暗黒微笑な件について
「あ!氷室くん、大丈夫だった?」
氷室先輩に支えられながら農家に戻ると、ふわ巻先輩が氷室先輩に近づいた。ちょ、私睨まれたんだけど。
「大丈夫ですよ」
「良かったぁ、この子のせいで手に怪我でもしたらバスケに支障が出るもんねぇ」
ちら、とこちらを見る。
確かに言うとおりだ、手が大切なのは一目瞭然。木の枝とかで傷付いていなければいいんだけど。
「……すいません、」
「本当に感謝しなさいよ、1年のくせによくそんな迷惑かけれるわね」
「片桐さん、」
言葉を制したのは氷室先輩だった。
どうやらふわ巻先輩の名前は片桐先輩と言うらしい。へぇ。
「僕が勝手に助けに行ったんです、だから怪我してようと僕の責任です」
「でも、」
「あぁ。それと、」
氷室先輩は笑顔だった。
ただ、敢えて中二病っぽく表記するなら(暗黒微笑)というやつだ。ものすごく、笑顔が怖いと感じる……そんな笑顔だった。
さすがの片桐先輩も驚いたのか肩をびくつかせ、怯えている様子だ。
「久田さんは、俺の、大切な後輩なんです。あまりいじめ無いでもらえますか?」
氷室先輩はそう冷たく言い放った。ただし、(暗黒微笑)だったが。
さすがの片桐先輩も舌打ちをし、その場からさっさと離れてしまった。少しだけ申し訳なくなったが…というか、それより。
「あの、氷室先輩」
「ん?」
「手、本当に怪我してませんか?」
「してないと言えば嘘になるかな。実は軽く切っちゃってて。まぁでもすぐに治るよ」
……やってしまった。
「すいません、氷室先輩は……その、バスケ部の人なのに、」
「気にしなくていいよ別に」
「だめです。気にします。私の責任です」
「え、だから大丈…」
「あれ?氷室先輩、包帯とか巻きたくないんですか?」
少しだけ意地悪く、そう言ってやった。
氷室先輩はぴたりと動きを止め、こっちを見た。目が一段と輝いているのは気のせいだと信じたい。
「……巻いてみたい」
「なら話は早いですね。どうせ私の足も巻くと思うんで、余った分で氷室先輩の怪我の手当、やらせて下さいね」
「じゃ、じゃあ手に魔法陣とか描いてもいいかい…?」
「好きにしてください」
やった、と言わんばかりに氷室先輩がにこやかになった。さっきまでの暗黒微笑はどこへ。
「ありがとう、久田さん!」
まぁ嬉しそうだし、こっちもお返しができるし、いっか。
こうして今回の奉仕活動日は幕を閉じたのであった。