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俯いて抱く希望

ローがずっと隠していた忌み名をバッファローたちに知られ、そしてそれを聞いたロシナンテさんが彼の手を引き、そして私の手をも引いてファミリーを病気を治す≠ニいう名目で抜け出したのはそれからさらに一年経ってからのことだった。
ローは実はロシナンテさんが話しができるということにかなり驚いていて、そしてそれに驚かなかった私に対しても酷く驚いていたので少し笑ってしまった。

「リナ、お前何で知ってたんだよ…」
「私こっそり教えてあげたじゃない。ロシナンテさんとお話ししたよって。彼は話せるって…。ローが信じてなかっただけでしょ?」
「…いや、そうだったけど…。てっきり筆談したって意味かと…」
「はは。なんだリナ、ローには言っちまってたのか。しかし、ロー。お前女の言う事を信じねえとは駄目な男だな。まあ、そのほうが都合はよかったが…って、熱ィ!!」
「ロシナンテさんまた肩が燃えてる!消火消火!!」
「…てか何でお前コラソンのこと名前で呼んでんだよ…」

火をつけたタバコで引火してしまったロシナンテさんのコートを持っていた布で消火していると、ローが不満げな声でそう言った。私は慌てながらコートを脱いでいるロシナンテさんにくすりと笑顔を浮かべつつ、ローのほうを向いてだってコードネームだから…と言ってやった。
「本当の名前があるのに、コードネームで呼ぶなんて悲しいじゃない」
「…」
その言葉にローはそれ以上は何も言ってこなかったが、ふと私の手の白い箇所を見つめれば「…治せるの…かな?」と小さく呟いてきた。
私の手と同じ大きさをしたローの手が白い部分を隠すように包み込む。「どうだろう…」。全く見当もつかないその事に私も同じく小さく呟き返せば、そこにやってきたのはロシナンテさんの大きな手で、それは私とロー二人分の手をいとも容易く包み込んだ。
「治せるさ」
そう言った彼に、ローはすぐさま「触るな!」と怒鳴り、私は彼にふふっと笑い返した。
そして、そんな私たち三人の旅が始まった。


それから、行く先々の病院でローも私も酷いとしか言いようのない仕打ちを受け続けた。
ローはその度に傷付いて涙を流していた。
私もまた泣いたけれど、ロシナンテさんはそんな私の涙をいつも拭って励ましてくれた。
ある時は眠っている私たちに自分が涙を浮かべながら「ごめんなぁ」と謝ってきてくれた。
私たちはその時目を覚ましていて、お互いその言葉を聞いて布団の中で二人して隠れて泣いてしまった。
ローがようやくロシナンテさんに打ち解けたのはその日からだった。
そして次の日から私がロシナンテさんの左側に立って、ローは反対の右側に立った。
手を繋ぐにはロシナンテさんの背は高すぎて届かなかったから、私たちはコートを掴んで、そうやって三人並んで歩いた。
その後も相変わらずいい病院には巡り会えず終いだったけれど、私たちはもう泣かなかったし、哀しくはならなかった。



「辛いか?」



ある日の夜、止まらない寒気に一人震えていた矢先、毛布をかけてくれながらロシナンテさんがそう言った。ローは寝ていて、私は一人眠れずに起きていた。
私はその言葉に首を振って身を起こし、ロシナンテさんが戻っていった先に歩み寄って側に座り直す。
ロシナンテさんはたき火の側で海図を見ていて、私はそれを一緒になって眺めた。何かを書き込んだ海図の横には電伝虫も置いてあった。


「ローは政府も海兵も大嫌いだよ」


私がそれらを見てそう言うと、私を見つめるロシナンテさんはフ…と苦笑いを浮かべた。「…いつか上手に言い訳しねぇとなぁ」。そしてそう言った。私はロシナンテさんが海兵だということをずっと前に教えてもらっていた。『皆には内緒な』…と、いつぞや同様そう付け加えられながら。けれどロシナンテさんはローにはそうじゃない、と嘘をついている。

「どうして私には本当の事ばかりを教えてくれるの?」
「…どうしてだろうな。…リナには…嘘をついたらいけない気がしてんだ」
「…そう」
「お前は酷ぇ処遇も容易く受け入れちまうから」
「…」
「だからせめて俺くらいは…リナに嘘なんてつかずにありのままでありてえのかな」
「…」
「なあ、リナ。ドフィの言ったことは忘れればいい。…お前はローがいるから生かされているわけじゃ…もうないんだからな。これからはリナは自分のために生きて、自分がやりたいことをすればいい」

その言葉に私は目を伏せかけた。
ドフラミンゴさんが顔を合わせてくれた時に必ず言ってきた言葉。
『お前はローを支えてりゃいい』
それにはいつだって続き≠ェあった。
『ローがいなきゃ、お前は生かす価値もねえ』
…と。
ドフラミンゴさんは必ずそう言って、私を冷たく笑って見下ろしていたのだ。
事実その通りだと思っていたから哀しくはなかった。その時の私には例え歪んでいたとしてもローのような生きる目的もなければ希望もない、空っぽの人間だったから。
だからそう言われて、ローのためになることばかりを考えていた。
だからそんな私にその他にやりたいことを、と言われてもすぐには思いつかなかった。
私はロシナンテさんをまっすぐに見つめた。

「…何がしたいのか…わからないよ。それにそれがわかる前に死んじゃうかもしれないし…」
「哀しいことを言うなぁ。まだ若いのに。…本当に何もねえのか?将来の夢が一つくらいはあっただろ」
「…本当に小さかったころの夢はローと同じでお医者さんだった」
「ならなろう」
「なれない。…勉強嫌い」
「そりゃ致命的だな…。他には?」
じ…とこちらを微笑みながら見つめて辛抱強くそう聞いてくれるロシナンテさんに、私はローと一緒に約束し合ったもう一つの夢を思い出してはみるも、ちょっとだけ躊躇った。けれど、言ってみた。
私の震えはずっと治まらなくて熱もあるようだった。
だからなんとなくわかった。
…私の死期はきっと近いんだという事が。
だから恥ずかしい事も難なく言える気がした。
ロシナンテさんはそれを聞けば、決してそれをからかうことなくからりと明るく笑ってくれた。

「ハハ!そりゃあいい。一番叶えやすいかもしれねえぞ!」
「…そうかな?…ローはもう忘れてると思うよ」
「なら思い出させてやればいい。…いや、いずれ向こうが思い出すさ。リナは必ずきれいに育つだろうから」
「え?本当に?私…将来きれいになれると思う?」
「ああ、なれる!保障する」


その言葉に私は恥ずかしくなって俯いた。


「お前らが俺と同じ年齢になったら…どんな風になるだろうなぁ?」


ロシナンテさんは笑いながらそうも言った。
そして俯いた私の頭を大きな手のひらでそっと撫でた。



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