ボツSSとSSSの部屋 | ナノ
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今宵より君は特別



「ほら、お前の分だ」
「あ、ありがとうございます!キャプテン!」

先日撃破した敵船から得た金品をクルーで均等にわけ、自分の取り分をもらった。袋の中を見てみるとざっと20万ベリーはあるだろうか?…ということは、これを入れれば目標としていた500万ベリーに達していることになる!しかも私がずっと気になってたお店のある島へも今夜着くとベポが言っていたので、本当にタイミングがいいし私ってばラッキーだ。

「じゃー私ちょっと出かけてきます!」
「えー?ルカおれたちと一緒に飲みに行かないの?」
「うん!今日は一人で行ってくるね」
「そっかー残念」

ベポは船が着岸するなりキャプテンと共に島の飲み屋に行こうとするグループへいつも通り私を誘ってきてくれたけれど、それを丁重に断って私は彼らとは反対の道へと颯爽と走った。キャプテンの怪訝そうな視線が私を捉えたのがわかったけれど、するりと逃げるように背を向けた。
とりあえず私が行こうとする場所がわからないように少しだけ遠回り。心配して誰かが後をつけてくるなんてことはないだろうけど一応、ね。で…、しばらく歩き回ったのちに目的のお店の前へとたどり着いた。ネオンがキラキラと派手すぎるくらいに光ってる!私はドキドキしながら重厚な扉をそっと開けた。

「いらっしゃいませ〜〜!!君、ここ初めて系??なら初回料金適用しちゃうよ〜♪で、あとはとりあえずキャスト全員ついてくからよろしく!!」
「あ、ううん!あの、あのですね!できればここのナンバー3さんがメインについてもらっても…いいですか??」
「なーに何ナニ?君、予習してきた系?アハハ、オッケー!りょーかーい♪はーい!眩しい子1名入店でーす!えーと、何て呼べばいいのかな?」
「あ、え…とですね!なら…」


…そう。私がこの度来たのはこの島にある有名なホストクラブ!!このお店に来るために、私は地道に今までコツコツお金を貯めてきたのですよ!キャプテンたちはきれいな薄着のお姉さんのいる店が楽しいんだろうけど、私はそんなところ行ってもひとつもおもしろくないんだもの。それにこのホストクラブは…。
私はツナギのポッケにある分厚くなったお財布を服の上からそっと撫でた。今夜はこれで豪遊とやらをしてみよう。そしていつも私を女の子扱いしないクルーの事なんか忘れてたくさんの男たちに持てはやされてみるんだ!あとは…。あとは…。…。

「どーもハジメマシテ〜!!指名ありがとう!…で、姫は何を飲みますか?」
「と、とりあえずビールください。あと憧れのシャンパンタワーやりたいです」
「えー!ホンキ?それマジホンキ〜!?ワーオ!!こちらの姫よりシャンパンタワー頂きました〜〜!!」
「「「オォオオー♪♪」」」
「わ!す、すごい!みんなが勢ぞろいしちゃうんですねっっ」
「ハイ!お姫様、ビール!俺も隣座っちゃってイイすか〜?」
「あ、はい。い、いただきまーす!」
「かわいい姫はどっから来たの〜?」
「北の海」
「ハーイハイハイ♪北の海からキュートな天使が舞い降りた〜☆」
「ソレソレソレソレ〜♪」
「わわ!本に書いてあったとおりですね。これがコール!」
「いーっぱい楽しんでいってね♪姫!」
「は、はい!楽しみます!!つ、次、ドンペリ飲んでみたいから入れてください!ピンクのやつ!」
「りょーかいお姫様!ピンドンも入りました〜!」
「「「ウェ〜イ!」」」









いつもは俺たちについてきて食事をとるルカが今日はそれを断ってそわそわとどこかへ行った姿を見た。
ここの所ずっと金を数えてはにんまりしていたからどこか高級な飯屋にでも行ったのか?と思うも、いつもよりずっと早めに船に戻ってみてもまだ帰っていない彼女に少々の不安を覚える。
しょうがねえ奴め…
そう思いながらクルーに出てくると告げてルカを探すがなかなか見つからず苛ついた。一体どこへ行ったんだ。
…が、別行動をしていたクルーの一人がとある店に入っていくルカの姿をたまたま見たというその言葉に思わず開いた口が塞がらなくなった。…が、すぐにこみ上げてきた焦りのような怒りのような…よくわからない感情と共に舌打ちをして足早にそのホストクラブとやらに赴いた。本当に馬鹿でしかねぇ女だ。騙されてボったくられて身ぐるみはがされたいんだろうか??

ドア付近にいた黒づくめの男の声に聞く耳も持たずに重たい扉を開ければ、途端に耳を襲うつんざくような人の笑い声と音楽…そして目に飛び込んできたのは赤い顔して眠そうにふにゃーと目を細めて笑うルカの姿。いろいろとツッコみたいところが満載な店だがとりあえず目的はそいつの回収なのでつかつかとテーブルに近づけば、ルカの傾けた頭を肩に預けさせていたホストの男が俺を見るなり「わーーー!」と叫んできた。

「…そいつを連れて帰る。会計しろ」
「わー!!マジっスか!死の外科医サンっスよね?!本物って!!えー!スッゲー!え!?じゃあ、姫はマジホンでハートの海賊団のクルーだったんだ!ウソかと思ったわ!…あ!会計はすんでますよ!充分この姫から頂いてます♪ウチ良心的なトコがウリなんでぜんっぜん騙しとかンなの無いんで心配ムヨーッスよ♪」
「…。ひめ…」
「そう姫♪そう呼んで欲しいって言ってたんスよ♪おーい、起きて起きて姫!お迎えが来たよ!お城へ帰ろう♪」
「うん…。おしろ。かえるーー」
「アハハ☆歩けそうにないね!送って行ってあげようか?」
「…担いでいく」
「お!船長サンさすがッス!!あ!!もしよかったらサインいいスか!?俺、あなたに憧れてこの源氏名にしたんスよ!まっさか本物に会えるなんて生きてきて良かったッスわ」
そう言うと、目の前の俺と似たような恰好をしたチャラい男はアハハと楽しげに笑った。…一体何なんだこの「海賊系クラブオールブルー=vってのは…。そして何でルカは俺もどきなんかの隣に座って嬉しそうにしてんだよ…。

「あ、チナミになんスけど、本人様ご来店特典ってのがあるんですがいかがですか?」
「いや帰る。居るかよ普通。…それにお前等いずれ殺されるぞ。他の本人に」
「アハハー↑マジすかそれヤバいッス!店の方針変えた方がいいスかねぇ?店長に相談してみまっす☆」
麦わらを被った男に、赤い髪をした男。その他いろいろな恰好をした明るい男たちはそう言って全員笑った。…どうやら危機感はないらしかった。


「じゃー姫!またのご来店お待ちしてマース♪」
「「「してマース♪」」」
「…むにゃむにゃ。ロー、またねぇ〜」
「…」


俺は背中でそう言ってふりふりと手を振るルカにため息を吐きながら彼女をおぶりなおした。…何が「ローまたねぇ〜」…だ。俺の名前なんて今まで一度も呼んだことなんかねぇくせに。


「んー。…おんぶして船まで運んでくれる…オプションってあった…っけ?」


呑気な彼女のそんな声。
半分寝かかっているらしく、ルカは俺が担いでやっている事に気が付いていないらしい。
温かく重なった背中に感じるルカの呼吸。いつもより飲みすぎたのか、吐息から強くも甘いアルコールの香りがした。
姫…、ねぇ。
そう呼ばれたいだなんて…。普段は剣や銃を振り回して皆と一緒になって大口開けて笑っているくせに。それに普段は俺に少しも気のある素振りなんて見せてくることなく、寧ろまるで避けるようにして過ごしているくせに…。


『…ちなみに…、コイツは店でどんな風だった?』
『えー?別に、フツーに甘えてくる感じでしたよー??けどこの子何でニセモンの俺指名してんでしょーね??ホンモノがすぐ側にいるってのに!…あ!でもそういえばキャプテンの側で緊張しない練習とかなんとか言ってたかな??アハハ☆だとしたらおもしろい子ッスね』


けれど店を出る直前のそのやりとりを思い出せば、苛々していた感情から一変して小さく笑ってしまう自分がいた。


「今日は特別だ。…お姫さま」


なのでそう言ってやると、彼女は背後で心底嬉しそうにくすくす笑った。「その声…。まるでキャプテンと一緒…だぁ」…だなんて。そしてその後暫くすればスゥ…という柔らかい寝息が聞こえ始めた。「…テメェは」。俺はそんな彼女の無防備さに軽く舌打ちしながら…けれどやはり笑ってしまった。何故なら成就する見込みがなさそうである故に、日々押さえ隠していた俺の彼女に対しての感情はもうこれ以上そうする必要なんてないみてぇだから…な。


「…明日からは本人様が遠慮なくお前をかわいがってやるよ」


だから俺は背中で眠る彼女へそう告げてやった。
今宵偽の俺とした練習とやらの成果。それを明日以降存分に見せてくれよ…と、彼女の放つ甘い酒の匂いに小さく酔わされながらそう思った。





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