まるで騎士な件について
さて、どうしたものか。
足を滑らしたというのに何故か頭は冷静だった。くじいたのだろうか、右足が痛むがそれ以上にこの状況をどうしようかと考える。
納屋に行くのは私だけだったわけで、しかも作業してた場所からは遠いからきっと声を上げても気付かれないだろう。となると、時間が経つまで待つか。
「んー…崖を上る…無理か、」
まず立ち上がれないなとふと考える。それから、大きくため息をつく。
諦めよう。
時間が解決するだろう。多分。
そう思って私は目をそっと閉じた。
ふと目が覚めると、どこからか温かい光が差していた。
太陽が赤く染まっていて、あぁもうこんな時間かと私は一人思う。そしてようやく、自分が寝ていたことに気付いた。
…寝るとか私、よくやるよ、こんな時に。
そう思ってちらりと右足を見る。挫いたその足首は靴下の上から見ても分かるくらい、いつの間にか内出血が広がっていた。
しかしこんな夕方にもなると、さすがに藍子くらいは心配になって探しに来てくれるんじゃないだろうかと思って、私は視線を左にやった。
左にやると、そこには。
「……氷室先輩……?」
思わず、声を発してしまった。
左手側の崖下には、何と氷室先輩が汗を流してこちらを見下ろしていたのだ。
「…見つけた」
そして彼はそう言った。
「えっと、…」
「まさかここで寝てるとはね。納屋まで走ったけどいなかったから探したら…まさかこんな所にいたなんて」
「え?あの、」
「普通こんな所で、女の子が寝るものじゃあないよ」
氷室先輩はそう言って、私の傍にやってきてしゃがみ込んだ。
思わずぼーっと、その顔を見上げる。幻かと思うくらい見つめてしまった。
「帰ろう、皆心配している」
「あ、あの」
「ん?」
「…探しに来てくれたんですか?」
「そうだよ」
にこりと、氷室先輩は優しく微笑んで私に手を差し出した。
その手を取ると、彼は私を軽く支えながら立たしてくれた。何か、申し訳無くなってきた。
「…あの、よくここが分かりましたよね?上からじゃ死角になってると思うんですけど」
「あぁ、それね。実はあのカラスが僕に教えてくれたんだよ」
「……」
…やっぱりそういうところは直ってないようだ。
「あの、お願いですから他の人にそんなこと言わないで下さいよ」
「大丈夫、久田さんの前でしか言わないから」
「バスケ中に言ってたりしてないですよね?」
「……」
「ちょっと、氷室先輩」
「アハハ、ごめん、そうだね、気をつけるよ」
…バスケ部の人に言われてることを言っても良かったのだけれど。しばらくはこうでもいっかな、とか思ったり。
多分そう考えるくらい、私は今、少し浮かれてるんだと思う。
「氷室先輩、」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとうございました」
「僕は中世ヨーロッパで活躍した騎士の生まれ変わりなのだからね。姫を助けて当たり前でしょ」
「うわぁ…」
あぁ、こんな会話でさえ、嬉しく思ってしまう。