だがしかしイケメンな件について
この人の一番凄いとこって、きっとあれだわ、皆の前ではこんなことしないってとこだと思う。
中二病という自覚は無いらしいんだけどまぁやっぱり恥ずかしいらしくて。だから皆の前ではカッコいい氷室先輩、である。それは私も例外じゃない。
前友達と歩いていると、氷室さんが向かいからやって来るのが見えた。友達はそれだけでハイテンションなわけで。
「やば!氷室先輩だ!」
「どうしよう超カッコいい!」
いや、うん、カッコいいよ?
けどあの姿を知っている私にとってはもうただの中二病患者にしか見えなくて。
携帯の待ち受けもルシフェルとか言う天使とか言われていよいよ大丈夫かと思ってたくらいだ。カッコいいのに何故こんなにも勿体ないのか。
そう思って私は友人の話を適当に流してそのまま通ろうとした、その時。
「…ぁ、」
カシャンとペンが鳴る。筆箱を落とした私はあたりにシャーペンやら何やらを振りまいてしまった。
あー…これシャー芯折れたなと思ってしゃがむと。
何故か同じように、向かいには氷室さんがしゃがんでいたのだ。
「大丈夫?」
「え、あー、…ハイ」
「これだけかな、あ、このペンも君の?」
「あ、ありがとうございます」
なんと紳士なのか。こりゃ女子なら惚れるわ。とか思いながら私はペンを受け取った。
その様子を見ていた氷室さんが、おもむろに私の顔をのぞき込んだ。
「……何でしょう」
「……ねぇ」
「?」
「……このキーホルダー、どこで手に入れたの?」
キーホルダー?
そう思って筆箱を見る。いわゆるレプリカの羽のキーホルダーなわけだが。え?
「……いりますか?」
「え?」
「お礼ってことで。変なことに使わないならあげますよ」
そう言って私はキーホルダーを外して彼に手渡した。
氷室さんはそれを受け取り、そして最上級の笑顔で私に礼を述べた。
「ありがとう」
……ちくしょう。イケメンのくせに。
思わずそれに見惚れそうになり、急いでそれをかき消した。この人ほしい言ったの羽だからね。どうせ天使がどうこう言うんだから。
彼はその場から嬉しそうに立ち上がって去っていった。後ろで見ていた友達が羨ましそうに私に色々言ってきたけど知らないフリ。
何となく、このことを知ってるのは私と氷室さんだけでいいと思ってしまった。