2017バレンタイン | ナノ
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2月は姫の乱

とある日の夜。私がニコッと笑って席を立とうとすると、その場にいたほとんどの人間が一瞬にしてス…と表情を険しくさせた。
夕食があらかた終わってみんながいそいそとごちそうさまの号令をかけようとした、まさにその直前のことだ。

「待ってストップ!まだごはんは終わりじゃないよ!デザート!あるから!」

私はササッといち早くこの場を去ろうとしたディアマンテの服の袖を武装色を発動させた手でガシッと掴み上げる。「ヒィ!」。情けない声をあげた彼をぐいぐいと容赦なく引いて椅子にどかんともう一度腰掛け直させると、「ピーカ!」、私はすかさず隣にいる彼に目配せをした。

「ユウ了解だ」
「「「わあああー」」」

すると石造りのダイニングの床があっという間にどろりと溶けて隆起し、椅子に座っているファミリーの足をその柔らかな液体が包み込んでガチリ!それは元どおりの固い石へと戻った。途端に聞こえる叫び声。ふふふ、男性陣諸君諦めなさい。君たちはもう逃げられない!

「ピーカァアアーーー!何やってんだよこれどうにかしろよ」
「…(プイ)」
「無視かよ!」
「無駄よ!ピーカはわたしを応援してくれてるんだからね!だから命令なんて聞かないよ!」
「クソーッ!何で俺とセニョールには海楼石の錠も付いてんだよッッ!」
「うるさいわねロー。あんたら能力使ったらそこから逃げられるでしょ?だからよ。さ!それよりみんな!デザート運ぶね♪」

私はウガーと叫びながら文句をたれるローに冷たくそう言うと、キッチンへと走って大きなワゴンを押した。
さあ始まるよ☆今年もサロンデュショコラinドレスローザが!

私の押すワゴンには様々な手作りチョコレート菓子が全部で10種類以上プレートに載せられて人数分置いてある。私はそれを意気揚々とテーブルに置いていき、それを見たファミリーの皆はむせ返るほどのチョコレート臭に全員げんなりとした顔でそのプレートを眺めた。


今日は2月1日。それはバレンタインという特別な、特別すぎるイベントがある大切な月の始まり!
私は若様のために毎年2月になると最高のチョコレート菓子を作るべくショコラティエール修行を開始するのだ。だから先月から最高級チョコレートやココアやナッツや、ラッピング資材に至るまですべての材料をたくさん、時間をかけて揃えていた。それらを使って至高の作品を作り上げ、愛しの若様にプレゼントするために!!
あ、ちなみにいつも若様には内緒でこっそりと行っているんだよ!
だって若様には一番出来のよい作品を食べて欲しいからね。とっくの昔から仲良くなっている若様の秘書のモネさんにお願いしていつもこの時期はスケジュール操作をしているから、若様は今二週間の出張に出かけている。だからその間にたくさんのお菓子を試作して本番に備えておくのだ。
…で、その審査員として駆り出されるのがファミリーの人間達である。まあ当然だよね☆だから、さあ、レッツスタート!

「はい!今年のプレゼント候補のチョコだよ。手元にあるバインダーに10段階で評価していってね。ビジュアル、食感、味と甘さ加減、量、舌触り、後味、エトセトラ、エトセトラ。わかってると思うけど、いい加減なことを書いたりなんかしたらペナルティを課すから♪」
「…おい、ユウ。俺は今日腹が痛くて…」
「そうだったんだグラディウス。なら、これだね。チョコプリン。チョコが入っていながら優しい卵の甘みもしっかり感じられて消化にもいいのよ☆」
「…」
「ユウ…毎年毎年言ってるんだが、おれは甘いものが苦手で…」
「そんなディアマンテにはなんとベーコンが中に入ったチョコレート・カバード・ベーコンを召し上がれ♪絶妙な塩味が病みつきになる事間違いなしの一品だよ!」
「…」
「テメー!シャンブルズを封印してくんな!俺はアイツへの試作品なんて食いたくねぇ!」
「ロー。なら、あんたはパン・オ・ショコラよ。残したら錠がついたまま海に漬けてあげる」
「殺す気か!」
「チョコじご…、チョ、チョコ天国だすやんね!あ、あはは!ユウのチョコはいつも手が込んでるだすやんから食べるのがもったいないだすやん!!だから」
「だいじょうぶだよバッファロー!材料はいっぱい買ってあるからいくらでも作れるの!遠慮せずに食べて!」
「…」
「ユウ。仕事場の健康診断が控えているんだ。血液検査で引っかかったら…」
「なら尚更チョコレート食べなきゃセニョール!!カカオポリフェノール・カカオプロテインを摂取すれば血圧低下や動脈硬化予防になるんだよっ!」
「…」
『ユウおれは、』
「はーいペン没収〜。若様に味覚が一番近いのはロシナンテなんだから試食頑張ろうね!」
『…』
「おいお前ら。バレンタインはユウにとって大切なイベントなんだ。ちゃんと俺たちも手伝おう。ユウ、おれは完食した」
「うふふっ!ヴェルゴってばぜーんぶほっぺたにくっついてるしマジで自覚なくそうしてるんだったらホント引いちゃう!はい!取ってあげるね☆」
「…」

私は何だかんだと試食から逃れようとする彼らの主張をことごとくはねつけると、顔の引きつったファミリーを見渡してよーし!と腕まくりをした。
今日から二週間、私はみんなの評価を元に試作品の中から不人気なものは切り捨て、良作には更なる改良を加えていかねばならない。だから大変なのだ。今日から毎日私は戦いの最中にいるようなものなのだ!!でも全くそれは苦ではないんだよ!だってこれは愛しの若様のためだもの!許嫁である私の使命だもの!!夫のために必ずやり遂げなきゃならない愛のイベントだもの!!!

「さあ!!じゃあみんな召し上がれ♪」
ドーン!

私はそんな決意を胸に、覇王色の覇気をまき散らしながら彼らに朗らかにそう告げた。





「帰ったぞ」
「きゃーー!若様おかえりっ!!久しぶり!!会いたかった!!」

二週間後、多少疲れた顔をした若様が大きな荷物と共に我が家に帰宅した。私はすぐさま玄関へとダッシュし若様にそう言って抱き着こうとした。「邪魔だ」「きゃー」ぽーーーん!けれど私は若様に思い切り跳ねのけられてしまう。…が、すぐにむくりと起き上がると、もう一度近づいてサッと若様の目の前に大きなピンクの包装紙で包んだチョコレートを掲げた。

「はい!若様!!ハッピーバレンタイン!」
「…はー。帰った早々面倒くせぇ奴め…。後で食うから部屋に置いておけ」
「だめ!頑張って作ったの。だから今すぐ食べて欲しいの!ね?開けてあげるから!」
「だああ!鬱陶しい!!俺は帰宅したばかりだァアア!!少しは落ち着かせろ!!…って聞いてねえな!!あああ!もう!食うよわかったよ食うよ!!バクッ!!」

若様は激しく文句を言うもそれを無視して包装紙をいそいそと開けた私を見れば諦めてがくりと肩を落とす。そして苛々しながら箱に並べてあるチョコレートのうちの一つを取ると豪快にそれを食べた。
「…」
何だかんだ言いつつも、口の中のチョコレートを目を閉じて噛み砕きながらしっかりとそれを味わってくれている若様って本当にイケメン♪
そんな若様の色っぽい表情にまるでテンパリング中のチョコレートのように私がとろーんと意識をとろけさせていると、若様はゴクリとそれを飲み込み私をジロリと見下ろせば何も言わないままぐしゃぐしゃと頭を掻きまわしてさっさと荷物を抱えて部屋へと向かっていった。もちろん、私のチョコレートの箱も持って。

何も感想を言われなくても食べてる時の顔を見ればおいしかったんだって事が私にはよーくわかるよ!!あーやっぱり私の夫って最高!あああ!毎日頑張ってよかった!!

「なんだお前ら。ちょっと太ってねえか?節制しろよ」
「…」

若様に通り過ぎざまそう言われてム…となったファミリーの睨むような視線を全身に受け止めているけれど、私は今とーっても幸せだからそんなもの全然全く気にならないわ!
そして私は去っていく若様を追いかけて今度こそ思い切り抱き着くと大きな声で若様に言った。
だって今日本当に大切なのは、この言葉を若様へと伝えるコトだから…ね♪

「若様ーー去年よりも大好きっ!」
「ハーーー、一気に疲れが出るぜ。…ユウ、テメェはチョコに合う酒の用意でもしとけ」
「はい若様!」