千葉くんと速水さんで放課後練習
最初に対先生用のナイフと銃を渡された時、私は少し戸惑っていた。
本当に効果があるのか、ていうかそもそも私達E組がなんでこんなことするのか。
…まぁそういう疑問に関しては皆思ってたと思うし実際最初はよく分からなかった。
もし転機があるとすれば、途中で体育が烏間先生に代わった頃。だと思う。
最初は使い慣れて無かった射撃の腕が気付けば女子1位というところまで来ていた。勿論レベルはまだまだ低いが私が見出した…ある種の活路だと感じた。
それは千葉くんも同じだと思っている。射撃男子1位。その点では確実に私のライバルだと勝手に思っていた。
だから。
「なぁ、放課後ヒマ?」
…前原くんですかアナタは。
そう言いたくなった。
「暇だけど、何」
「烏間先生が新しく動く的を作ったみたいでさ。ちょっと試しに撃ちに行きたいなって」
「一人でいけば?」
「いいじゃん、速水さんも気になるだろ?」
う、と言葉がつまる。
新しい的というからにはきっと難易度も上がっているはず。先生はまず止まってるはずが無いし、最低限動く的にはビシバシ当てないといけない。
「…ちょっとだけね」
「じゃあ決まり。行こうぜ」
千葉くんは時々強引なところがあるのでは無いだろうか。決して悪い意味では無いが、変な奴だなと思う。
さて裏庭で烏間先生特製の新しい的で射撃練習を開始する。
「……」
「……」
無言である。
当たり前だ、練習なんかに私語はいらない。結果が必要だから。
私達に言葉はいらない。
黙々と目の前にある的に、当てる。当てる。
「「……あ、」」
パンッと変な音がした。
…ついでに声が揃ってしまった。
「…ぶつけられた」
「どう見ても今のは千葉くんが当てて来たでしょ」
「まだそこまで撃てないし。たまたま」
「…ハァ。もういいや、今日は終わろう」
「だな」
あんな小さな弾がぶつかることなんてあるのかって言いたいがまぁそんなこともあるだろう。
呆気なく集中力が途切れてしまい、私はさっさと荷物を持ってその場を後にした。
「待って、」
不意に声がかけられた。
「…何?」
「やっぱ思ったんだけど、速水さんの射撃ってすげーな」
…突然すぎて思わず目を見開いた。
「何でそう思ったの?」
「いや、何かこう…間近で見たらさ、あーやっぱ凄いなってなっただけで」
「そりゃどうもね。まぁ千葉くんも凄いと思うよ、私なんかまだまだ…」
そこまで言って、私はふと視線を横へやった。
「…一緒に帰るなんて言ってないけど」
「頼んでも無いよ?」
「うるさい」
彼は口元だけにやっとさせて私を見ていた。ちゃっかり隣に並んでいるのも気のせいじゃないようだ。
「今日、やたらと絡んでくるわね」
「あー…、うん」
「何かあったの」
「いんや。…まぁ、強いて言うなら、」
速水さんと二人でいるのって楽しいなーと思って。
「…うるさい」
小さく私は呟く。
結局一緒に帰ったけどマトモに顔を見ることは出来なかった。
…気のせい、だと思いたい。