しすることがあるので、彼にだけは見つかりたくなかった。…が、努力もむなしく私は彼に今まさに捕まっている…。


「ちょ、ちょっとそこまで…」
「…へぇ?なら俺もついて行く」
「ええ!な、何でです!?」
「別にいいだろ。お前と一緒にいたいからだ」
「ええええええええ!」
「…驚きすぎだろ」
「すみません!!でもできれば私一人で…」
「…」


お前と一緒にいたい…などと!
有り得ない言葉を言われて私はかーーっと顔が熱くなるのを感じながらも何故か私についてこようとするキャプテンを必死でかわそうとした。その度にどういうわけかがっちりと食い下がり続けるキャプテンに焦りばかりが募っていったが何十回目かの一人で行くアピールでようやく諦めがついたのか彼は「なら行って来い…」と大きなため息を吐きながら私から離れてくれた。…ホ。よかった。

そして私は昨日と同じ道を走ってその店を目指した。
海賊系クラブオールブルー=B昨日多くの女性客でいっぱいであったが今日もまたお客さんが次々に店に吸い込まれていく様子が見える。本当に人気のお店なんだなぁ。私は入口にいた昨日と同じ黒スーツの人を見つけると「あの…」と話しかけ、昨夜のお礼を言いたいことを告げた。…が、そうなるとやはり「オッケ〜♪じゃ、中へ中へ」…とあっという間に店の中へと連れていかれ席へと座ることになってしまった。ただお礼言いたかっただけなんだけど…。そう思うも気づけばおしぼりやお通しが運ばれ、しかも誰かからは「昨日の姫じゃーん」と笑いかけてもらったりなんかして…。そして、姫と呼ばれたことに途端に顔が緩んでしまったりなんかして…。私はその台詞ににへっと笑った後ハッとなって慌てて頬をぴしゃぴしゃと叩いた。いかんいかん。今日は豪遊するつもりは…。

「ごめーん!今、ローが別テーブルにいて離れられなくてさー。悪いんだけど、ちょっとだけ俺で我慢してくれる??姫、それで大丈夫??」

…が、そう考えていた矢先、目の前に現れた人物を見て思わずわー!と大きな声をあげてしまいその言葉にこくこくと頷いてしまっている自分がいた。
だってだって!!この人ってばこのお店のナンバー1さんじゃん!!昨日はずっといろんなテーブルに引っ張りだこで結局私の所には来てもらえなくて、いっちばん忙しそうにしていた人…だよ??

「ありがと!ごめんね俺で。…で、何飲む?姫はそういえば最初はビールだったよね」
「ははははいいーーー。シャシャシャ、シャンクスさん、こんなとこにいていいんですか??指名多いんじゃないですか?」
「フフフ。昨日は多かったけどね。今は残念ながらちょっと暇なんだ…って。もしかして別の人がよかった?超新星ファンなら他の奴にしとく??」
「いえ…」

クス…
穏やかに笑うその人の笑顔に、私はふるふると首を振っていた。「ロー」さんとは全く違う、大人の雰囲気漂う「シャンクス」さん。まあ言ってみれば偽物でしかないんだけれど、本人様と似た年の頃をしたその人は笑顔の優しい素敵な人で、きっとその微笑みだけで女子を確実に癒せる。だからナンバー1だと言われるのもよくわかった。彼は私のテーブルになど来ていなかったのに、私の最初のオーダーをどういうわけか知っていてあっという間にそれを目の前に準備してくれた。これはもう飲むしかあるまい!私は当初の予定が狂ったことに恥ずかしくなって俯きながらも嬉しい気持ちでビールをぐいぐいと飲んでしまった。
…で、気付けば楽しくなってしまい昨日のお金がまだ残っていることも手伝ってまたドンペリを入れたりしている私。
「姫、サイコー♪」
…と言ってもらえるとやっぱり嬉しくなる自分って…おかしいのかな?そう思いながら「じゃー次は…ルイ13世入れちゃおうかな〜」と、酔ってふわふわしてきた頭でそう言おうとした矢先、目の前に「ロー」さんが現れた。ムス…。その顔はまるでキャプテンと瓜二つの怒った顔をしていて、私は思わずあははと笑ってしまった。

「そっくり〜」
「馬鹿。俺は本物だ。…何やってんだお前は」
「へー??本物な訳…」
「ウッソー!また本人様ご来店じゃーん!?ちょvv俺感激ッス。昨日結局サインもらってないじゃないスか→もしかして、わざわざ書きに来てくれたんです??…って、本命は姫のほうだったよ〜♪また来てくれてありがとー↑」
「ええ…!?また来店…って??」
「…またお前か。いいから会計しろ。…まったく。中々帰ってこないと思ったらやっぱりここでくつろぎやがって…」
「えー?もう帰っちゃう系ッスかー??そりゃないッスよ。姫からも何か言っちゃって〜」
「ええ…キャプテンがふたり…何が何だか…」
「馬鹿。二人だなんて数えんじゃねぇ。お前の目は節穴すぎるのか」
「な…」

なんで??
顰め面でそう告げるその人の声と姿を、私は改めて瞬きしながら見た。まさかね!いや、でも…。…も、もしかしてもしかする?…そして万が一のその可能性を考えてみた途端、ふわふわしていた私の思考回路は一気に冷水を浴びせられたかのようにクリアになった。…と同時にさーーーーっと背中に走る寒気に似た何か!!ニコニコと笑っている「ロー」さんとは決定的に違う不穏なオーラ全開のこの人。
嘘でしょ!!??私は気を失いそうになる。
何故本物のキャプテンがここに!?!!
私は言葉を失ってキャプテンを凝視したままぱくぱくと口を動かした。キャプテンはギロリと私を睨んだまま腕をきつく掴むと無理やりに引っ張って私をソファから立たせた。そして「ロー」さんに強い口調で早くしろと命令していた。

「えー昨日は帰っちゃったんだし、今日は楽しみましょうよー。せーっかくご来店特典もあるんですからー。あ、そうだ。色紙色紙」
「うるせえ。誰がサインなんかするか。聞こえなかったのか?会計をしろと俺は言ったんだ」
「ひえーー!キャプテン!!ききき昨日来店してたのってほほほ本当なんですか!?」
「えー姫覚えていない系?アハハ☆そんなに飲んでなさそうに見えたけど、姫お酒弱かったんだねぇ。ならさ、俺、昨日飲ませすぎた??ダイジョブ??」
「おい!コイツに触るんじゃねぇ」
「ぎゃー!キャプテン!!鬼哭しまって!!!危ないから!!」
「わーお!本物のキコク!どれどれ。あー。ちょっと俺の長すぎましたね↓オーダーし直しまーす↑」
「テメェ!刀にも触れるな!!殺されたいのか?」
「だめキャプテン!ダメーー!!」
「そーそー!!止めときましょー?…ダメなんスよ俺。今日は超絶大変なんですから」
「ハァ?テメェの都合なんて…」
「ホント、マジでここだけのハナシなんスけどー」
「…」

すると、ニコニコ笑っていた「ロー」さんが急に顔を真面目にさせて声を潜めたので私は思わず彼に注目してしまった。ひたすら明るい「ロー」さんの深刻そうな顔はこちらを少々どころではない不安な気持ちにさせる。それはキャプテンも同様だったらしく、今にも振りぬきそうだった鬼哭を持つその手の力は少しだけ抜け、怪訝そうな瞳が彼へとまっすぐに向けられていた。「ロー」さんはそして…ひそひそと小さな声で私たちに囁いた。


「今日海軍突入≠チてシークレットイベントあるんスよ!俺、それで今夜捕まる役なんです!それで姫たちに助けてもらうっていう話なんですけどね。あ!よかったらローさん俺と一緒に捕まりませーん??メチャ盛り上がると思うんスけど!!」
「…イベント…」
「ハァ!!??テメェ本気で言ってんのか!!?」


キャプテンはその台詞を聞くなり「縁起でもねぇ!!!」と叫び、本当に鬼哭を抜こうとしたので私は慌てて彼を止めた。そして今にも店を破壊しそうなキャプテンをどうにか押さえてお金を払い「じゃーまったねー♪」…と、こんな鬼のようなキャプテンを見ても始終明るいままであった、ある意味最強である「ロー」さんに見送られながら店を出た。



「…クソ…。やっぱり何なんだあの店は…」



そして私はブリブリ怒ったままのキャプテンと一緒に薄暗い夜道を歩いている。
怒りがにじみ出まくっている彼の背中をあまり見ないようにして、びくびくしながらついて歩いた。


あんな場所にまで足を運ばせて、尚且不快極まりない気持ちにさせてしまった私…。
そんな重罪を犯してしまった私にこの後彼から与えられるであろう制裁を考えると…怖くてたまらない!!
本当は、昨日キャプテンがあの店に来ていた…という事実が気になって仕方ないのであるが…その理由など到底聞けそうもなかった。…それに結局「ロー」さんにお礼も言えてないや。
「おいルカ」
「ひゃ!!はい!!」
…すると前方にいるキャプテンが鋭い声で私の名前を呼んだのでビクゥ!!私は姿勢を正した。



「これからテメェは一人での外出は禁止だ」



ひー!そして早速ペナルティなるものが課せられてしまった。
私は「…はい」と項垂れつつキャプテンの背後でそう答えるしかない。
仕方がないことだ。私たちハートの海賊団にとってキャプテンの言う事は絶対なのだから。

そしてキャプテンはこうも言った。
だから私はそれに従順に頷くしかなかった。
…帰ったら、もっともっと、過酷な重労働とか課せられるのかなぁ…。私はため息を吐きながらそっと夜空の光る星を眺めた。ああ…とってもきれいだな。せっかくキャプテンとふたりで歩いているのに…ムードもなにもないや。



「お前は…これからいつも俺の側にいろ」
「はい…キャプテン」





prev / next