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ものすごく近くて、
ありえないほど遠い
朝伸びをしながら甲板へ出て行くと、船長が早い時間であるのに珍しく起きてそこにいて、しかもこちらを見るなりこう言ってきたので私は思い切り頭を下げる事しかできなかった。

「リム。お前、その服似合ってるな」
「ハイ!スイマセンでしたぁー!」
「え!?」
「すぐに着替えてきます!!」

私は朝起きたてであったのでハートの海賊団の制服であるツナギをまだ着用しておらず、部屋着のカットソーを着たまま状態だったのだ。迂闊だった失敗です!船長なりの遠回しのその注意に、私は下げた頭を上げると即座にUターンして部屋へと戻った。部屋を一歩出た瞬間からハートの船員であることをしっかり自覚すべし…ってことですよね??!私は慌てて白いツナギに袖をとおしながら馬鹿馬鹿!!と自身の行動を罵った。せめて服装くらい朝イチであってもきちんとしておきなさいよ私の馬鹿!!ここの所船長に何かしら注意・叱責され続けているのだから尚更じゃない!!そう自分に言い聞かせ反省しながらツナギのチャックはきっちりと上まで上げておいた。


船長の私に対する小言が多い…と感じ始めたのはこの間の航海中に敵船と遭遇した時からである。
私はポーラータング号が敵船へと横づけされるなりすぐさま「とりゃー!」…と相手海賊に攻撃をしかけようとしたのだが、あっという間に肩をぐいっと引かれて『お前は下がってろ!』と船長に言われてしまった。
そしてその後場が落ち着いたとき、船長がフー…とため息を小さく吐きながら、
『怪我されたら嫌なんだ』
と言われてしまったので私は『スイマせんでしたー!!』…と慌てて平謝りするしかなかった。
自分の戦闘能力の低さは悲しいくらいに自覚している。怪我をして医者である船長の手を煩わせるわけにはいかない事くらい、考えるまでもなくわかりきったことじゃないか。『…あ。いや、謝ってほしいわけじゃなくてだな…』。船長は不甲斐ない私を慰めようとしてくれたけど、私は『すぐに鍛錬を始めますから!!』と言って彼を振り切り、甲板でサーベルの素振りをすることにして、その後はベポに頼んで体術も教えてもらった。せめて人並の力くらいはつけたかった。
…けれどその努力も虚しく数日後には、
『お前は居てくれるだけでいいな』
と言われた。ショックだった。
『スイマセンでしたー!!!』
『え!?』
うぅ…。ついにはその領域にまで達してしまいましたか…。役立たずの最上級。…まさかの…まさかの空気扱い≠セなんて…。
あれから毎日ペンギンやらベポやらを相手に鍛錬は頑張っているつもりだったのだが、そんなことしても無意味だろ…と言わんばかりに船長にそう宣告されてしまったからもうお終いである。
空気は空気でも酸素≠ネらまだマシだけど、もしも二酸化炭素的に思われていたら??私は船長の窒息要因!??一体どうしたらいいんだろう…。
だから私はその後『せめて人≠ノなります!!』とだけは船長に伝え、甲板の片隅に隠れながらガックリ肩を落とすしかなかった。ペンギンはそんな私に怖いくらい美しく微笑んでくれながら『空気?ならお前は成分的には窒素≠セから大丈夫サ♪』と、よくわからないフォローをしてきた。意味不明だよ。だって窒素は一番大気中の比率が多いんだゾ!…とかなんとか言われても…。いやいや、言ってることワケわからないしそれに待ってよだって空気、だよ?!実体無いんだよ?!目にも見えないんだよ味もしないんだよ!??そう扱われたらヘコむしかないでしょうが!


しかしその後も船長は私に追い打ちをかけるみたいにして、顔を合わせるたびに私のダメな所をやんわり注意してきてた。

『リム。きれいな髪してんな』
『スイマセンでしたー!!!!』
『え!?』
そうですよね邪魔ですよね!長くても何にも役立たないですよね!!ごめんなさい!特に理由もなく伸ばしていましたし惜しくありませんから!
『切ります!』

『癒し系だよ、お前は』
『スイマセンでしたー!!!!!』
『マジかよ…』
海賊なのに腑抜けた顔しててごめんなさい!!私が凄んでも絶対相手をビビらせることなんてできません!しかも覇王色も武装色も見聞色も持っていませんし取得もできなかった!!ごめんなさい!!
『攻撃系になります!』

『お前は料理が上手ェな』
『スイマセンでしたー!!!!!!』
『…ウソだろ』
何で一番の特技が料理なんだろう私!私の立場は何だよ言ってみろや海賊だろうがぁーー!!コックとして採用されたわけじゃないんだから航海術とか剣術とか武術とか悪魔の実の能力を自慢にしろや、って話ですよね!!飾り包丁ができたところでなんなのさ!ごめんなさいー!!
『武器を包丁に変えてみます!』

『リム…あの…』
『スイマセンでしたー!!!!!!!』
『おいまだ何も言ってねぇぞ!』
『言われる前にどうにかします!!』


…。
ついには頭を下げ続けたせいで首が痛くなるまでに至った。それに、そこまで指摘される量が多いと直しますから修正しますから…なんて到底難しい気がして頭まで痛くなる始末。
もう黒魔術でも何でも駆使していっそ新しい人間に生まれ変わりたい。そんな能力者がいたら会いに行かせてもらおうか?そう思いながら、コックさんにお願いされたので嫌とも言えず(むしろ嬉しい)昼食の準備を手伝っている私。嗚呼、自分のこの手際の良さを心底呪ってしまうわ。炊き上がったご飯をあっという間におにぎりにしていくこの姿を船長に見られてしまったら『もうお前いっそコック助手にでもなってろ』だなんて言われてしまうかもしれない。

そしてそうこうしていたら食堂に仲間たちが食事をとりにやってきた。船長も、だ。私は出来上がった船長の食事をトレイに載せて恐る恐る彼の座った席へとそれを運んだ。船長はトレイを見て、次いで私を見るとニ…と笑って言った。
「リムが握ってくれたのか?」
ホラきたぁ!!私はその言葉に思わずビクついてしまう。
「は、はい!」
「そうか。旨そうだな。…あ!おいお前!謝るんじゃねぇぞ?!…どうしてそうなるのか全く意味がわからねぇが別に責めてるわけじゃねぇんだからな…」
「はいスイマッッ……へ?!」
船長の台詞に、おにぎり作成能力が無駄に高くてスイマセン!!…と謝ろうとした矢先だったのだが、何故か素早くそう言われたので思わず下げかけた頭を止めた。
私が恐々顔を上げて船長の顔を窺うと、彼は困ったような表情を浮かべて私を見つつ「俺の発言を、だな。深読みするのを、だな。止めろ」そうゆっくり言い聞かせるように言ってくる。

「単純に解釈してくれりゃいいんだよ…」
「単純に…ですか」
「ああ」
「…は、はぁ。わかりました。やってみます」
「お前のおにぎりは旨そうだ、と俺は言ったんだ。それ以外の意味は何もねぇ」
「…はい…。きっとおいしいと思います…。そう!だってウオヌマアイランドでとれたお米ですよ!ウオヌマですよウオヌマ!!キングオブライスです!私的に!!」
「よ、よくわからねぇがそうなのか。ちなみに具は何だ?」
「シャケです」
「そうか。嬉しいな。俺の好きな具材だ」
「わぁ!それはよかった!!」

私が船長の台詞に、ならシャケ入れて正解〜♪と素直に思ってそう言うと、船長は困った顔から嬉しげな笑顔へと表情を変化させた(ついでに言えば思い切りホッとしているようにも見える)。
船長は笑顔を浮かべながら私の作ったおにぎりを一つ口に含み、満足そうな顔をしてそれを咀嚼するとすぐさま二個目に手を伸ばしている。

「いくらでも食えそうだ」

船長はそう言って私に向かってまた笑った。そして私がそれに対してもよかった…と笑い返していると、船長は目を細めて口角を更に上げれば自分の手をおもむろにこちらへと伸ばしてきて私の手を何故か握った。「おい…リム」。そう言って手を引きつつ、隣の椅子へと私を座らせながら小さな声でそっと言った。

「今ならいけそう、だな」
「はい?」
「いい加減…、気付いてくれねぇか?」
「ん?」
「お前がそんなんだから、ずっと満たされねぇ気持ちを抱かされてんだ。どうにかしろ」
「え?」
「わかるだろ?」
「は?」

耳元で、私だけにしか聞こえないような音量でそう言われる。気付け?満たされない気持ち?どういう事だろうか。
言葉のままその意味を考えても船長の言いたいことが全く分からなくて、うーん…と思わず唸ってしまう。やっぱり多少の深読みが必要??そう思っていると船長は握り締めていた私の手をクス…と笑いながら見つめ「お前…小さい手してるな」…と、指先で手の甲をそっと撫でながら言った。

「小さい…」

そう言われて私は手を一瞥する。すると視界の端に船長の朝食のトレイがちらりと映った。ハッ!!そこで…私は気付いた。気付いて……しまった!!
手が小さい…。
さっき船長が言った、おにぎりをいくらでも食べられる…という発言。
気付け…と言ったこと。
満たされない…とも言った。
それらが総じて示すものとは………あああ!!そういうことか!!!どうしよう全く気が付かなかった!!失態だった!!


「スイマセンでしたー!!」


私は目の前の船長にやっぱりそう言って思い切り深く頭を下げた。「ハ、ハァ!?何でだよ!?」。船長はそんな私に軽い悲鳴に似た声でそう言っている。私は船長の手を振りほどくと自身の手をわなわなと見つめながらぎゅ…とそれを握りしめた。そして私も叫んだ。

「確かに手…小さいですよね…。だから…おにぎり…そのサイズでしか握れなくてゴメンナサイ!!それに気付けなくてゴメンナサイ!!これで精一杯だったんです!!でももっと精進しますから!!一個でもお腹満たせるように頑張りますから!!本当にゴメンナサイ!!」
「いや待て!!意味がわからねぇ!!確かにこのおにぎりは小せぇが俺は別に怒ってはいないんだ!!何でそうなる!!??」
「やっぱり小さいんですね!!」
「いや、そういう事じゃねえ!!おいリム!待てェエエ!!」

私は自分の手を泣きそうになりながらもう一度見つめると、船長に背を向けて急いで食堂から退散した。
まさか手の小ささまで指摘されるとは思わなかったよ。確かに船長は大きなおにぎりをバクッと豪快に食べるのが好きそうだ。どうしよう!手を大きくなんて…こればかりはどんなに頑張ってもできるわけがない!!こうなったら……しゅ、修行…修行だ!日々行っている剣や体術の特訓に加えて大きなおにぎりを握れる練習をこれから毎日しなくては!!『マンガワノ国昔話』に出てくるような、大きすぎるだろ!っていうおばあさんの作る握り飯を再現できるくらいに…ならなくては!!!!


・・・


「…あーーー。私…いらない子なのかなぁ…この船のクルーとして。船長に怒られてばっかりだしさぁ…。もうどうしよ…」


逃げた先の甲板の片隅にてハァ…と肩を落とす私に、ペンギンたちはやっぱり不自然なくらい美しい微笑みを浮かべながら「いらない子じゃねぇよ♪大丈夫サ♪」と軽く言うので彼らってば本当にいい加減だし呑気でしかない。あのさぁ!もしもここから追い出されたりしたら私には死活問題なんだよ!?他に行く当てなんかないんだからもっと真剣に相談にのってよ!!
そう思いつつペンギンを睨みつけると、彼はイッヒッヒ…と気色悪くすら聞こえる笑い声を出しながら「お前のお陰で俺ら毎日楽しくてたまらねぇのヨ!」と言い、隣のシャチやベポとうんうん頷き合っている。

「ハァ!?何それ!!?私ちっとも楽しくないんだけど!!日々反省と努力でいっぱいいっぱいなんだよ!?」
「まあまあ〜。俺らもうちょっと見守り専門で行くからサ♪これからもその調子で…ヒッヒッヒ…ぶっとんだ対応し続けて俺らを楽しませてくれよナ!」
「えええ?!何それ意味が分からない!」

そう言って私の不幸をニヤニヤ笑っている彼らが…本当に憎たらしいよ!!なので思わずこのやろーー!!と拳を振り上げ奴らを一発殴ってやろうとしたが、なんとその腕が後ろからガシリ…掴まれて止められた。
「お♪船長」
「ワァアア!せ、船長!ススス、スイマセンでしたー!!」
私はギャー!と船長を見るなり軽く絶叫した。
あああ。終わりだ。クルーへの暴力を未遂ではあるが船長に見られちゃった!仲間同士の諍いはご法度というこの船でこれ見られたらヤバイんじゃね?!ワタシ!!
「おい…待てって言ったろリム…」
しかも!!ああ!ほら船長なんだか怒ってる!すぐ謝ったしまだペンギンを殴ってなかったけどすっごい怒ってる!!どうしよう!!もう駄目だ!このタイミングでいきなり解雇通告されたり…する!?やめてやめて!こんな海の真ん中で放り出すとかヤメテー!海王類or海獣の餌ジエンドとかナイよ嫌だよ!

「スイマセン本当にスイマセン!!以後気を付けますので本当にスイマセン!!」
「謝るなっつったろうが!!顔下げずにしっかり上げてろ!よく聞けよリム!!いいか?!俺はお前が好きなんだよ!何で伝わらねェんだよこの馬鹿が!!!」
「ッッ!!」

とんでもなく焦っているのか、まるで怒鳴られるみたいにしてそう言われた。
ヒャッハー!!!
側にいたペンギンやシャチやベポは船長の言葉に全員あっという間に顔を紅潮させ、口を大きく開け放してうわーってなってる。
そして私は…と言えばその台詞が脳内へ入って来るなり、やっぱりすぐさま頭を下げて謝罪の言葉を告げれば彼らに背を向けてこの場から猛ダッシュして逃げていた。
ゴメンナサイ船長!私みたいな味噌っかすがこの船のトップである船長に対して……。ううう。明日からどうやって生きていけばいいんだろう??思わずと言えど気持ちをバラしてしまった以上いつにも増して生活しづらくなってしまったよ失敗でしかない!


「ハイ!スイマセンでしたーー!!私も好きですゴメンナサイ!!!下っ端のくせして立場もわきまえずこんな思いを抱いてしまっててゴメンナサイ!!反省してきます!!」
「え!?お、おい!どこへ何しに行く気だ!??待てェエエ!!リム!!!」
「「「嘘だろ??♪」」」



おわる!






匿名さんへあとがき

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