2017バレンタイン | ナノ
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乗り越えようとする人。

2月になるとロー兄は毎日胃のあたりを手で押さえ、こっちもつられて気分が悪くなっちゃいそうなくらい苦痛で歪んだ表情を見せてくる。それはもう、毎年の話。
私は玄関先で今にも吐きそうな顔をしたロー兄を見てもう!と声をあげた。先月より多少頬をふっくらさせたその事だけについては常に痩せすぎである彼にはよい結果であっても、気を抜けば所かまわずリバースしてしまいそうな彼の状況はこっちの気を焦らせるしかないのだからいい加減にこの荒行≠ヘ止めてほしい。

「んあああ!ロー兄、また今月毎日チョコレート食べてるんでしょ!いっつも言ってるけど私はロー兄にチョコなんてあげないから!心配しなくても今年もあげないから!ね?だからチョコレートを克服しようと頑張らなくていいから!!!」
「…ウップ…頭が痛い……胃が気持ち悪い……目の前がぐらつく…」
「馬鹿すぎるでしょ!!」

私がそう言うと、ロー兄はへなへなと玄関に座り込んでウーンと頭を垂れてしまった。彼の持っている鞄から覗いているのは齧りかけのシンプルな板チョコレート。…きっと今日一日それを食べてはその都度吐き気をもよおしていたに違いない。チョコレートなんて子供の時から大嫌いなくせに!本当に意味が分からない。
「今年こそ…好きになれると思ったのに…」
ロー兄は泣きそうな声でそう言って更に項垂れた。

世間がバレンタインの話題でいっぱいのこの時期、ロー兄はチョコレートを食べられるようになろうと必死になって無駄としか言えない努力をし始める。そして「俺はチョコを食える。だからお前からのチョコがどうしても欲しい」…と。今にも倒れそうな顔をしながら私にチョコレートを強請ってくるのだからこちらの顔は引きつるしかない。そもそもあげるつもりないし!無駄に長い付き合いがあるのは確かだが、こんな考えのおかしなキモい奴に一度でもチョコレートなんてあげたらコイツは何もかもを勘違いして私の人生をその日から更に狂わせてしまうに違いないもの!

「はいはい!もう諦めて。立てる?この板チョコは没収だからね。今年もカレー作ってあげたからそれ食べて終わろ!!」
「…ううう」

本日はバレンタインデーであり、家庭教師をしてくれる日であったが勉強どころではなさそうである。家の中を漂っているカレーの匂いにようやく気付いたらしいロー兄は、鼻をヒクヒクさせながら「辛い物…」と呟くと、その後「食う」と素直に頷いた。
ロー兄をひきずってダイニングに連れて行き、椅子に座らせ水を飲ませる。気持ちルーを多めについだカレーのお皿とスプーンとサラダを置いてあげるとすぐにロー兄はおとなしくそれを食べ始めた。すると気持ち悪さ全開だったその顔は次第にゆっくり普段通りのものへと戻っていく。

「辛い。うまい」
「はー。毎年バレンタインの日にカレー作ってロー兄のおかしくなった胃をリセットさせるの恒例になっちゃってるしどうにかなんない?」
「でも…お前からのチョコが欲しいんだ」
「諦めろって言ってるでしょ!!そろそろ学習して!無理なんだよ。ロー兄はそういう体質なの!」
「…でも…」
「あああ!子供か!?うるさい!」

私はそれでもあきらめないロー兄の頭を思い切り小突くと、あっという間に食べ終えた彼のお皿を取りあげてもう一杯カレーをついであげた。
こんなアホなロー兄のために毎年カレー作ってあげるなんていい加減私もやめたいんだけど、うまいって言って嬉しそうにたくさん食べてくれるから…なかなかどうして止められない。

「…お前のチョコが…」
「もう黙れって言ってんのに!」

ぐずぐずと情けなく目を伏せるロー兄に声を荒げながらそう言うと、おかわりのお皿をガツンと置いてフン!と彼に背を向けた。
別に今する必要はないんだけれど、そのままカレーの鍋の側に行ってお玉で中身をぐるぐるとかき混ぜる。

毎年毎年めげずにチョコレートチョコレートと言い続けるから、今年のカレーには少し多めに隠し味のチョコレートを入れておいてあげたからね!
でもきっとロー兄は気づかないだろうし、私も自分の人生の平穏のためにそれは敢えて教えてやらない。


カレー独特のスパイスの香りでいっぱいのキッチンにて、「あーあ」とため息なんかついてみる。
いつもいつも、私のバレンタインはロー兄のせいでまったく甘くもなんともない!
むしろ、辛い。



「お前のカレーうまい毎日食いたい結婚しよう」
「オエエエエ!やっぱりもう作るの止める」